麻里邑圭人
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- 現在地 涅槃
- 自己紹介 ミステリ初心者。非実在探偵小説研究会所属。 【好きな作家】飛鳥部勝則/梶龍雄/殊能将之/早坂吝/麻耶雄嵩 【好きな作品】「カルロッツァの翼」「殉教カテリナ車輪」「竹馬男の犯罪」「翼ある闇」「魍魎の匣」 【好きな映画】「キルビルVol.1」「サスペリア」「サンタ・サングレ/聖なる血」「ダークナイト」「リベリオン」
2012年04月05日(木)
一田和樹「キリストゲーム」読了。2014年キリストゲームと呼ばれる奇妙なゲームが若者の間で流行していた。ゲームのルールはたった一つ――誰かのためになることをしてから自殺する。そんな中、内閣官房配下の諜報組織CITはゲームの全容解明と根絶を目的としたオペレーション・ユダを発動する。
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posted at 23:25:04
一言でいうとサイバー犯罪小説に呪術的要素を掛け合わせたような作品。故に前作同様、サイバー犯罪を扱っていてもその印象はかなり異なる。サイバー犯罪と呪術的要素というと一見水と油のように感じるが、本作を読んでみると意外と相性がいいことが分かるだろう。
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posted at 23:25:51
ただスケールの大きさが感じられた前作に比べると、CITと黒幕を中心に描きすぎているためか些かこじんまりとまとまってしまった感があるのが残念。とはいえ刈戸と箱崎のコンビは個人的には好みなので次回作にも期待したいと思う。
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posted at 23:26:21
2012年04月06日(金)
水野泰治「暗殺幻葬曲」読了。交通事故で亡くなった父母が実の親ではなかったことを知った真実は、本当の親と自分が何者かを探す決意をする。一方、恋人の康彦は颶風山人と名乗る謎の老人を首領とする一団に命を狙われる羽目になる。彼らの正体とその目的とは?
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posted at 12:17:02
本作はヒロインの出生の秘密に暗号ネタを絡めた作品だが、どちらもミステリとしての意外性は差ほどなく「へえ、そうだったんだ」の一言で終わってしまう可能性が大。それ以外にも不可思議な現象が幾つか起こるものの、やはりこれといって特筆すべきトリックはない。
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posted at 12:17:31
しかしながら、それらを演出に使った物語作りは上手く、キャラ同士の軽快な掛け合いと相俟って最後までテンポよく読ませてくれる。ミステリとしては微妙だが、読み終わった時に面白かったと思わせてくれる作品には仕上がっていると思う。
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posted at 12:17:57
嵯峨島昭「湘南夫人」読了。全ての発端は三田村健介が霧の海で遭遇した幽霊船だった。一度沈み、その後どういうわけか再浮上して漂流していたこの奇怪な船には発見当時、一人の狂女が乗っていた。健介はこの時の様子を記録映画に残していたが、ある時、そのフィルムが盗まれているのが発覚する。
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posted at 19:26:45
推理小説の形を借りて男女の情愛を描くという点ではこれまでの作品と変わらないが、とりわけ本作はミステリ部分でも一段と力が入っている。相変わらずミステリらしい展開を迎えるのは終盤に入ってからだが真相が分かると作者がかなり序盤から事件の伏線を張っていたことに気付かされる。
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posted at 19:28:21
事件の構図もさることながら、探偵役が犯人に仕掛けた罠もよく出来ている。ただ本格としてみると若干伏線が弱い気もするが、少なくとも「推理小説としてのサスペンスと意外性をも盛り込んだつもりである」という作者の狙いは充分成功していると言っていいだろう。
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posted at 19:28:45
2012年04月07日(土)
司凍季「蛇つかいの悦楽」読了。フランスから日本に移築された中世の城館「オランジュ城館」――かつて壁を抜けたとしか思えない状況で男が墜落死したこの城館で宴の余興の宝探しが行われた夜、二つの奇怪な死体が発見される。一つは大時計の硝子の箱から、もう一つは塔の先端に突き刺さった姿で……。
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posted at 14:31:48
暗号と機械トリックの共演。塔の先端に突き刺さった死体の謎に関しては、これしかないだろうという真相で興醒めだったものの、暗号と墜落死のトリックはそれなりによく練られている。とはいえ、この手のトリックが陥りがちな欠点も抱えていて、「へえ、そうだったんだ」以上の感想が出てこないのが難。
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posted at 14:32:09
また一部の謎に関しては自力で解くのが無理だったり、そもそも入れる必要があったのか疑問視するものもあり、正直全体的な完成度としては微妙と言わざるを得ない。しかし、帯の「いま横溝正史に、一番近い女流作家」という島田荘司の言葉を見てると、某彼残の推薦文を思い出して仕方がない(爆)。
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posted at 14:33:05
嵯峨島昭「『活けじめ美女』殺人事件」読了。美人料理評論家が絞殺後、全裸にされ全身の毛を剃られたあげく、塩と酢でシメられるという猟奇事件が発生した。酒島警視が事件を追う一方で、部下の西郷刑事とその恋人の由紀はひょんなことからオカマ三人組と女拓製造怪人にそれぞれ狙われる羽目になる。
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posted at 18:12:44
本作において事件の話が途中まで出てこないのは、作者がアルツハイマー気味で、あまり先に事件を出すと後半で忘れてしまうから……というのは嘘のようなホントの話(!)。それを受けて、探偵役である酒島警視もアルツハイマー設定になっているのはある意味、斬新(?)と言えるのかもしれない。
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posted at 18:13:24
一応ミスリードと意外な犯人が用意されてはいるものの、本作のメインはどちらかというと酒島、西郷、由紀のトリオが巻き起こすドタバタ珍騒動の方だろう。一番の見所は何と言っても女拓作りのノリに乗った変態描写だが(爆)その他にもお馴染みのグルメネタや邪馬台国の新解釈を披露している。
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posted at 18:14:00
2012年04月08日(日)
服部正「影よ踊れ シャーロック・ホームズの異形」読了。ホームズのパスティーシュ四編が収録された短編集。しかしながら本作は「異形」という副題が象徴するようにただのパスティーシュではない。その異形ぶりはコナン・ドイルとホームズの共演という幕開けから顕著だ。
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posted at 13:41:50
それは言い換えれば現実と虚構の共演であり、そこから生まれる物語は最初こそ真っ当なミステリの仮面を被っているものの、次第にメタ趣向と共に、幻想と猟奇に彩られたホラーへと舵を切っていく。
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posted at 13:42:14
解説の東雅夫氏は本作のことを「反(アンチ)ホームズ世界」と語っているが、個人的にはむしろ本作はメタやホラーすらも取り込んでしまうホームズ世界の懐の深さを示した作品として評価したい。
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posted at 13:42:43
2012年04月13日(金)
海渡英祐「喰いちがった結末」読了。男女の間の様々な駆け引きや策略をテーマにした八編を収録したミステリ短編集。ベストは横領の濡れ衣を着せられ、妻を同僚に寝取られた係長が美人OLを人質にトイレに立てこもった事件の顛末を描いた「臭い仲」で、結末の鮮やかなどんでん返しが実に忘れ難い。
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posted at 19:46:40
次点は義兄の腹上死を知られたくない家族たちが涙ぐましい偽装工作をする「恥さらしな死」。とはいえミステリとしてみるとベストと次点に出来の差がかなりあり、しかも「臭い仲」の方は既に別の短編集「事件は場所を選ばない」に収められているものを再録したに過ぎない。
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posted at 19:47:06
「事件は場所を選ばない」に比べ、本作は「臭い仲」を抜いてしまうとこれといった作品がないのが難だが、各編の主人公たちがどういう経緯で「喰いちがった結末」を迎えるのかという視点で読むとなかなか楽しめる作品集である。
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posted at 19:48:21
2012年04月14日(土)
海渡英祐「影の座標」読了。光和科学の新製品開発の最高機密を握る岸田が失踪、社長の要請で稲垣と雨宮の二人がその調査に乗り出すことになった。雨宮は学生時代から名探偵として活躍した、レーンという渾名を持つ切れ者。二人が調査を進めるうちに今度は岸田の部下の小林が何者かに殺されてしまう。
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posted at 19:56:08
雨宮のレーンという渾名がドルリー・レーンからきているのは言わずもがなだが、本作の内容もまたそれを反映したかのような緻密なパズラーに仕上がっている。終盤に雨宮が関係者を集めて披露する推理も圧巻だが、何より優れているのは事件の発生順から細かな設定に至るまで全てに意味があることである。
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posted at 19:56:34
それらが浮かび上がらせる構図は定番ながらも実によく練られている。些か派手さに欠けるものの、計算された物語作りという点では、かなり完成度の高い作品と言えるだろう。
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2012年04月15日(日)
海渡英祐「伯林―一八八八年」読了。十九世紀末のドイツ。吹雪の城館で起こった二重密室殺人を巡り、留学中の若き森鴎外と時の宰相・ビスマルクが推理対決する――第十三回江戸川乱歩賞受賞作である本作は本格ミステリの王道とも言える吹雪の館と密室に真っ向から挑んだ歴史ロマン溢れる秀作である。
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posted at 16:39:59
但し、本作が優れているのはトリックではない。「何故、密室だったのか?」という謎を起点に展開するロジックが秀逸であり、それを二転三転させながら意外な犯人を明らかにしていく過程は、既に熟練の域に達している。
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posted at 16:40:33
何よりも素晴らしいのは、この時代に設定した必然性がきちんとある点だろう。端正な本格としては勿論のこと、二人の女性の間で揺れ動く鴎外の葛藤を描いた恋愛小説としても楽しめる作品である。
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posted at 16:40:54
2012年04月17日(火)
三津田信三「幽女の如き怨むもの」読了。窓から逆さまに部屋を覗き込む「幽女」の姿が度々目撃される遊郭で、戦前、戦中、戦後にわたって起きた不可解な連続見投げ事件の謎――まず最初に断っておくと、本作にはこれまでの刀城シリーズに見られた不可能犯罪やどんでん返しが一切出てこない。
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posted at 01:17:07
そもそもメインとなる謎が朧げで全く掴みどころがなく読み進めば読み進む程ホラーの雰囲気が濃厚になっていく。かの刀城言耶に「現実の事件と非現実の怪異との境目が一体全体何処にあるのかさえ、一向に分からない」とまでいわしめるのだが、それがたった一つの事実から一気に解明される様は実に圧巻。
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posted at 01:17:43
それと共に怒濤の伏線回収が始まるのはこのシリーズではお馴染みだが、とりわけ本作は伏線の隠蔽の仕方が絶妙で、これまで以上に伏線探しがアツい作品になっているのではないだろうか。本作は本格ミステリとホラーのボーダーラインに挑んだ傑作である。
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友成純一「魔族狩り」読了。香港の阿片窟で魔物に取り憑かれた男・早瀬が日本に戻ってきた。彼が白昼堂々起こした狂態を偶然目撃した魔術研究家の雄高は、霊媒の百合子と共に魔物に立ち向かうことになる……という粗筋をみて、よくある伝奇アクション物かと思った人がいるならそれは全くの早計である。
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posted at 14:02:00
どちらかといえば本作は、早瀬と雄高という二大狂人(!)に巻き込まれた人々が非道の限りを尽くした凌辱や虐殺に遭う話であるため、二人のまともな対決を期待すると些か肩透かしを覚えることだろう。しかしながら、本作は断じて駄作というわけではない。
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posted at 14:03:24
むしろ本作は友成作品にしては珍しく(?)最後まで失速することがなく、しかもきちんと話が纏まっているという点ではかなりの良作と言うことができる。しかし、まさか友成作品でここまで綺麗なラストを見ることができるとは思わなかった(爆)。
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石持浅海「玩具店の英雄」読了。事件の成功事例と失敗事例を分析し、その「分かれ目」を標準化することを目指す科学警察研究所の操はある日、大迫警視正から「座間味くん」と呼ばれる謎の男を紹介される――「心臓と左手」に引き続き、「座間味くん」が安楽椅子探偵として活躍する連作ミステリ。
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posted at 22:19:39
「座間味くん」は操が「分かれ目」のサンプルとして語る過去の終わった事件から些細な矛盾点を指摘、そこからロジックを駆使して意外な構図を暴き出していく。その手際が優れているのもさることながら本作はこれまでの石持短編集に見られた「玉石混淆」感があまりなく全体的にレベルが高いのが好印象。
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posted at 22:20:32
惜しむらくは「分かれ目」という設定がなくても話が成立してしまうことだが、それは瑣末なことに過ぎない。良作揃いのロジック・ミステリ短編集として是非ともお勧めしたいと思う。なお、個人的なベストは「傘の花」、次点で表題作。
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posted at 22:21:01