おりひか いくお
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- 自己紹介 一介のシステム屋。Perl、JavaScript、Cygwin32を常用。漫画乱読。野宿旅行、食べ歩き、路上観察が好きです。HOLON協会(1994~)、南洋文芸通信社(1995~)、鷺ノ宮八穴手帳倶楽部(2006~)、日本手帖の会(2011~)。文好部 No.256
2013年04月17日(水)
この辺りでは見かけない瞳の色をした男が、町はずれに何か怪しい店を出したらしい。噂は瞬く間に広がり、誰もが胡散臭そうに遠巻きにする中、町長の娘は好奇心に勝てずその店を訪れた。薄暗い店内と陰鬱な店主の男の表情とは裏腹に、店内には見たことのない透き通った輝きの石が並べられていた。
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ねえ、貴方はどこから来たの?問う娘に男は答える。遥か昔に消えた星の出身で、ここの石は全部その欠片であること。ただ一人生き残った男は全ての呪いをその身に受け、これらの石を一つ残らず必要な人に売るまで死ねないということ。見た目は年若い青年なのに、男はもう何世紀も生きているのだと言う。
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posted at 00:53:09
それを聞いた娘は男を無理やり婿にし、石を取り上げ、一切の商売を禁じた。母を亡くし父を亡くし兄を亡くし、養父の悪習に見ないふりをし
続け、賢しいことばかりを繰り返した娘は孤独だった。だから自分より先に死なない長く生きる男が欲しかった。自分のために、その死なない男が欲しかったのだ。
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男は泣いて叫んで、頼むから石を売らせておくれと懇願した。しかし娘の孤独に触れ、何百年も一人歩き続けた自分のそれに痛みを重ね、ほんの数十年を娘にくれてやる決意をする。娘と男はかりそめの夫婦であったが、それでもお互いの寂しさを分かちあい、時に寝床を温めあい、二人で日々を生きた。
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posted at 00:54:08
普通の少女であった娘は、時が経ちやがて老婆となった。死の間際、娘はしわしわの手で男に金を差し出す。この金でお前のあの石を全て売っておくれ。男は震える手で金を受け取り、かつて美しい娘だった人を腕に抱く。そして二人は死んだ。そのちぐはぐな夫婦の姿は、町民には愛のように見えたのだった。
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posted at 00:54:35