麻里邑圭人
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- 現在地 涅槃
- 自己紹介 ミステリ初心者。非実在探偵小説研究会所属。 【好きな作家】飛鳥部勝則/梶龍雄/殊能将之/早坂吝/麻耶雄嵩 【好きな作品】「カルロッツァの翼」「殉教カテリナ車輪」「竹馬男の犯罪」「翼ある闇」「魍魎の匣」 【好きな映画】「キルビルVol.1」「サスペリア」「サンタ・サングレ/聖なる血」「ダークナイト」「リベリオン」
2023年03月01日(水)
麻耶雄嵩「化石少女と七つの冒険」読了。白雪にまみれ赤い紐で手首を結び合った三人の死体、男子の制服を着て死んでいた女子生徒、殺され焼かれた書道教師――良家の子女が集う京都の名門高校でまたまた相次ぐ怪事件に零細古生物部の部長で化石オタクのお嬢様・神舞まりあの謎解きの血が再び騒ぐ。
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posted at 20:37:05
ワトソン役に推理を認めてもらえない化石オタクの女子高生探偵を描いた連作ミステリ「化石少女」の続編。まず最初に断っておくと本作は前作の真相を踏まえた上での物語となっているため、前作未読の人はくれぐれも注意されたい。
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posted at 20:37:05
なお本作は前作同様連作形式ではあるものの前作以上に物語としての流れを意識しており、収録順に読み進むにつれてこの作者らしい、いかにも何かとんでもないものを仕掛けていそうな不穏な空気が増していく感じが実に堪らない。
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もちろん個々の短編としてみても見所は多いがどちらかというと後半に良作や秀作が集中しており、例えばタイトル通りのダイイング・メッセージが出てくる「化石女」は犯人の意外性とダイイング・メッセージに対する説得力をシンプルに両立させた点が○。
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また男子の制服を着て死んでいた女子生徒の謎を扱った「乃公出でずんば」は展開に一切無駄がなく何気ない描写の裏に隠された欺瞞の一つ一つがやがて黒い真相に繋がっていく点が実に秀逸。
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だがそれ以上に圧巻なのがトリを飾る「禁じられた遊び」で、前述した不穏さの積み重ねと連作を活かした作者らしい仕掛けが結び付くことで前作のオチから更に一歩踏み出した彼らの新たな関係を提示してみせる点が素晴らしい。本作は前作以上に作者らしさが炸裂した秀作である。
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2023年03月03日(金)
グレッチェン・マクニール「孤島の十人」読了。孤島の別荘に集まった十人の若者たち。その中にはメグが親友のために諦めた憧れの相手T・Jがいた。やがて嵐が島を襲う最中、不気味な動画が発見されたのを皮切りに、完全に孤立した状況下で十人は次々と命を落としていく。一体誰が、何のために?
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「そして誰もいなくなった」とスラッシャー物の融合と言うべき長編ミステリ。事件が起こるまでややかかるものの一度事件が起きてからはサスペンスフルな展開で一気に読ませてくれるのが○で、スラッシャー物の見所の一つである殺害バリエーションの多さもしっかりと盛り込まれているのがいい。
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しかもそこにはきちんと意味があり、ある小道具を介してそれが少しずつ明かされていく点は実にミステリ的。尤も本格ミステリとして期待するとあくまで模倣作に過ぎない物足りなさはあるが、それでも読み終わった後に良質なスラッシャー映画を観たような満足感が味わえること請け合いの良作である。
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2023年03月05日(日)
ジョー・ネッター「ブッカケ・ゾンビ」読了。妻子と満ち足りた生活を送る男はある日憧れのセクシー女優が主演するAVでエキストラ男優を募集していることを知る。家族に知られたら終わりだがあの女優にブッカケる機会を逃す手はない! しかし撮影現場の墓地でゾンビが出現。彼と愛する妻子の運命は?
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posted at 15:34:45
血の量の多さよりも精液の量の多さが目を惹くZ級の長編ゾンビホラー。美しい妻子がいるにも拘わらず憧れの女優にブッカケたい衝動を抑えることができない主人公の葛藤や、深夜の墓地に埋まった女優の顔に整列した54人の男が次々とブッカケていく光景はZ級に相応しいバカらしさと言っていいだろう。
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posted at 15:34:45
だがゾンビが出現してからは一転バカらしさは鳴りを潜め、ロメロ映画のようにゾンビを通じて様々な人間模様が描かれていくシリアス展開になる点は賛否分かれるかもしれない。とはいえ屍姦マニアや食人集団、ゾンビ処理隊などのイロモノ要素をテンポよく投入し飽きさせない工夫を凝らしているのは○。
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その一方で本作のもう一つのテーマである家族愛が見せる物語の結末はZ級に相応しくない哀愁に満ちたものだが忘れ難いインパクトがある。総じてゾンビ出現前と後で物語のちぐはぐ感が否めない反面、それが不思議な魅力を生んでいるところも否定できない何とも評価が難しい怪作である。
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2023年03月08日(水)
手代木正太郎「異人の守り手」読了。ロマンを求めて邪馬台国を見付けんとする外国人実業家に迫る攘夷浪士の影。心霊写真を撮ってしまったのを機に怪異に襲われる旗本とその従者。刺客と恩人の板挟みになった心配性の男――慶応元年の横浜で陰ながら外国人を守る「異人の守り手」の活躍を描いた三編収録。
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posted at 21:31:17
慶応元年の横浜を舞台に外国人を排除しようと目論む者たちから外国人を守る凄腕の日本人一派の活躍を描いた全三話構成の時代小説連作。尊王攘夷蔓延るこの時代の日本ならではの設定もさることながら一話一話ガラリと趣向を変えることで決してワンパターンに陥らぬよう工夫を凝らしているのは○。
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第一話の主要登場人物がまだ判明していないからこそできる意外性と史実を上手く活かしたオチも良いが個人的に推したいのはこの時代には珍しい写真を題材にした第二話で、次々と起こる怪異の謎を扱ったホラーミステリ展開と、この時代ならではのホワイダニットと絡めたどんでん返しが実に秀逸。
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またトリを飾る第三話は物語の鍵を握る男の些か度を越した心配性ぶりにはイライラさせられるかもしれないがその分感動の振り幅も大きいし、何よりこの作者が得意とする手に汗握るバトル描写が特に素晴らしい。本作は作者の持ち味が活かされた三者三様の物語が魅力の良作である。
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2023年03月10日(金)
四季大雅「ミリは猫の瞳のなかに住んでいる」読了。瞳を覗き込むことで過去を読み取り追体験する能力を持つ大学生・紙透窈一は野良猫の瞳を通じて未来視の能力を持つ少女・柚葉美里と出会う。だが同時に彼は大学の演劇部内で起こる連続殺人に巻き込まれることに。猫の瞳を通じて交錯する物語の結末は?
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posted at 20:58:48
怪作。第29回電撃小説大賞《金賞》受賞作の本作は「新感覚ボーイミーツガール」という売り文句からは想像もつかないカオスな内容となっており、序盤だけ見れば確かに特殊設定のボーイミーツガール物だがそこへ演劇に賭ける若者たちの青春と謎の探偵推し、更に不可能犯罪(!)まで投入されるのがアレ。
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posted at 20:58:48
それだけに止まらず終盤では何故か奇妙な館が建つ孤島に舞台を移し誰得のクローズド・サークル展開が始まるのだから思わず笑ってしまう。そしてこれだけの要素が全て綺麗に繋がるのであれば本作は間違いなく傑作だったのだけど残念ながら無理くり辻褄を合わせただけで必然性が皆無なのが実に勿体ない。
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posted at 20:58:49
恐らく作者的には自分の好きな設定をとりあえず詰め込めるだけ詰め込んで、後からそれっぽい物語をでっち上げたのだと思われるが、そのせいでどれもテーマとして昇華できず中途半端になってしまった感が否めない。とはいえ、このカオスな内容だけでも一読の価値はあるだろう。
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posted at 20:58:50
2023年03月11日(土)
阿泉来堂「贋物霊媒師2 彷徨う魂を求めて」読了。ガールズバーに現れる女の霊、彷徨える霊の悩み相談、別荘地の監禁殺人犯、学校に伝わる鏡の怪談……「祓うことはできない」霊媒師・櫛備がハッタリと観察眼で解き明かす霊たちの真実とは。一方、新たな助手・修平の存在が美幸にある悩みを齎して――。
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posted at 16:12:48
インチキ霊媒師が遭遇した霊たちの秘密を明らかにしていく全四話構成の連作ホラーミステリ第二弾。まず最初に断っておくと本作では前作の肝だったある事実が最初からバラされた状態で物語が進行するため、前作未読の人はご注意を。
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posted at 16:17:22
それはさておき本作もまた前作同様、櫛備の霊視とハッタリのバランスが絶妙で、それに加えて定番のミステリ的仕掛けを巧くホラーに落とし込んでいる。中でも特に秀逸なのがトリを飾る第四話で、練られた設定とミステリ的仕掛けが結び付くことにより殺人の動機に説得力を与えているのが○。
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posted at 16:17:58
更に本作では前作で謎だった櫛備の過去が語られたことで櫛備というキャラにより厚みが出たのもいい。その一方で読了後の続きを読みたいと思わせる余韻も健在で、シリーズの今後がますます楽しみになること請け合いの良作である。
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2023年03月16日(木)
加藤元浩「Q.E.D.Iff ―証明終了―」24巻読了。初の球技大会開催にあたり練習場使用を巡り実行委員と運動部が揉める中、仮面の怪人が騒ぎを起こす「ナッシュ均衡と球技大会」、業績回復を目論む建設会社が政治家への贈賄工作を進めるも計画当日に金は消え死傷事件が勃発する「7つの事実」の二編収録。
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posted at 09:31:23
「ナッシュ均衡と球技大会」は作者が得意とする数学物。タイトルにもなっているナッシュ均衡を現在抱えている問題――球技大会を巡る諍いや仮面の怪人による騒動に当て嵌めて鮮やかに解決してみせる手腕が絶妙でオチも気が利いている。また何気に仮面の怪人の不気味さに一役買っている消失トリックも○。
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posted at 09:31:23
「7つの事実」は冒頭に不可解な謎を提示し何故こうなったのか時を遡ってみせる構成で終盤に浮かび上がる「7つの事実」をロジックによって矛盾なく繋げると犯人の正体が明らかになる趣向がまず秀逸。それと同時に前述した構成が実はミスディレクションも兼ねていたと分かる点も実に技巧的な秀作。
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ゆでたまご/おぎぬまX「キン肉マン 四次元殺法殺人事件」読了。キン肉マンが失踪した!重臣・ミートはキン肉マンへのリベンジに燃えるキン骨マンを相棒に捜索へ繰り出すが、二人が行く先々ではなぜか超人による殺人事件――超人殺人が続発。様々な異能力を持つ容疑者たちに名探偵ミートが挑む。
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posted at 21:56:25
あの「キン肉マン」がまさかの推理小説になった全四話構成の連作ミステリ。容疑者は全て様々な異能力を持つ超人ばかりということで、さぞ物理法則を無視したトンデモトリックばかりなんだろうな……と思いきや、個人的にはそこまで突き抜けた印象は受けなかった。
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posted at 21:56:25
意外にも(?)ミステリの定番を押さえたトリックだったり東川作品のようにギャグの中に重要な伏線を隠したりしている点は悪くないものの奇想というには程遠く、そこに期待しすぎると間違いなく肩透かしを覚えることになるだろう。
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posted at 21:56:26
また所々原作のキン肉マンに詳しくないとピンとこないネタがあるのが良くも悪くも同人誌っぽい。とはいえ四話目で使われた殺人トリックに限って言えば良い意味で悪魔的なイヤらしさがあり、総じてキン肉マン好きでミステリファンなら一読の価値はあるかもしれない。
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