にょんギツネ
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2022年07月08日(金)
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「そうか…邪魔をしたな」
騎士は立ち上がると、くるりと背を向け、玄関に向かおうとする。
「どうかお留まりを…ここはウォルドー様の館…かたかたかたかたかたかた…ではない。私の家です…待って…待ちなさい」
乙女はぜえぜえと息を吐きながら手を上げて制する。
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posted at 00:01:39
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「どこへ…行くつもり…ですか」
「…野営できる場所を探す」
「ここは…街の中だから…無理…キャンプ場は…遠いし…」
「構わん」
「だめ…身分証がなければ…利用できないから…ちゃんと…聞いて…まず…」
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posted at 00:05:00
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水を飲まなくては。会社を出てから何も飲んでいない。日戸氏はよろよろと立ち上がり、冷蔵庫に近づく。竹炭濾過した水道水を入れたボトルを出そうとし、騎士がすぐ真後ろにいるのに気付く。
「あ…ぅっ…」
「魔法は」
「う…」
魔法。魔法にかかっていたら、魔物になるんだったか。魔物になると
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posted at 00:07:06
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騎士が仕留める。そんな馬鹿な。聖女と間違われたあげく魔物に変えられて殺されるだなんて。
「…離れなさい…どうぞウォルドー様の望みのままに…この身のすべては…ウォルドー様ままままま…とは関係なく私のものなので…あと三歩離れて下さい」
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posted at 00:08:50
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ウォルドーは三歩下がって壁に背をぶつけた。嫌味か。部屋が狭いという。千賀子は歯ぎしりしながらボトルを取り出し、喇叭のみしようとしてから、息を吐くと、自分と客用のグラスを出して、台所に置き、順番に水をそそぎ、片方を差し出した。
「ぎ…よければどうぞ」
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posted at 00:11:22
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千賀子はグラスを傾けて乾いた喉を潤しながら、ウォルドーのかんばせを見上げた。
渦巻くような鬚が頬から顎までをおおっていて、神社の狛犬か獅子のようだ。双眸は大きく鋭く、冷たいが、単にそういう目つきかもしれなかった。
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posted at 00:16:17
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獅子鼻、頑丈そうな広い顎。特徴ははっきりしているが、しかし何人、何民族と言い当てられそうもない。
「もし必要がないなら…かぶりものや…よろい?は脱いでくつろがれて…いえ…家具が傷つくので…」
乙女の申し出に、騎士はまたうなり、なにやら右手の指を拡げ、にらみつけてから、
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posted at 00:19:57
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千賀子は解ったような解らないような面持ちになってから、とりあえず倒れている食卓を戻そうとした。
するとウォルドーが丸太のような腕を伸ばして軽々と立て直す。
「…どうも」
「ふん…」
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posted at 00:27:39
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家主が椅子を勧めると、招かれざる客は素直に座る。巨漢の重みを受け止めきれないのか、嫌な軋みをさせているが、すぐに壊れはしなさそうだ。
「お食事は召し上がり…りりりり…何か食べます?私これから夕食なんで」
「……………馳走になる」
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posted at 00:29:32
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買い置きのパンとハムとチーズとトマトとピクルスでサンドイッチを作った。できるだけ量を多くしたつもりだったが一瞬で消えた。
千賀子が、コーヒーを勧めるとウォルドーは飲んだことはないようだが特に拒まずまたひと口で干した。
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posted at 00:31:00
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非公開
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「お口に合いましたかかかか…足りました?」
「…馳走になった」
鬚もじゃの武者のぶっきらぼうな礼に、婦人は体の芯が蕩けそうになるのをこらえて、深呼吸する。
「警察や…滞在許可のことは…明日考えましょう。私疲れているんで…臥所はあちらです…狭く貧しい部屋ですが…どうぞぞぞぞ…」
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posted at 00:37:00
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シャワーの使い方を教えるのが骨だった。
まず沐浴の習慣にあまりなじみがないようだった。汚いな異世界人。
「ウォルドー様…手伝いいたします…ん」
「…?」
「これをひねると水。こちらをひねると湯。これを押すと体の汚れが落ちる液です。こっちが髪の汚れが落ちる液」
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posted at 00:42:11
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Mr.Clice 映像化はありそうなんだけどアニメ化よりもハリウッド実写化のほうが向いてるのでNetflixでお金一杯かけてちょいレトロ風味なスパイアクションコメディにして全世界でヒットしてほしいです
(Netflixは打出の小槌だとおもってる)
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posted at 00:42:54
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「…なに…?何だと…?」
体の部位ごとに数種類の液を使い分けて洗う。しかも毎日。という概念はまったく呑み込めないようだった。
「…やはり千賀子が一緒に手伝いをいたしままままません」
「…?」
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posted at 00:44:53
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ウォルドーはしかし一度の説明ですべてを理解したようで、脱衣所で服を脱ぎ、シャワーを浴び、数種類の液を使い分けたようだった。
しかし巨漢が入ったあとの浴室は、男、というよりは獣じみた匂いが充満していて、換気扇を回してもなかなかとれず、乙女はくらくらした。
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posted at 00:46:59
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とりあえずスマートフォンは防水なので浴室にも持ち込み、常に緊急通報が可能な状態にしておいた。
だが結局しなかった。台所兼食堂兼居間に軽く掃除機をかけてマットレスを敷き、夜の挨拶を済ませると寝室に引き上げた。
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posted at 00:57:12
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すでに日付も変わっていたが、パソコンからリモートオフィスにログインして仕事の準備をしていると、地鳴りのような音が伝わってくる。
何ごとかと思うと、どうやら客のいびきだ。
やれやれ。
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posted at 00:58:57
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眠りに落ちると、夢の中で千賀子は寝間着を脱ぎ捨て、額と下腹を疼かせながら寝床を抜け出し、マットレスからはみ出して寝そべる巨漢の毛むくじゃらの胸板にやわらかい乳房を押し付け、恍惚とあえいだ。
"ウォルドー様"
"チガ…コ…"
野太い指が丸かな尻朶に食い込み、
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posted at 01:03:57
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千賀子が朝食を用意してやるとまたウォルドーはぺろりと平らげる。明らかに量は足りていないようだった。
これからどうするつもりかをあらためて聞いておくと、野営する場所を見つけたあとは、魔物を駆り立てるという。
「どうやって」
「闇の魔物は人を襲う。そうして跡を残す」
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posted at 01:27:52
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「いつどこで誰を襲うかわかるんですか?」
「わからぬ。だが街でも村でも騒ぎになる」
いちおうどれぐらいの人口がいてどれぐらい犯罪が起きて、どれぐらいが立件されているかをおおざっぱに伝える。
「…中原の王国の四百に倍した人の数がいるというのか」
「多分」
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posted at 01:34:55
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中原の王国の宮廷魔導士も近衛騎士もあまり異世界の事情など知らずに場当たりで探索ができると思っていたようだった。あまり深く考えないのが異世界流らしい。
「警察や外務省に連絡した方がいいと思います」
「ふん…」
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posted at 01:37:28
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申し出ると、冷たい目つきで見返してくるが、魔法使いと異なり騎士は全然反対するようすはない。
「でもその場合…ウォルドー様はいったん…」
施設に入れられる。非常によくない施設に。
そう考えると千賀子は迷った。
「…王や身分の高い方が国と国との話し合いをされないのですか」
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posted at 01:39:05
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「聖女のことで忙しかろう…それに王は俺がここにいるのを知らぬ」
「ウォルドー様は近衛騎士…というのは王の家来では?」
「今は宮廷魔導士の預かりだ」
「では宮廷魔導士が国に働き掛けては」
「あやつはやらぬな」
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posted at 01:41:47
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仕事に行く間、家から出ないように。警察に職務質問を受けて、査証や旅券、外国人登録証明書などを携行していないと解ると、半ば縄目につくようにして、非常に悪い場所に連れてゆかれることを説明した。
「獄か」
「もっと悪いところです。非道なところです」
「ふん」
全然恐れていない。大問題だ。
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posted at 01:46:25
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とにかく目立たない衣服を買い揃え、一緒に街へ出て振る舞い方を身に着けるまでは家にいてほしいと告げる。
「私と一緒に行動していればそこまで怪しまれません。闇の魔物についてはもう少し詳しく教えてもらえれば、別の方法で探します」
「…相解った」
素直だ。
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posted at 01:49:10
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そうして千賀子はウォルドーにこの地でのふるまいを教え、ウォルドーは闇の魔物について千賀子に教え、徐々に行動の輪を広げていった。
インターネットやニュースというものがあり闇雲に調べ回らなくても情報を集められることや、わずかでも立場の不確かな外国人が受ける扱いについても分かち合った。
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posted at 01:53:01
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とりあえず身分証なしでも利用できる市民プールや運動場を教えたが、一人でいかせると相当目立つので初めは付き添わざるを得なかった。
男女が一緒に肌を見せて泳ぐのにぎょっとしたようだったが、すぐに水の中を黙々と歩いて周回していた。
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posted at 01:57:40
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何より千賀子自身が以前より元気だった。疲れがあまり体に残らず、仕事を終えても何でもできるような活力がある。仕事を片付け、家事を片付け、さらにSNSやニュースメディアを通じた闇の魔物に関する情報集めももりもりと進められた。
異常なほど頑張りがきく理由は薄々解っていた。
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posted at 02:05:32
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覚醒剤を注射しているような奮闘ぶりを支えているのは、眠りについたあとに見る夢だ。
寝間着を滑り落とし、一糸まとわぬ姿でマットレスからはみ出していびきを掻く巨漢に覆いかぶさる。
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posted at 02:08:04
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すると騎士は乙女を抱きすくめ、荒々しく接吻し、愛撫し、名前を呼んで離そうとしない。
途中で夢うつつながらも踏みとどまろうとすることもあるのだが、毛むくじゃらの腕が伸び抗うのを許さず引き寄せる。
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posted at 02:11:45
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夜明け前に起きて抜け出すのがひと苦労で、微睡のうちにあっても大躯の居候をいっかなたおやな家主を離そうとせず、逃れようとすると不機嫌きわまるうなりを発してきつく拘束する。
完全に覚醒してからのそっけなさとは別人のようだ。
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posted at 02:14:10
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ただの幻惑かと疑いたくもなるが、しかし乳房や脇腹や太腿についた歯型や指痕、吸痕は疑うべくもなく、いずれも職場にいる間中に疼き続ける。何より夜を重ねるごとにわずかずつ下腹の紋様が周囲に広がっているように思うのだ。
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posted at 02:15:56
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しかし服の下は生傷だらけでも溌剌として十代に若返ったようで、ますます鬚もじゃの武者が輝かしく尊く思え、全霊で仕え尽くさねばならないという慕情が沸き起こる。
「…よくない」
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posted at 02:18:07
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椅子に腰かけたウォルドーの傍らに両膝をついて、ワインのボトルを捧げ持ちグラスに酌をしながら、千賀子は明らかにおかしくなっていることに気付いた。
「…こんなこと…」
仕事の付き合いでも目上の異性に酌などしたことない。一度もない。ましてこのとつくにの武者は恐らく年下だ。
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posted at 02:20:18
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「…もう一杯召されませウォルドー様」
「馳走になる」
しかも飲ませているのは千賀子の方なのだ。ウォルドーはどうやら、何か要求すれば逆らうことはほぼない。
「でも…ここまでになさいますか」
「うむ」
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posted at 02:22:07
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対策としてプラスチックの拘束バンドを通販で買った。ベッドに手首を縛り付けるために。
結果としてはある程度まで移動を制限できるが結局は拘束から奇術のように抜けてしまう。そこで片足首も縛った。さらにもう片足首も。
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posted at 02:30:39
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うまくいった。三か所も拘束すると、さすがに抜け出せない。夢の中で切なげに啼きながら乙女は身もだえした。
すると巨漢の方からやってきた。虚ろな眼差しで。しかし鍵のかかったドアは体当たりで破ってしまった。
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posted at 02:32:47
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恐怖と歓喜がいりまじった悲鳴を上げる千賀子にウォルドーは覆いかぶさり、まず接吻を浴びせながら逃れられない獲物の肉を生きたまま食い散らかすようにして貪った。
そうして最後は開いた両足の付け根に鬣(たてがみ)を埋め、開かず叢の奥をねぶり、あふれる蜜と水とを啜り飲んだ。かすれた嬌声が、
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posted at 02:35:02
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「…あの魔法か…」
「ごめ…なさ…」
殺される。闇の魔物になったのだから。千賀子はそう覚悟したが、ウォルドーは腕輪を輝かせて短刀を呼び出すと、細腕や細足をつなぐプラスチックバンドを断った。
それから洗面所にあるタオルを濡らして裸身を拭き清めた。
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posted at 02:41:38
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もはや騎士が触れるだけで、夢魔の肢体はわななき、涙と蜜とをこぼす。
「なぜだ」
「殺…され…」
「なぜ俺をこの地の衛士に引き渡さぬ」
「…あそこ…よくない…ところ…」
「俺は…そなたを使い魔とやらにはせぬぞ…宮廷魔導士が何を企もうとな…一人で片付ける」
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posted at 02:46:10
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それから腕輪を輝かせ、兜と鎖帷子をまとい、外套を翻すと、玄関から出ていった。
どこかで馬のいななきが聞こえ、蹄の音が鳴り響く。だが武装した人馬の姿を目にするものはない。天の高くから見下ろす衛星や、監視カメラにさえもきっと映らないだろう。
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posted at 02:49:32
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なぜなら何の騒ぎも起きなかった。いくらインターネットを漁っても闇の魔物の情報がないように、光の騎士の目撃談も出てこない。
そもそもの何かが根本から間違っていたのだ。千賀子の思案は。
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posted at 02:51:59
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「ウォルドー…さ…ま…」
下腹の文様は広がり続け、乳房の真下、太腿の付け根まではびこっている。
千賀子はまるで飢餓に襲われた人間のように虚ろで無気力になり、仕事もまるで能率を落とし、家事もろくろくしなくなった。壊れた扉の修理さえしないまま。
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posted at 02:54:50
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ただ帰宅すると服を脱ぎ捨て、巨漢の匂いが残るマットレスに裸身を擦りつけながら、夢うつつに野太い指でほられていた双孔をほじり、恋い慕う主人の名を呼んですすり泣くばかり。
「…うー…ぅ…止めなきゃ…止め…止めなきゃ…薬を…」
鎮静剤を飲めば少しはましに。
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posted at 02:56:38
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ならない。透明なねじれ角が二本額から伸び、背からは爆ぜるように蛾の翅が開く。
「がはっ…かはっ…」
もはや胃酸ではない胃酸を吐きながら、夢魔はマットレスを掻きむしってずたずたにすると、
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posted at 02:58:28
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街から街へ。山を飛び越え、川を渡り、一晩の半ばも過ぎぬうちにはるかな遠方まで。
甘い匂いを撒き散らし、眠れる人の子等の夢の中に妖しい幻を掻き起こしながら、羽ばたき、羽ばたき、時折股からは燐を含んだ燃える蜜を垂らし、滴った大地に冷たい火花を散らせ、跡形もなく消え去らせる。
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posted at 03:04:06
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「ウォルドー様…ウォルドー様…」
矢が飛んでくる。黒い羽根のついた。
千賀子は宙で翻ってかわすと、眼下の闇を見おろす。廃墟になったホテルがひとつ。峡谷の縁にうずくまるようにして建っている。
次々と矢が昇ってくる。
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posted at 03:07:22
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小鬼の一匹に肉薄すると揚羽蝶の翅をはばたかせ、鱗粉を吹き付ける。たちまち魔物はどんよりと目を濁らせて眠りに落ちた。
「あはは♥ウォルドー様♥ごらんあれ♥使い魔のチガコがウォルドー様の敵を退治いたしましたぁっ♥」
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posted at 03:11:52
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「ウォルドー様ぁ!ウォルドー様ぁ!御身のために!」
嬌声はしじまを渡り、山塊やビルの鉄筋コンクリートさえ突き抜けて広がり、醒めたものにも微睡むものにも快い痺れをもたらす。官能の漣となって。
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posted at 03:14:48
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「ぐえ…なに…これ…」
まだ、淫らなほとぼりが全身を満たしているが、わずかに正気が戻る。スマートフォンがない。通報できない。なぜ徒手で出てきた。どんな時も緊急連絡手段は必要なのに。
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posted at 03:18:17
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ぞろぞろと小鬼が出てくる。だが持っているのはボウガンではなく、アホみたいな大人の玩具だ。
「だけど夢魔だぞ…」
「なんで夢魔が俺達を襲う…同じ闇の軍勢だろうがよ」
「…裏切り者だ!」
「でも夢魔が相手じゃ勝てっこねえ」
「いや…こいつはひよっこだ」
「でも夢魔だぞ」
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posted at 03:21:34
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「ゲエムで観ただろ!この魔具がありゃ…どんな雌の魔物でも負かせるんだ」
「女神だってだ!」
「雌の近衛騎士だってだ!」
「だけど…ゲエムの通りに作れたかな?」
「作れたはずだ!」
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posted at 03:23:38
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甲高く鳴きながら小鬼はじりじりと夢魔の包囲の輪を狭める。
「あの憎たらしい聖女だってゲエムの教えで、暴龍をやっつけちまったんだ」
「そうだ!ゲエムの教えで暴龍がやっつけられるなら…夢魔だって」
「だけど俺達は聖女じゃねえ」
「うるせえ!夢魔を魔具で負かせたら!聖女だって負かせる!」
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posted at 03:27:04
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「決めたぞ!俺はこいつを女房にする」
「小鬼が?夢魔を?皆殺しにされちまう!」
「いいや!ゲエムの教えがありゃへいきだ!こいつに闇色の目をした小鬼をいっぱい産ませるぞ!」
「闇色の目の小鬼だと!畜生!そりゃ俺が産ませる!」
「俺だ!」
「俺だああ!!」
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posted at 03:31:46
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小鬼はどうやら、おしゃべりがどうしようもなく好きな種族らしかった。
おまけに敵を前にしてつかみ合いの喧嘩もする。互いに持っている大人の玩具で殴り合いも始めた。
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posted at 03:32:33
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千賀子はそろそろと両手両足を動かして後ずさった。だがすぐに鎖に枷を引かれはいつくばる。
「おい!女房のくせに逃げようとはふてえやつだ!」
「ちぇ!とにかくまず腹に小鬼をこさえちまえ!そうすりゃおとなしくなる!」
「よーしそうだ…あの闇色の髪で縄を編んだらきれいだろうなあ…」
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posted at 03:34:42
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こんな間の抜けた奴等に負けるのは本当に悔しかった。
「闇色、闇色って言うけど、この土地にいる人間の大半が闇色の髪に、闇色の目ですよ」
震え声を抑えながらまぜっかえしてみる。
「ありゃすごい。でもお前のはほかより暗い」
「人間じゃなくて夢魔だからな」
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posted at 03:36:42
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「うるさいぞ!このピアスをまず…」
演説しながらチガコに近づいた小鬼がいきなり宙に舞い、錐揉みしながら飛んで行く。
陽炎のように外套が翻り、朧な月明りのごとき毛並みの天馬にまたがった騎士があらわれる。
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posted at 03:40:58
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鳴滝のウォルドー。中原の王国が誇る最強の精鋭。近衛騎士の六十三位。強いんだか弱いんだか。
まあ強い。
「ギョゲエ!近衛騎士だ!」
「ひるむな俺達にはゲエムの魔具が」
斧槍のひとふりで烈風が起き、全員が吹き飛ぶ。
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posted at 03:42:42
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唯一夢魔の首枷につながる鎖を握った小鬼だけが掴まって持ちこたえる。
騎士は駒を進めて、斧槍をふりかぶり、ふりおろし、脳天をかち割る寸前で止める。
「枷を外せ」
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posted at 03:44:47
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もう従うしかない。再び夢魔は揚羽蝶の翅で飛び立つ。
「ウォルドー様♥ウォルドー様♥」
「チガコ…あの魔法はそれほど…」
「あはっ♥皆やっつけます♥ウォルドー様の敵ぃ♥」
「…鎖をよこせ」
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posted at 03:47:07
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騎士が命じると、小鬼は一にも二にもなく従う。
再びウォルドーは枷を千賀子に放つ。魔法の働きが過たず首を捉える。恐るべき魔具。実際聖女にとっても危険な武器だ。
落下する乙女を巨漢が腕でとらえ、鎖を引いて横抱きにする。
「…礼を言う…かたじけない…チガコ殿…」
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posted at 03:50:21
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「…ぜえ…ぜえ…おう…うむ…はい…」
「お力添えなくば…闇の軍勢のたくらみを阻めなかった」
「いや…はい…でも…うん…はい…これで…あとは元に戻れば…それで…よしとしましょう…ウォルドーさん…」
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posted at 03:51:47
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小鬼は生け捕りにして異世界に送還した。
宮廷魔導士によるおぞましい尋問があるだろうが、しかし同情もできない。
「なるほど聖女様がゲエムの叡智を用い闇の軍勢を破るのを目にし、きゃつらもゲエムの叡智を獲ようとしたか…狡猾な…だが…見事に我が術がしのいだな!恋薬の魔法の勝利よ!」
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posted at 03:53:56
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「はやくチガコ殿をもとに戻せ」
「何を解らぬことを。あれほど変化が進んだものが戻るはずもあるまい。さっさと斬り捨てて参れ」
「何?」
「聖なる武具を賜り騎士の誓いを立て、不死の防人となった貴様なればこそ、夢魔に慕われても精気枯れ果てず壮健でいられるのだ。並大抵の魔物ではないぞ」
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posted at 03:56:33
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「何を言っている。チガコ殿はたまたま聖女と間違われただけの市井のもの。何の咎もない。斬り捨てる道理がない」
「もはや夢魔だ」
「それは禁術を…」
「しっ…声が高い…よいか…闇の軍勢において危険な敵である夢魔を…蛮種から作って使い魔にできたのは僥倖…いや我が英才…しかし…」
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posted at 03:59:24
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「聞く耳持たぬ」
「忠義があるなら聞け。不死の貴様が去れば、いずれ上飢えに耐えきれず狂った夢魔は異世界を食い荒らし、貴様を求めて世界の間を超え、中原の王国を襲わぬとも限らぬ」
「…すべて禁術の…」
「しーっ…よいか。幸いあの蛮種はきわめて意志が強く、夢魔の性をまだ抑えている」
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posted at 04:01:54
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「ならば」
「さらに恋薬の魔法とはいえ、貴様に一途に恋し、忠義を尽くす気持ちでいる。夢魔の深情けに加え、元からの心根があろう。貴様ならば労せず斬れる」
「…」
「王への忠義のためだ」
「お前を斬る方が忠義だ」
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posted at 04:04:11
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騎士はぼそりと言い捨てると、魔法使いは薄笑い、やがて真顔になった。
「まさか、貴様も蛮種に惚れたのではあるまいな」
「道理が通らぬ」
「…ふーむ…いや…六十三位とはいえ近衛騎士と…やつがれが事を構える訳にはいかぬ…さようか…ならばこうだ」
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posted at 04:06:03
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「あの蛮種は法だのなんだのと理屈は申せ、貴様には逆らわぬ。うまく飼い慣らして使い魔として操るのだ。さすれば異世界に潜り込まんとする闇の軍勢をあぶりだし、聖女様への害を防げよう」
「…下衆が」
「飼い慣らすか斬るか。二つに一つ。貴様にできぬならほかの騎士に命じるまで」
「…っおのれ」
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posted at 04:08:58
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ウォルドーは折れた。宮廷魔導士は小鬼からあれこれ没収した品々を授けた。めくらましの魔法を組み込んだ精巧な偽造身分証の類や、例の魔具などにさらに術をかけて使いやすくした。
「貴様の血を垂らすとほれこの棒は貴様の陽根のかたちや大きさをかたどるように…うわ…でか…なんぞこれおぞましや」
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posted at 04:13:02
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「…」
「とにかく小鬼がゲエムをもとに作った魔具のできばえを調べるにもよい。夢魔さえひしぐならば有利になろう」
「チガコ殿にこれを…」
「夢魔の性を抑えるためだ。慈悲だぞ。それとあの法だとか理だとか、蛮種らしい生意気な態度を矯めきって従順な召使になったら、王国に連れ帰ってもよい」
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posted at 04:15:29
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「王国にだと」
「闇の軍勢との戦に役立とう。まあ故地を捨てるのを承知するまで飼い慣らしたらだぞ。初めて聖女と誤って召喚した際はまこと嫌がっていたのだしたやすくはあるまい」
「ふん」
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posted at 04:17:00
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という訳でウォルドーは千賀子のそばに留まった。当面は。
「元には戻らない?」
「ああ」
「え?冗談はやめて下さいね。どういうつもりなんですか…何の同意もなかったですよね」
「うむ…」
「っそ…」
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posted at 04:19:31
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首枷をはめる。抵抗しなくなる。騎士の腕輪と同じく、華奢なチョーカーのように目立たない形に加工してあり、鎖は糸のように細く胸の谷間に入れてしまえばブラウスの下に隠せる。
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posted at 04:21:23
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「これで抑えられる」
「抑えられる?抑えられるってこれ…私は犬猫じゃないんですよ???ウォルドー様のしもべで…違う。この…何てことを…」
「しもべではない」
「…当たり前でしょうが…私は…私は…家主なんだから」
「ふん…」
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posted at 04:23:28
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抑えられると言っても夢魔の性が消えるのではない。
小鬼の魔具は万能ではなく、あくまで後回しにするようなものだ。あとから反動が大きくなる。
乙女が帰宅して、巨漢が玄関で首枷の鎖を引くと、爆発のような現象が起き、スカートがひどいことになる。大変な迷惑だ。
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posted at 04:26:28
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宅内では小鬼がゲエムをもとに作った衣装をまとう。ウォルドーにとってはぎょっとするような意匠ばかりだが、もはや乳房や太腿、背中側にまで広がった紋様とはよく合っているようでもある。
千賀子は常に怒ったような上目遣いをしながら言う通りに何でも着る。
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posted at 04:28:34
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さすがにおかしすぎる大きさの玩具はまだ拒んでいるが、段々受け入れてもらうしかない。すべて使い尽くしても夢魔の性を抑えられるかどうかは解らないのだ。
とはいえまあひどいことだけでもない。
家は巨漢を住まわせておける広さのところに引っ越した。費用は騎士が持って来た黄金で賄った。
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posted at 04:30:22
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ウォルドーの実家。鳴滝の館にはちゃんと黄金の貯えがあるらしい。なので大きなベッドも買った。マットレスはだめになってしまったし。
千賀子に逃げ癖がついているので、就寝前は服は脱がせ、首枷の鎖を寝台につないでおく。
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posted at 04:35:52
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そうするとむっとはするが行儀よくウォルドーが入って来るのを待つ。躾けの良い大型犬と同じだ。
なおも抵抗する鬨が毛むくじゃらの胸板の上に引きずり上げて、双臀を握りこむとじっとして話ができるようになる。
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posted at 04:38:14
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「はあ?ピアスなんてつけませんよ…説明書?小鬼の文字なんて読めるはず…もう…これは…胸用…これは…え、痛いから無理ですね」
「ふむ…」
「解ってってないなら見せないで下さい」
「チガコ…」
「何ですか」
「俺が兄から譲り受けた鳴滝の離れ館にも、鎖をつなぐにのによい寝台がある」
「…?」
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posted at 04:40:25
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「まあ…ウォルドー様がお望み下さるなら…ららららてんぐ…聖女と間違われて召喚された一度であちらは十分なので」
「飛ぶのによい黒い森もあるし、夢魔が生のままさまよっても害がない無人の野もある。花も見事だ」
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posted at 04:42:49
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「結構ですけど…私は今秋資格試験の再受験があるので…っ…話してるときにそれはやめて」
「そなたが鎖と枷のみまとっても恥じることはない土地だ」
「そういうことを喜ぶ相手に…声をかけてみては…っ」
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posted at 04:59:42
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初めて聖女降臨の祭壇で初めて目にした、息を呑むような闇色の髪と瞳はいっそう濃さと艶めきを深めたのに、内に秘めた硬く剛い志はもう、人間を夢魔に変える禁術によってすっかり頽(くずお)れてしまったのだと解かると、武者の粗野な心にも何か苦しさと、同時に奇妙な喜びも湧き上がる。
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posted at 05:07:04
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従前より気の合わぬ宮廷魔導士の、愚かしいとしか思えない異界探索の試みにあえて志願し同行した際は、ただいまいちど闇色の髪と瞳に見えんとしただけで、このような結末を望んだのではなかったが。
けれど今、聖なる印ならざる淫らの紋様を身に帯びた聖女ならざる夢魔の乙女は、
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posted at 05:17:12