麻里邑圭人
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- 現在地 涅槃
- 自己紹介 ミステリ初心者。非実在探偵小説研究会所属。 【好きな作家】飛鳥部勝則/梶龍雄/殊能将之/早坂吝/麻耶雄嵩 【好きな作品】「カルロッツァの翼」「殉教カテリナ車輪」「竹馬男の犯罪」「翼ある闇」「魍魎の匣」 【好きな映画】「キルビルVol.1」「サスペリア」「サンタ・サングレ/聖なる血」「ダークナイト」「リベリオン」
2023年06月18日(日)
霞流一「エフェクトラ 紅門福助最厄の事件」読了。数多くの「死に役」を演じた役者・忍神健一。彼の役者生活四十周年を記念するセレモニーを開催することになったがその準備中、足跡のない雪のバンガローで関係者の変死体が発見される。リハーサル現場に立ち会った私立探偵・紅門福助の推理が冴える。
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posted at 16:08:03
作者の抱えるシリーズ探偵の一人・紅門福助が死に役俳優のセレモニー準備中に起きた不可解な連続殺人の謎に挑む長編ミステリ。足跡のない殺人、密室、見立てに加え、女装おじさんなど濃すぎる登場人物しか出てこない本作はどこを切っても作者らしさ全開でファンであれば安心感を覚えることだろう。
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そして肝心のミステリとしてみるとトリック、ロジックに関しては目新しさこそないもののギリギリのバランスで成立させている点は○。だがそれ以上に目を惹くのが見立てに拘り続けた作者らしい事件の構図で、特にその異常さがよく表れた第三の殺人の動機が秀逸。
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もう一つ秀逸なのはタイトルにもなっている「紅門福助最厄の事件」たる所以で、陰惨すぎる事件の後だからこそ良い意味でそのギャップ感が際立っている。本作は相変わらずの詰め込みすぎな内容が好印象の力作である。
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2023年06月19日(月)
朝倉亮介「四季崎姉妹はあばかれたい」5巻(完結)読了。遂に犯人が明らかになり、どう収拾をつけるのかと思ったら転生理由の巧い絡ませ方に感心。またこれまで描いてきたおっぱいvs推理の対立構造をここにきて絶妙な気付きとして使ってきた点も秀逸&ますます性癖が壊れそうな結末に笑ってしまったw
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2023年06月20日(火)
岡田秀文「治験島」読了。西ヶ島――通称、治験島。世界が注目するこの新薬治験の現場で得体の知れない事件が相次ぐ。差出人不明の脅迫文、男性医師の転落死、島内で発見された白骨死体、被験者を襲う異物混入事件……狙われているのは被験者か病院か、それともこの島か?
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時代小説の書き手として知られる作者には珍しい現代を舞台にした長編ミステリ。タイトル通り新薬治験が行われている島で次々と起こる事件はサスペンスタッチで読ませるものの、肝心の解決にかなり問題あり。
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posted at 20:06:04
というのも事件に様々な思惑が絡むのはいいがそれらに一貫性が全くないため、ただバラバラな事件を見せられている印象が強く、しかも不発に終わっている仕掛けやろくに活かされていない要素が多いのも災いして謎が解かれてもすっきりしないのが難。正直悪い意味で読後感がモヤモヤする作品である。
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2023年06月21日(水)
「知りすぎた少女」観了。殺人事件を目撃したヒロインが事件に巻き込まれていくジャッロの原点と言われる作品。過去視をしたような展開やABC殺人事件を彷彿とさせる事件の概要が目を惹くがそれ以上に本作を観ると「サスペリアPART2」がアルジェント版「知りすぎた少女」だったことに驚かされるだろう。
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井上真偽「アリアドネの声」読了。事故で兄を亡くした青年・ハルオは地下にある障害者支援都市で巨大地震に遭遇。殆どの人間が避難する中「見えない、聞こえない、話せない」という三つの障害を抱えた女性が一人地下に取り残されてしまう。生還不能まで六時間。ハルオのドローンによる救助が始まる。
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地震により地下に閉じ込められた全盲で聾唖者の女性をドローンで助けようとする長編ミステリ。救助者が全盲で聾唖者、更に崩落と浸水で救助隊の侵入は不可能。そんな光も音も届かない地下で頼りとなるのはドローンだけという状況をどのようにして打破していくかが本作のミステリとしての肝となる。
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状況に応じたハウダニットの数々をかつて救えるはずの事故で兄を亡くした主人公が兄の口癖だった「無理と思ったら、そこが限界」という言葉を励みに危うげながらも次々とクリアしていくその姿は正に本格ミステリのテクニックを駆使したエンタメという感じでじっくりと読ませてくれる。
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posted at 11:20:39
それでいて物語の緩急の付け方も絶妙で、特に終盤におけるある疑惑と共に主人公の前に立ちはだかるこれまで以上の絶体絶命の状況はエンタメでは定番とはいえ、作者に対して無慈悲さを感じずにはいられないだろう。
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しかしながら主人公がそれを乗り越えた時に生まれるドラマの熱さもさることながら、全ての伏線が収束する最後の一撃が実に秀逸で、ミステリ的仕掛けとエンタメとしての感動が極めて高い次元で融合した傑作と言っていいだろう。
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「歓びの毒牙」再観了。フレドリック・ブラウン「通り魔」を元にしたアルジェントのデビュー作。重大なものを見た筈なのに思い出せない目撃者、黒い革手袋の殺人鬼、不気味な絵、録音された奇妙な音とこの頃からアルジェントの作風が確立されているのがよく分かる。特に反転する真相は今観ても鮮烈。
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2023年06月23日(金)
紙城境介「シャーロック+アカデミー Logic.1 犯罪王の孫、名探偵を論破する」読了。日本で唯一国家探偵資格を取得できる真理峰探偵学園に今年入学したのはかつて犯罪王と称された男の孫と探偵王の養女。そして二人が入学したその日に早速模擬事件が発生し――。これは真実を競い合う新たな学園黙示録。
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傑作ラノベミステリ「僕が答える君の謎解き」二部作の作者による、犯罪王の孫と探偵王の娘が探偵学園で真実を競い合う学園ミステリシリーズの一作目。本作を一言で言えばライトノベル版「探偵学園Q」であり、その舞台設定もさることながら事件の手掛かりが全て太字で示される趣向も正にそれ。
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posted at 01:14:35
だがそれは裏を返せばミステリとしての自信の表れでもあり序盤の模擬事件からしてかなり人を食った内容に仕上がっている点がいい。そして実はそこから作者の仕込みが既に始まっており、それがやがて後半の事件において舞台設定を逆手に取った大胆な仕掛けとして炸裂するに至ってはもはや笑うしかない。
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その一方でロジックを時に弄びつつもここぞというところできっちり決めてくるのが実に心憎いし、それと連動して二人の名探偵が真実を競い合うという売り文句に恥じない熱い展開で盛り上げてくれるのも○。本作は徹頭徹尾ライトノベルだからこそできた本格ミステリで魅せてくれる秀作である。
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紺野天龍「幽世の薬剤師4」読了。冬を迎えた幽世にて「死神」に魂を刈り取られた者は目を覚まさなくなる事件が発生。昏睡に陥った患者を救うため破鬼の巫女・御巫綺翠と共に診療に赴いた薬剤師・空洞淵霧瑚は深夜、ある衝撃的な出会いをすることに――。死神とは誰か。病の原因は、何か。
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posted at 23:11:39
現役薬剤師でもある作者による異世界召還×医療ミステリシリーズの四作目。前作が中編集だったのに対し本作は再び長編に戻ったものの、ミステリとして見た場合、ネタが小粒すぎて短めの長編とはいえ、これ一本で支えるにはやや物足りなさを覚えるかもしれない。
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posted at 23:11:40
むしろ本作は次巻への布石であると同時にメインの二人――御巫綺翠と空洞淵霧瑚のなかなか進展しない関係にやきもきしていた読者にとっては打ってつけの内容と言っていいだろう。とりあえずミステリとしては次巻に期待したい。
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2023年06月24日(土)
月原渉「すべてはエマのために」読了。リサとエマの姉妹が地下水道で出会ったルーマニア負傷兵から指輪を託されてから二年後、看護婦になったリサは雪に閉ざされた邸を訪れる。そこで彼女を待っていたのは自分と同じ顔を持つ黒衣の令嬢とシズカと名乗る美しき女医、そして仮面に纏わる連続殺人だった。
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近年の作者の看板探偵である栗花落静(ツユリシズカ)が「炎舞館の殺人」以来、活躍する長編ミステリ。雪に閉ざされた屋敷で起きる連続殺人、しかも被害者はなぜかいずれも仮面を付けているという謎は異国情緒と相俟って実に魅力的。但し仮面の真相に関してはそれほど意外には感じないかもしれない。
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posted at 16:33:12
むしろ時代背景と結び付いたホワイダニットの方が見所と言えるが、それ以上にその背後に隠された、作者がかなり早い段階から仕込んでいたある真相が秀逸。とはいえやや強引な部分も否めないもののそれが明かされることにより前述したホワイダニットが更に際立つようになっているのは○。
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ポール・アルテ「星を盗む者」読了。夜空に輝いていたはずの星々が瞬時に消失した謎と殺人事件の関係は? ……正直、星々が消失した真相には全く期待していなかったけど(爆)それが事件とお世辞にも巧く絡んでいるとは言い難いのはさすがにどうかと思う。謎が派手であればあるほど滑ってしまう典型。
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2023年06月26日(月)
「シャドー」再観了。人気推理作家の新作を模倣した連続殺人の謎。あざといミスディレクションを盛り込みつつもお馴染みの記憶に絡めた手掛かりで真相を示唆しているのは○。また口に押し込まれるハイヒールや少女を執拗に追いかける犬などアルジェントらしい変態描写も多く因果応報な結末も含め偏愛。
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2023年06月28日(水)
「ジャーロ」再観了。原点回帰的タイトルとは裏腹に演出、音楽、物語、どれ一つとってもアルジェントらしさ皆無のスリラー映画。上映時間92分でも長く感じてしまう中身のなさがアレだが、その一方で所々盛り込まれたアルジェント映画のセルフパロディーと観る者を突き放した苦い結末は嫌いではない。
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ポール・アルテ「吸血鬼の仮面」読了。森深い田舎の小さな村で続発する怪事件。夜ごと目撃される謎の怪人、幽霊騒動、そして一年半前に死んだ筈なのに瑞々しい棺の中の死体……。一方ロンドンで名探偵オーウェン・バーンズが関わったのは降霊術に熱中していた資産家の老女が密室で殺された事件だった。
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名探偵オーウェン・バーンズシリーズの邦訳第五弾は吸血鬼と不可能犯罪を絡めた長編ミステリ。結論から言えば良くも悪くも古めかしい本格ミステリではあるものの次々と繰り出される不可解な謎と雰囲気が魅力的なので、端からそういうものだと割り切って読めばそれなりに楽しめるだろう。
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どちらかというとトリックよりも人間関係のミスディレクションとそれが明かされた後に見えてくる事件の構図の方が見所で、個人的には不可能犯罪よりもそちらに注目して読むことをお勧めしたい作品である。
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