にょんギツネ
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2019年01月20日(日)
もっとも、その木の話をしても、浮浪児達にはピンと来ないようだったが。
「お前は頭がおかしいのさ」
「キチガイ靴屋にこき使われてるからお前もキチガイになったんだ」
「ちがうよ…」
「へん。キチガイトム。だけど作る道具は役に立つ」
「そうだ。だから特別扱いしてやるよ」
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posted at 23:59:49
もともと浮浪児の一人が石を投げるのに似たような武器を使っていて、それを改良しただけだが、威力は大変なもので、野良犬を追い払ったり、ほかの浮浪児の群と喧嘩するのに絶大な効果があった。
トム自身も扱いを覚えて、金持ちの屋敷の庭になる木の果実を落としてかじれるまでになった。
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posted at 23:57:18
浮浪児の群には賄賂(わいろ)を送って見逃してもらっていた。
といって食べ物を渡したり金銭をごまかして差し出したりすれば親方の怒りが恐ろしいので、かわりに余った革のきれはしをちょろまかして、投石器をこしらえて差し出したのだ。
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posted at 23:54:12
文字の話はそれでさたやみになったが、トムはほかにやることが沢山あった。今では一人で使いに出され、取引先に伝言をしたり受け取ったり、荷物を受け取ったり、渡したりといった役割もこなした。
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posted at 23:50:10
よく聞いてみると小人達は文字を知らないのだ。トムが聞きかじっているので書いてあるものさえ与えれば覚えると思ったらしい。
「むりだよ」
「なんてやくたたずだ」
「ここのじじいも文字を知らんしな」
「ちぇ、じゃあ七里靴は」
「おいよせ」
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posted at 23:48:23
小人達はとんがり帽子を突き合わせて相談した。
「よし。お前に文字を教えてやる」
「その方がいい」
「いいな」
次の晩には羊皮紙の巻物が四つ工房にあらわれた。
「さあ文字を覚えろ」
ところがそれらは人間とエルフの文字がごっちゃになっていた。しかも人間の文字は二種類もあった。
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posted at 23:46:40
もうトムはすっかり靴屋の下働きが板について、エルフの血を引く貴公子エルウィンデルだったころのよすがはほとんどなかった。ただ時々口ずさむエルフの歌や、指でなぞる文字などにわずかに名残をとどめていた。
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posted at 23:43:00
「なんてことをしやがった!」
老職人はかんかんに怒ったが、幼い弟子は砂時計を示して客先へ採寸にいく時間だとうながして、うまくごまかした。だんだんと大人のあしらいが身について行った。
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posted at 23:41:23
「あいつらが、どんな入れ知恵をしたかしらんが、俺のひげを切ろうとしたらお前の皮をはぐぞ」
「は、はい」
「よし」
親方が昼寝を始めるとまだ明るいうちから小人がやってきて、トムに耳打ちする。
「なあおい。編んじまえよ」
「可愛い三つ編みがいいぜ」
「そうとも」
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posted at 23:37:58
トムはだんだんと大きくなり、小人のかわりにする仕事もまともになっていった。水差しいっぱいの水で器用に体を清め、歯を磨き口を漱ぎ、だらしない親方の身だしなみも整えられるようになった。
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posted at 23:36:21
「ごしごしごしごし!」
「ぴかぴかぴかぴか!」
小人達も協力を惜しまず、どこでこしらえたのか大小のぶらしでトムの歯を磨き、肌をこすり、鼻や耳をほじって、髪をくしけずり、鼻を蹴飛ばし、頬をひっぱたいた。
「どうだ。お前を王子様みたいにしてやるぞ。うれしいか」
「うぇう…」
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posted at 23:33:58
靴屋は以前よりは男児をまともに扱うようになった。革などを買い付けに行くときも連れまわし、言葉少なに取引のやり方を教えた。
客の元へ採寸に上がる際も、あまり身分の高くない家には連れて行った。身なりもいちおうまともにさせるようになった。
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posted at 23:32:07
採寸の基礎、木型の扱い、革の見分け方、糸、うわぐすり、鋲の種類と用法。鋏に針に鎚の持ち方、動かし方、手入れの方法。いらだって早口になると小人の言葉が出てくるが、トムはそれも少しずつ分かるようになった。
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posted at 23:29:20
「寝る時寒いなら、あの赤いなめし革をちょろまかして寝どこに入れろ。ありゃ海の向こうの砂漠でとれる火蜥蜴の革さ、自然に体が温まる」
とか
「道で犬やほかのガキに追いつかれたくないなら、工房から忍山猫の革をかすめて靴底に入れろ。足音を決してすべるように歩ける」
とか
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posted at 23:26:21
その日からトムは昼は靴屋の親方にこき使われ、夜は小人にしごかれるようになった。
へとへとのふらふらになったが、しかしほかに道はなかった。
悪いことばかりではなかった。小人は親方に負けず劣らず横柄だったが、役に立つ助言をしてくれた。
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posted at 23:23:59
「お前に俺達の技を教えてやる。小人の手仕事を学べば、この世のどんな職人より凄腕になれるぞ。いいな?」
トムはうとうとしながら瞬きした。小人はにやりと笑って針をつきつける。
「ついでに呪いは、俺達が人間を殺しちまうののを禁じてもいないんだ」
男児の頭から眠気は一瞬で吹き飛んだ。
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posted at 23:21:16
小人は言葉を切って、貧乏ゆすりをする子供を見つめた。
「ちゃんと聞いてるか?聞いてなくたっていい。俺達がずるをしたり、呪いをだしぬこうとしたりしてるんじゃないと、どっかにいる妖精どもに伝わればいいんだ。いいか。呪いは俺達にただ働きを命じるが、俺達が弟子をとるのまで禁じちゃいない」
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posted at 23:19:32
「おかげで飛脚のやつは、東風になっちまったのさ。今でも秋になると吹く風に、エルフ語がまじって聞こえるのはそのせいだ。女王はお気に入りの家来をなくしてかんかんでな。俺達に呪いをかけた。人間のためにただ働きをしないといけなくなる、性質の悪い呪いさ」
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posted at 23:18:20
登場人物の気持ちが丁寧に扱われるアニメとか漫画が好きだ…人間の心の綺麗な部分だけじゃなくて、弱い部分とか汚い部分にも寄り添って汲み取ってくれるような…
誰かが誰かの事を大切にしているとき時、言葉と行動の両方でそれらが現れてるものが好きなんだ…
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posted at 23:16:54
「もちろん支払いはたんまりもらった。だがある時だ、妖精の女王の飛脚のために七里靴をこしらえたんだ。一歩で七里駆けられる魔法の靴さ。いつも通り俺達は代金を貰えるはずだったんだが、女王は渋った。そこで靴にちょいと細工をして、走り出したら止まらないようにしてやった」
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posted at 23:16:17
小人達は一斉に作業台に飛び移って一列に並んだ。
「俺達はな、昔からありとあらゆる難しい職人仕事をこなしてきたんだ。なりが小さいからとなめるなよ。妖精の姫様の輿入れした人間の殿様のために城を建てたり、巨人の王様にとびきりの戦斧をこしらえたりもした。お前の身の丈よりもでかいのだぞ」
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posted at 23:12:56
不思議な助人の群はしばらく黙ったあとで一気に意味の分からない言葉でまくしたて始めた。身振り手振りをまじえて激しく争ったあとで、また頭領らしきものが口を開く。
「まて。俺達がずるをすると思われるとまずい。呪(のろ)いはめんどうなんだ。いいか。説明してやるからよく聞け」
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posted at 23:10:03
「靴屋のかわりに働く小人のかわりにはたらくガキがいたっていい。そうだろう?なあ?」
トムはごくんと唾をのみ込んだ。
「うんと言えよ」
小人が針や鋏を突き付けて脅す。男児が答えようとしたところで、老人のいびきが止まり、全員が一斉にそちらを向く。だが工房の主は眠りから覚めない。
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posted at 23:08:19
「それより俺達の仕事を手伝わせよう」
頭領らしき小人が言うと、ほかは顔を見合わせた。
「おいちびよく聞け。俺達は靴屋の小人だ。あのじじいが請けてきた仕事を、かわりにやってやってるのさ。うぬぼれやのおいぼれやぎがやる百倍の速さと巧みさでな。だがもううんざりだ」
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posted at 23:05:34
小人達は針や鋏を持ったまま、蚤(ノミ)のように跳ね上がり、薊(アザミ)の実のように子供の服にくっついた。鋭い尖端で肌をつつき、血を出させて、痛みにあえぐ獲物に牙を剥いて笑いかける。
「殺しちまうか」
「食っちまうか」
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posted at 23:03:26
男児は貧乏ゆすりをしてから頷いた。
「どういうこった。お前、死ぬのか?」
小人の問いかけに、子供はまた肩を小刻みに揺らした。
「俺達は死にかけの人間か、さもなきゃ魔法使いとか…とにかく頭のおかしいやつにしか見えないはずだけどな。お前はどれだ。答えろ」
「…わか…んない」
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posted at 23:00:36
トムはぽかんとしながら見守った。いろいろな幻を目にしてきたが、かほどに滑稽なものははじめてだった。
小人達はやがて幼い下働きの視線に気づき、一斉に振り返って、ひそひそと意味の分からぬ言葉で囁き合った。やがて一人が進み出る。
「人間のガキ。俺達が見えるのか?」
今度は知った言葉だ。
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posted at 22:57:57
扉を開くと、椅子にぐったりと眠る長髭の翁の前で、机の上をとんがり帽子の小人の群が駆け回り、はしゃぎ声をあげながら針を槍か剣のように振り回している。
遊んでいるようだが、糸が革と革を縫い合わせ、しっかりと靴のかたちにしあげていくではないか。
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posted at 22:56:03
幻聴のささめきにまじって、老職人のいびきが聞こえる。
確か明日までの約束の乗馬靴が一足あって、夜なべ仕事をしているはずだが。終わったのだろうか。もし眠りについているなら蝋燭は消さなくては。
トムはおそるおそる光の方へ近づいて行った。
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posted at 22:54:03
あたりは真暗で、闇の中にいびつな形がうごめき、おかしなささめきがするようだったが、それはエルフの若君にされていたせいで見えたり聞こえたりする幻覚や幻聴かもしれなかった。
トムは貧乏ゆすりをして、用足しをしようと立ち上がった。蝋燭を使うと怒られるので手探りで歩いていくと工房に灯が。
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posted at 22:52:00
「水に漬かってもしみこまないよううわぐすりをかけて、三重にする…外側は鰐がいい…こいつは南の国の怪物で水辺にすむ…そうとも。そうだろう?俺の考えに間違いはないだろう?」
ひとり暮らしが長かったせいか、親方はぶつぶつと虚空に話しかながらほくそ笑む。
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posted at 22:46:09
工房にはそれこそ人間の子供から、鰐とかいう南の国の怪物までありとあらゆる種類の革がそろっていて、平らに伸ばした見本が一冊の本にまとまっている。老職人は頁(ページ)をめくるようにして、一つ一つ指で感触を確かめ、蝋燭の火で照らして光沢を調べては、どれを次の靴に使うかを決める。
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posted at 22:44:10
だから、どうやっているのかは分からないのだが、親方はものすごい量の仕事をしゃにむに片付ける男だった。十日で三足も仕上げさえする。おかげで稼ぎはよいようだが、大半は酒と、靴の材料になる珍しい革だのなんだのに化けてしまう。
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posted at 22:41:20
肝心の靴づくりの技は何も教わらなかった。
親方が節くれだった指で巧みに鋏や針を動かすのは目を奪われたが、しばらくうかがっていると決まって怠けるなと怒鳴りつけてくる。
トムもだからあまり用もなく工房に近づかないようにしていた。
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posted at 22:36:04
トムもあれこれ見聞きして少しは知恵がついてきたので、そんなことをすれば鼠やごきぶりに齧られてしまうと思ったが、口答えなどできるはずもなく黙って言いつけ通りにした。
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posted at 22:32:31
もっとしくじれないつとめがった。酒場の隣の薬種屋で蟻蜜の塊を買うのだ。蟻蜜などというのは、滋養強壮によいというが、よほどの金持ちでもなければ舐めたりしないものだ。だが靴屋は自分でそれを喫するのではなく、部屋の隅に焼き物の器に盛って置いておけという。
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posted at 22:30:56
仕事が立て込んでくるときの食事に、近所の酒場に肉団子や汁物を買いにいくときはましだった。だが野良犬や浮浪児の群が横取りしようと狙って来るし、もしそうなれば親方はまた下働きをさんざんに蹴とばすのだ。
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posted at 22:27:30
◆◆◆◆
靴屋の親方は偏屈で乱暴で、癇癪持ちだったが、食いものだけは山ほど食わせてくれた。腕が良いのか、仕事の依頼はひきもきらさず、しかも身なりのよい客が多かった。しばしば大店の丁稚や、門閥の家僕などが訪れては採寸のために屋敷まで老職人を連れて行った。
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posted at 22:24:05
街は見たこともないほど大きな建物と、人と、ものにあふれ、ありとあらゆる匂いがして、ありとあらゆる音がした。
靴屋の工房をかねた家は下町の奥まった片隅にあり、めちゃくちゃに散らかっていた。
「お前は今日からここで働くんだ。役に立たなかったら潰して皮にしてやるからな」
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posted at 22:20:12
だが靴屋は結局、トムを引き取った。
「おいお前。名前は」
「トム」
「トムか。よし。皮を持て。なにふらついてる。このぐらいは持てるだろうが。じゃなきゃ買った意味がない」
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posted at 22:17:33
「靴屋の旦那。あんたまた弟子に逃げられたんだろ。街一番の職人が下働きなしじゃ恰好がつくまい」
「うるさい!」
「とにかく、子供の皮七枚と生きた子供一人、これでいつもの値段で買ってくれ。じゃなきゃ商いはなしだ」
「生きた子供なんぞいらん!」
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posted at 22:16:40
やがて客が来た。いかさま師よりもずっと年寄りで、より長くもつれたひげをした男だった。
「皮が買いたい。子供の皮だ」
「あまり質がいいのはないよ」
「背中の皮が十枚欲しい」
「あるのは七枚だけだ…かわりに生きた子供をつけよう」
「生きた子供なんぞいらん!」
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posted at 22:14:46
数日のあいだ、トムは人買いの小屋で暮らした。虫と鼠だらけで不潔ではあったが、野菜くずの汁物で腹だけは満たした。何もすることがなく、指でエルフ文字を描き、エルフ語の発音を練習して過ごした。以前はそうしていれば大人は褒めてくれたのだ。
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posted at 22:13:20
「ふざけるな銀貨五枚にはなる」
「欲をかきなさんな。旦那とは付き合いがあるから穏便に済ませようというんだ。貴族を怒らせたいかさま師の一味と取引したとばれたらこっちだって危ういんだぞ」
「足元を見るんだな。俺はおまえなんかよりずっと学があるんだぞ」
「そのせいでお尋ね者じゃないかね」
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posted at 22:09:52
「金がいるんだ」
「せいぜい下働きだな。器用な方か?」
「歌える。おい」
侍医が蹴ると、うつらうつらしていたトムは覚えたエルフの古歌を吟じた。だがお世辞にもうまいとは言えなかった。
「だめだな。声もそんなによくない。教会でも買わんだろう」
「くそ。いくら出す」
「銅貨十枚だ」
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posted at 22:08:24
「ほかの奴等にとられないように俺が変装させてるだけだ。時間をくれれば」
「よせよせ。あんたの噂はもう広がってるよ。いかさま師の旦那。素材としちゃ悪くなかったかもしれん。いいのを選んだのは認める。だがここまでいじって汚しちまったら、愛玩用には売れんよ」
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posted at 22:06:32
人の売買は公には王の法によって禁じられていたので、こっそりと街はずれに市場が立った。
侍医はトムをひきずっていき、なじみの人買いに突き出した。
「このガキはエルフの血を引いてる」
「しみやそばかすだらけの肌に、砂色の髪、斑の入った灰色の瞳。おまけにやせっぽちだ。病気もしたな」
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posted at 22:04:45
男は舌打ちして、うなされる子供を藁でおおった。
「…迷信だ。俺はそんなものは信じない。俺は本物の学問を学んだ。賢者の道を…くそ…見事にエルフをこしらえたのに。田舎貴族なんかに見抜けるはずがなかったのに…おい、死ぬなよ。死んだら売れなくなる」
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posted at 22:00:30
すぐに高熱が出た。
「死人の実でも食ったのか」
侍医はうっとうしげにつぶやいた。
「道と道の交わるところは魑魅魍魎の領分だ。ああいうところには葬り先のない野垂れ死にのむくろを埋める。そこには死人の木が生えて、毒のある実をならすのさ。食えば死ぬか助かっても半分あの世に囚われる」
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posted at 21:58:52
かわりに貧乏ゆすりをしながら、覚えさせられたエルフの歌を口ずさんでいると、虫がうなりをさせながら、遠ざかっていった。音にうんざりしたのかもしれない。トムはきょろきょろしてから実をとってかじった。ひどく苦かったが、無理矢理飲み込んだ。
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posted at 21:57:05
エルウィンデルでいたころの、貧しいなりに食事にありつけていた城館での暮らしとはまるで違った。
農民の子として育っていたがら、しゃにむに虫を追い払って木の実をもいだかもしれない。けれどもなまじ貴族の扱いを受けてきたので、すぐ心がくじけてしまう。
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posted at 21:55:29
まれに道と道の交差する場所などで、誰も触ろうとしない、ねじくれた灌木になった萎びた木の実などが生えてはいた。しかし、たいてい毒々しい小さな虫が周りを飛び回っていて、うかつに指を伸ばすと刺されるのだ。
トムは何度か手の甲を腫らしてすすり泣きながら危険を知った。
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posted at 21:53:04
侍医はもう、男爵でなくなった子供にろくにものを食わせなかった。
トムはしかたなくすきっ腹を抱えて、荷馬車が止まるたび、藁のあいだから、きょろきょろと辺りを見回した。食べるものなどそうそうはなく、あればすぐに連れの男が盗んで平らげてしまうのだが。
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posted at 21:50:19
「まあいいさ。こんなところで終わる俺じゃない。おい、いくぞ。いつまでも若殿様気分でいるんじゃない」
侍医はトムの襟首をつかんでひきずり起こすと、荷馬車の後ろに放り込み、藁で隠すと、帽子を目深にかぶって御者台につき、驢馬に鞭をくれた。
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posted at 21:46:28
ごろごろと転がった男児は泣き出したが、侍医は小さな尻にもう一蹴りくれて舌打ちした。
「くそ!くそ!まったくついてない!カシナンサ男爵家の再興に俺がどれくらいつぎ込んだと思ってる!ええおい!」
喚きたてる大人のそばで、トムはうずくまったまま身をゆすり、声を立てずに涙を落とした。
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posted at 21:44:41
ハイウーン姫は言葉が発せない。耳は聞こえるが、なぜか舌だけが回らないのだ。
トムは、いつも手振りで話しかけてくる背の高い女の人について思い描き、貧乏ゆすりを止めてにこっとした。
侍医はかっとして、作りものの男爵の頬をひっぱたいた。
「お前がもっとうまくふるまえば」
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posted at 21:42:12
その方がいささかなりとも箔がつくと、男爵家、否、男爵家をよそおった詐欺団は考えたのだ。
「ふん!オルナンサだと!ご立派な伯爵家!こっちを手討ちにするだのなんだの、奴等だってほめられたもんじゃあない。唖(おし)の娘を押し付けようとしてきたんじゃないか」
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posted at 21:40:42
とがった耳もだいぶ丸くなっており、どう考えても、村の辻で泥まみれになって遊んでいる百姓の子供と変わらない。
別人と言い張ればよかったのだが、トムは愚かしく、覚え込まされたエルフ文字を宙に指で書きながら、エルフ語の読みを誦じていた。意味はまるで分かっていなかったが。
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posted at 21:38:30
「畜生。大水で橋が流れたりしなきゃ、間に合ったんだ」
だが侍医は半年に一度の往診に遅れ、”治療”が途切れたところを、運悪く許婚の機嫌うかがいに来ていた伯爵家のハイウーン姫一行に見られてしまった。
トムの双眸は斑が入った灰色、髪の毛は砂色で、肌もしみそばかすだらけになっていた。
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posted at 21:36:43
どかか遠い異国から調達したという、瞳の色を青く染める目薬を差したり、肌を白くする粉をまぶしたり、耳の形をとがらせるための金具をはめたりして、農民の子のトムはエルウィンデルになったのだ。
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posted at 21:33:32
しかしそれは、侍医が診療と称するあれこれの処置をしたあとに起きるのだ。
「ふん。俺のおかげでエルフの血を引く若様になれたんだぞ。ちょっとぐらい目や耳がおかしくなるぐらいなんだ。文句があるか」
侍医がにらみつけるので、子供はまた貧乏ゆすりをして首を振った。
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posted at 21:32:02
侍医と称してはいるが、住所の定まっていない流れものである。半年に一度、幻聴や幻覚に悩む幼い男爵を診る名目で城館を訪れていた。
病状そのものは嘘ではない。トムは、ときどき視界が曇ったり、雑音が聞こえたりする。変な匂いを嗅いだり、舌にいやな味を覚えたりもした。
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posted at 21:29:58
「トム。お前を売った人買いはそう呼んでた。親から買い上げる時にトムと聞いたそうだ」
不機嫌に侍医は言った。もじゃもじゃの髭をかきむしりながら、目をすがめて。順風満帆だった計画が、いきなり沈没の憂き目にあったのは、トムの責任だと言わんばかりだった。
仕方なく男児は貧乏ゆすりした。
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posted at 21:26:22
◆◆◆◆
エルウィンデル・カシナンサ男爵の本名はトムといい、本当はただの人間の農民の出だったので姓はなかった。
もっとも六歳になるまでは、ずっとエルフの血を引く古い貴族の跡取りとして育ったので事実を知ったのはあとになってからだ。
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posted at 21:23:01
エルフの血を引く貴公子と、戦乙女の婚姻。
王の宮殿を飾る綴れ織りのようにみめよく、詩人の唄う叙事詩の耳にひびきよい取り合わせであった。
もっとも婚約は結んでから三年で破談となったが。
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posted at 21:19:32
エルウィンデル・カシナンサ男爵との婚約はつつがなく成り、ハイウーン姫たっての願いもあって婚前に幾度かの顔合わせもあったが、いずれもなごやかな雰囲気のうちに終わった。
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posted at 21:17:06
ハイウーン・オルナンサは齢十四にしてすでに丈は並の男を抜き、夜の滝の如く流れる黒髪に、さらに暗い双眸。雪のように白い肌と、しなやかな腕をしているという。竪琴の弦をつまびくより、長弓の弦をひきしぼるのを得意とするというが、武門の生まれにとって傷ではなかった。
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posted at 21:15:28
かくして近在の貴族や門閥のもとに次々に肖像が回り、縁談を求める手紙が届いた。
初めはいくらなんでも貧乏籤を引く家はあるまいとも思えたが、やはり妖精の血というのは、こたえられぬ魅力があるのか、やがていくつかの返事があった。
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posted at 21:09:07
このエルフの形質を宿した貴公子の名をエルウィンデルという。
崩れかけていた屋敷にはまた火が灯り、荒れ果てて人買いもよりつかぬありさまの村々を再興せんとする動きもあるという。ただ何事にも先立つものがなくてはならない。
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posted at 21:05:41
Googleマップの佐賀駅がなぜかインド北部に 「ニューデリーから車で4時間」「インドランド佐賀」
web.hackadoll.com/n/8oaEr #ハッカドール
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posted at 21:04:09
とうとう男爵自身も風邪に倒れて、というか貧苦に耐えかねて儚くなると、もともと朽ちつつあった城館はついに廃墟と化した。
しかし、しばらく時が経ったあと、奇妙な噂が広がった。亡き領主には後添の落胤があり、世継ぎの印として金髪碧眼白膚、尖った耳に浮世離れした美貌を備えているという。
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posted at 21:02:47
「ちょっ…ちょっと待って!いきなり首筋に顔を埋めて何をーーあうぅっ❤」
「クンクン…すぅぅぅはぁぁぁぁ❤…ずっと嗅いでいたくなるような、柔らかくて甘いニオイ…髪質もサラサラでツヤツヤ、こんなの今まで見たことも…はぁ❤唇や顔に吸い付いてくるようで…食べちゃいたくなりますぅ❤ペロッ」
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posted at 21:02:17
エルフの血を引く公達は、薄情な妻を呪ったあと、後添えを迎えたらしいが、財政はますます悪化し、親戚とやりとりする手紙も無心の話ばかりとなると自然に返事も減り、疎遠になっていたので、詳しい消息について知るものはほとんどいなくなった。
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posted at 20:59:25
東京タワーサイズの巨大女の子に捕まって巨大ちんちんの尿道に首まで突っ込まれた上でちんぽオナニーされ始めて、やがて超大量の精子とともに人間砲弾みたくぶっ飛ばされたいのはみんな抱いてる願望だよね
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posted at 20:57:29
例えばTS淫魔化&擬態して初めての女性向け美容室に行って
「お待たせいたしました、本日はどのようにーー…っ!?」
「あ、あの!俺ーーじゃない、私、こういうお店で切るの初めてでーーひゃうっ!?」
「ハァ…ハァ…クンクン❤お、お客様!?シャンプーやリンス、お手入れは何をお使いで!?」
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posted at 20:57:05
鈴音@動画【琴葉姉妹と同棲しようよ】など @suzune25254649
@_himatteru リプで元ネタ言われてても、怒ってる人が皆無なんだよねー。
画像パクも結構叩かれるのに、動画パクは叩かれないのも不思議。
動画は埋め込み拡散機能を動画サイトが提供してるから、感覚麻痺してるのかもしれないなぁ。
埋め込みとコピーは意味全く違うんだけどなぁ。
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posted at 20:56:45
眉目秀麗な男爵の肖像に一目惚れして嫁いできた夫人も、さすがに甘い夢から覚め、うんざりして離縁を言い出すと、兄である都会の司教に泣きついてさっさと婚資を取り戻し、出ていったのだった。
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posted at 20:56:19
@suzune25254649 仲間意識ってのも大いにあると思う。それに、Twitterにはツイートを検索する方法があるから、もしも元になったツイートがあったら探しやすいんじゃないかな?動画はタイトルを知らないと探すの難しいし。
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posted at 20:52:52
美しい伝説に彩られた土地であったが、豊かとはいいがたく、しばしば村々は領主の借金の抵当に入り、かつて小人の石工が建てたという荘厳な城館も、入ってみれば隙間風が吹き込み、そこらじゅう雨漏りのするいささかおんぼろであったので、住人はよく風邪やらもっと性質の悪いなにやらに罹(かか)り
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posted at 20:48:47
昔々あるところ、というか田舎に、小さな荘園があり、誰も思い出せないほどずっと以前から、さる男爵家が治めていた。一門の興りは国の創建よりも遡り、さらにかつてエルフの姫を奥方に迎えたといい、代々のものは揃って金髪碧眼白膚、尖った耳と華奢な肢体をしていた。
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posted at 20:44:10
鈴音@動画【琴葉姉妹と同棲しようよ】など @suzune25254649
@_himatteru ツイッター仲間からパクるのは問題だけど、外部からパクるぶんにはツイッター仲間は誰も損しないからとかなのかなぁ…
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posted at 20:43:38
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posted at xx:xx:xx
エルフは美麗。エルフは高貴。誰でもエルフと結婚したい。
エルフって言うだけで垂涎の的。エルフの血を引いてるだけでも最高。
誰だってエルフが欲しい。エルフは最高のトロフィー。
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posted at 20:30:59
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可愛いって言われて「俺は男だぞ!」ってキレるTSっ娘と「そうだよな?」って満更でもないTSっ娘の二人がいる状態って面白そうよね。個人的には前者が告白されたら「…おっせーんだよ…言うのが…」って泣いて喜んでほしいし後者は「…え?俺?」ってきょとんとした後に喜んで受け入れてほしい
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posted at 20:13:12
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参考文献2ダース以上当たってハードSF書いてはおるんですけどねえ。なろうで。まあ検索性はすこぶる悪いですよね。
けどカクヨムもあんまり検索性がいいとは言えない気もします。 twitter.com/Irrsys/status/...
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posted at 20:06:40
これなんかも基本的には中学生でも読めるように書いてるからな。マジだからな。
銀河縦断ふたりぼっち - カクヨム kakuyomu.jp/works/11773540...
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posted at 19:47:23
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全てを破壊しようとしてるけどその手段として部下を作れる程度の社交性や建前を揃えているボスが主人公にだけ本当の狙いがバレちゃうのが納得いかん
(アムロとシャアくらいの関係性が育ってればまあ分かる)
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posted at 19:42:42
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ピット「パルテナ様、あのうさ耳ずきんの様なものをつけた女の人は?」
パルテナ「彼女は鈴仙・優曇華院・イナバ。月に住んでいる玉兎と呼ばれる種族です。見た目によらず軍人だった過去を持ちます。」
ナチュレ「ふん…気に食わんのぉ…セーラー服にうさ耳、ドジっ子、不憫属性…あざとい女じゃ…」
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posted at 18:43:26
@suzune25254649 いろんな事に当てはまるけど、大体の人は自分の物差しで是非を諮るからね。あんまりこういう表現は好きではないけど、自分にとって都合がいい事なんだろうね。
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posted at 18:31:45
にょんさんそれは違うよ。ザイルさんの「ショタ」はガチムチ成年男性の言いかえだし、デカい雄にいやらしくケツを振って欲しいだけの野郎趣味だけど、俺はショタコンだから。
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posted at 18:06:19
やはり同じキャラ描いたものでも一年前と一年後だと変化が現れるものなんですね…今の絵のほうが線の強弱がはっきりしてきたように思います。塗りは…あんまり変わってない…かな…
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posted at 17:27:48
resn@『DUO』コミカライズ決定しま @ko13689719
今度はレイジさんも見ている事を踏まえて、イリスちゃんに着てほしい服とかないっすかね……!
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posted at 17:16:17
今気づいたのだが、果てしなき血河の先にのエンディングの後の世界において時崎得子はギネスに世界最高齢の人間として載るんだろーか。
あの仙人、奈良時代生まれなわけだが。
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posted at 17:13:35
あなたの犯罪係数は…69.2、色相は緑。正常です、健全なTwitterライフを保ち続けて下さい。
犯罪係数ワースト:76631 / 211367位(上位36%)
apps.twiexam.com/crime/result/h... pic.twitter.com/BoB84axwFY
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posted at 17:10:29
ゴスリリには大人の女性たちである閠が存在するけど、彼女は化粧も最低限、生きるのに精一杯な社畜だった。生まれ変わった先では香水は高価か、あまり庶民的ではない、のかな。
このままだと、女性陣を差し置いて、最初に香水エピソードに登場するのが男性キャラの紙月ということになりかねない。
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posted at 17:04:19
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無農薬農法の話が回ってきて思い出す。私の父は新聞記者で農業経済研究者でもあった。福岡正信氏の「わら一本の革命」を読み「これが本当なら大変なことだ」と取材に行った。帰って曰く「あんな狭いところにあれだけ手を掛ければ何でも無農薬で育つ」と。以後福岡氏を話題にしなかった。40年程前の話。
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posted at 14:31:53
はぁとふる倍国土 日曜 西の44a @keiichisennsei
@colt_plus フォロワーを集めるのが芸能人や人気作家に比べて難しいというのが課題です。でも、最近は編集者個人のアカウントで人気者も増えてきています。
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posted at 13:00:27
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鈴音@動画【琴葉姉妹と同棲しようよ】など @suzune25254649
あれ?
パクツイは怒られるのに、「この動画好き」とか言いながらニコニコの動画を全編無断転載するのは許されるんだ?
パクツイ警察ってイマイチ分からんな🤔
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posted at 09:16:36
おはよう、眷族の諸君!
1月20日!今日は玉の輿の日!
日常的に使われてるけど「金持ちゲットガール」を意味する単語の連呼、どうなの感、ある。
#玉の輿の日 #ゆにの日 pic.twitter.com/I9KP17bAHo
posted at 07:45:00
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