麻里邑圭人
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- 現在地 涅槃
- 自己紹介 ミステリ初心者。非実在探偵小説研究会所属。 【好きな作家】飛鳥部勝則/梶龍雄/殊能将之/早坂吝/麻耶雄嵩 【好きな作品】「カルロッツァの翼」「殉教カテリナ車輪」「竹馬男の犯罪」「翼ある闇」「魍魎の匣」 【好きな映画】「キルビルVol.1」「サスペリア」「サンタ・サングレ/聖なる血」「ダークナイト」「リベリオン」
2022年05月21日(土)
島田荘司「サテンのマーメイド」読了。アメリカ西海岸で探偵をする私の許に雨の金曜日の夜、サラと名乗る美女がやって来て、フェラーリを駆って自分を12時までにサウスポイントまで運んでほしいと依頼してくる。そして同じ頃250マイル離れた二つの町では同じ男が轢き殺される奇妙な事件が起きていた。
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私立探偵が雨の夜に現れた美女の奇妙な依頼に端を発する事件の謎を追う長編ミステリ。基本的な展開は王道のハードボイルドながら、その一方で250マイル離れた二つの町で同じ男が轢き殺されるという奇想溢れる謎や、終盤に不可思議な光景をさらりとぶちこんでくる点は正にこの作者ならではだろう。
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そして真相もまたふるっていて前述した不可思議な光景がまさかの気付きとなって冗談としか思えない事件の構図が明らかになるのだから畏れ入る。それでいてカーチェイスや格闘、美女とのロマンスといったエンタメ要素も抜かりなく、ハードボイルドと本格ミステリで二度美味しい傑作と言っていいだろう。
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2022年05月22日(日)
「鮮血の女修道院/愛欲と情念の呪われた祭壇」観了。メキシコの修道院を舞台に悪魔に魅入られた少女たちを描いたゴシックホラー。幻想と官能が交錯する悪魔との邂逅、少女たちが見せる異常性、悪魔祓いの儀式を経て、文字通り鮮血と炎に彩られた阿鼻叫喚の地獄絵図へと雪崩れ込んでいく様が実に圧巻。
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「シェラ・デ・コブレの幽霊」観了。ゴーストハンターが死者からかかってくる電話の謎を調査する話。タイトルにある通り幽霊譚ではあるがどちらかというとホラー要素のあるミステリといった趣で、最終的には幽霊より人間の怖さの方が印象に残る。とはいえ幽霊の演出は当時としては頑張っていると思う。
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2022年05月24日(火)
我孫子武丸「残心 凜の弦音」読了。翠星学園高校二年生の篠崎凜は弓道に打ち込んできたが師匠の棚橋先生が亡くなった時から弓を射る事ができなくなる。そんな凛に手を差し伸べたのはライバルの波多野だった。やがて三年生になり弓道部部長となった凛は様々な人々や事件とぶつかりながら成長していく。
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一人の弓道少女の成長を活き活きと描いた連作短編集「凛の弦音」の続編。前作も青春小説がメインでミステリ要素はオマケに過ぎなかったが、本作では更に青春小説部分がマシマシになりミステリ要素は前作以上に影が薄くなっている(とはいえきちんと弓道と絡めて物語に違和感なく溶け込ませているが)。
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本作での凛は恩師の死や進路の問題に悩みつつも自分にとって弓道とは何かを更に突き詰めていく事になる。あくまで前作の延長線上の物語であるためいきなり本作から読むことはお勧めできないが逆に前作既読の人であれば凛の成長やラブコメ要素(?)を交えた人間模様などが問題なく楽しめる作品である。
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2022年05月25日(水)
てにをは「また殺されてしまったのですね、探偵様3」読了。嵐に閉ざされた孤島での不可解な殺人を解決した朔也たち。だが事件はまだ終わっていなかった。まるで探偵たちを嘲笑うかのように続く殺人。更に翌朝六時までに事件を解決しなければ島にミサイルが着弾する時間制限を突きつけられてしまい――。
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殺されても生き返る高校生探偵・追月朔也が事件の謎を解くシリーズの三作目。メインは前巻からの続きである伝説の孤島で起こる凄惨な殺人事件を描いた「画廊島の殺人―後篇―」で、シリーズ初の長編ともあって、だいぶネタが詰め込まれた内容に仕上がっている。
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但しネタ自体は相変わらずどこかで見たものながら、これまで扱ってきた事件の中では最も巧く成立しており、前篇で解決した事件の真相がちょっとアレだったのも今回のミスディレクションのためだったと考えれば、まだ許容範囲と言えるだろう。
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ただその一方でメインの物語の鍵を握る「最初の七人」が出揃ってくるにつれシリーズが今後ミステリから逸脱しそうな不穏な空気が感じられるものの、個人的には折角今回の事件でようやくミステリとして持ち直したのだから、何とか作者には今後もミステリで踏みとどまってもらいたいと思う次第である。
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2022年05月26日(木)
鳥飼否宇「異界」読了。明治三十六年春、那智勝浦で狐憑きの奇怪な少年の姿が相次いで目撃される中とある病院で乳児が攫われる事件が発生。博物学者・南方熊楠は弟子と共に事件解決に乗り出すが、やがて事態は殺人へと発展して――。日本の風土に根づいた神秘を繙きながら明かされる驚天動地の真相とは?
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博物学者として知られる南方熊楠を探偵役にした伝奇色の強い長編ミステリ。南方熊楠は実在の人物であるものの、その行動パターンは作者が手掛けるシリーズ探偵の一人である〈観察者〉こと鳶山久志と色々被るところが多いのがまず興味深い。
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また「異界」というタイトルに相応しく、秘境・熊野を舞台に次々と起こる伝説になぞらえたような事件の数々が、学者らしい生物観察によって解き明かされる点も面白い。ただ惜しむらくは幾つかの謎に関しては謎解きに入る前に現代人の視点からだいたい見当がついてしまうのが難。
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posted at 22:23:03
とはいえそうやって判明したそれらの事実を有機的に繋げて因縁めいた構図を浮かび上がらせてみせた手腕はさすがだし、謎解きに入る前の意外なところにさりげなくサプライズを仕掛けているのもいい。何より最後に明かされるある趣向にミステリファンであればニヤリとすること請け合いの佳作である。
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2022年05月27日(金)
鳥飼否宇「昆虫探偵 シロコパκ氏の華麗なる推理」読了。ある朝目覚めるとゴキブリになっていた元人間のペリプラ葉古。無類のミステリ好きだった葉古は昆虫界の名探偵・熊ん蜂シロコパκの助手となった。人の論理が通用しない異世界で巻き起こる難事件をクロオオアリの刑事の力も借りて解決していく。
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posted at 21:29:24
昆虫界で起きた七つの不可解な事件をタイトル通り昆虫探偵が解き明かす連作ミステリ。登場人物(?)が全て昆虫である点、それ故に扱っている事件が全て昆虫ならではのものである点もユニークだが、特筆すべきはやはり全編国内ミステリの名作・傑作のパロディーになっている点だろう。
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posted at 21:30:07
恐らくミステリファンであれば「蝶々殺蛾事件」「吸血の池」「生けるアカハネの死」「ジョロウグモの拘」といった目次のタイトルを見ただけでピンとくるに違いない。ただその一方で特殊な昆虫の生態をミステリ仕立てで描いている側面もあるため謎に期待し過ぎるとやや肩透かしを覚えるかもしれない。
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posted at 21:30:32
とはいえ中にはきちんとミステリとしても巧く決まっているものもあり特に「ジョロウグモの拘」は異形の論理物としても楽しめる事だろう。また本作を読んでいくにつれて読者は本作のタイトルの一部に違和感を覚えるかもしれないがそれに関してはトリを飾る「ハチの悲劇」で綺麗に解消されるので無問題。
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それだけでなく元ネタのハードな要素を活かしつつ、まさかの伏線を用いて本来なら有り得ないオチを成立させてしまったところが素晴らしい。本作は唯一無二の昆虫ミステリと秀逸なミステリパロディーを両立させた良作である。
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2022年05月28日(土)
村崎友「風琴密室」読了。夏休みのバイトで仲間たちと廃校の小学校の片付けをしていた高校生の凌汰はそこで偶然、六年前に引っ越しで離れ離れになった少女と再会する。その後凌汰たちは廃校に宿泊するが翌朝、台風により廃校に閉じ込められたばかりか仲間の一人がプールに沈んでいるのが見付かり――。
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嵐によりクローズド・サークルと化した廃校で起きた連続殺人と密室の謎を扱った長編ミステリ。メインの事件が始まるのが全体の半分近く過ぎてからなのがやや気になるが、その間に語られる過去のエピソードなどの青春要素が後々エグミとして活きてくるのが「夕暮れ密室」を書いたこの作者らしい。
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また本作の冒頭の引用文や事件のシチュエーション、そして探偵役からはどことなく有栖川有栖の学生アリスシリーズを想起させるが、実際本作はフーダニットとしてよくできており、密室の謎も犯人を突き止める手がかりとして有機的に繋がってくるのがいい。
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その一方で学生アリスシリーズにはなかったある要素が本作には盛り込まれており、それが前述したエグミと共に帯に書かれている「犯人の名が明かされるとき、世界は一変する」サプライズとして機能する点が実に秀逸。
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2022年05月29日(日)
フィン・ベル「壊れた世界で彼は」読了。民家に銃を持った男数名が侵入し立てこもる事件が発生した。やがて爆発を機に機動隊が突入し妻と娘たちを救出。だが家には犯人五名の遺体はあったが夫の姿がなかった。警察は犯人の一人が夫を人質にして逃亡したと考える。謎めいた行動を取る犯人の目的とは?
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奇妙な立てこもり事件に端を発する、主人公のニック刑事含む警察の必死の捜索劇を描いた長編ミステリ。前作「死んだレモン」では主人公の絶体絶命の状況から幕を開けたが、本作は本作で主人公ではないものの、誰かしら絶体絶命の状況に陥っているのがちょっと面白い。
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posted at 12:44:05
また前作で見られた意外な展開の連続は本作でも健在で、それがたった二日の出来事に凝縮されているのだから実に堪らない。それでいて構成にも抜かりがなく、ちょくちょく挿入される被害者側の視点が後に明かされる真相の衝撃性を高めるのに一役買っているのもいい。
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posted at 12:44:50
そして何よりも秀逸なのは真相が明かされるタイミングで「死んだレモン」同様、主人公がその時極限状態にあるからこそ真相が一段と衝撃的なものになっている点が素晴らしい。加えて主人公の最後の決断もまた強烈で、真相とそれを踏まえた主人公の行動により読了後呆然となること請け合いの秀作である。
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