麻里邑圭人
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- 現在地 涅槃
- 自己紹介 ミステリ初心者。非実在探偵小説研究会所属。 【好きな作家】飛鳥部勝則/梶龍雄/殊能将之/早坂吝/麻耶雄嵩 【好きな作品】「カルロッツァの翼」「殉教カテリナ車輪」「竹馬男の犯罪」「翼ある闇」「魍魎の匣」 【好きな映画】「キルビルVol.1」「サスペリア」「サンタ・サングレ/聖なる血」「ダークナイト」「リベリオン」
2022年12月13日(火)
高野和明「踏切の幽霊」読了。1994年冬。東京・下北沢の三号踏切で撮影された一枚の心霊写真。同じ踏切では列車の非常停止が相次いでいた。雑誌記者の松田が調べるとそこでは一年前に身元不明の若い女性が殺されていた。彼が被害者について調査を続けるにつれて幽霊事件はやがて思わぬ真実に辿り着く。
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前作「ジェノサイド」から11年ぶりの新作は踏切に現れる女の幽霊を巡る長編ホラーミステリ。作者は過去にも幽霊を題材にした小説を書いているが今回はとりわけミステリ色が強く主人公が調査を進めるにつれてそれまで何気なく描かれてきた様々な出来事とみるみる繋がっていく醍醐味は正にそれだろう。
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その一方でホラーとしての見せ方がまた絶妙で、幽霊として真っ当に(?)事件関係者を怯えさせたかと思えば、ここぞというタイミングで主人公に怪異という形で事件の手掛かりを与えたりと物語における適度なアクセントになっているのがいい。
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それでいてこの作者らしい泣かせの演出も抜かりなく、幽霊となった女に纏わる一部の謎や小道具は勿論のこと、主人公の亡くなった妻のエピソードまで物語と巧く絡めて読者の涙腺を全力で緩ませようとしてくるのがあざといながらも実に秀逸。目新しさこそないが、ツボをついた王道エンタメの秀作である。
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2022年12月14日(水)
鵺野莉紗「君の教室が永遠の眠りにつくまで」読了。小学六年生の葵と同級生でいじめにあっていた紫子は無二の親友だったがある事情により仲違いしてしまう。やがて紫子が転校して間もなく町の住人の失踪事件が続発。更に新しい担任の狭間百合が葵に「あなたの秘密も過ちも知っている」と告げてきて――。
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第42回横溝正史ミステリ&ホラー大賞〈優秀賞〉受賞作。三部構成の本作で特筆すべきはやはり第一部であり仲良しだった二人の少女の関係が拗れて取り返しのつかない事態になっていく過程で読ませるのもさることながらそれ以上に第一部の最後に明かされるある意外な事実には誰もがあっと驚くに違いない。
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但しピークはそこまでで第二部以降の展開に関してはバレバレの書き方のせいでミステリとしてみると大部分がただの確認作業になってしまっているのが難。一応確認作業ではない部分もなくはないが正直大差ないとしか言いようがなく更に設定的にも気になる点が読めば読むほど増えていくのがかなり厳しい。
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細かいところを気にしなければそれなりに楽しめるかもしれないが、そこを差し引いても第一部を超える驚きや盛り上がりが用意できなかったのがつくづく残念な作品である。
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2022年12月16日(金)
ロビン・スティーヴンス/ シヴォーン・ダウド原案 「グッゲンハイムの謎」読了。母と姉と一緒にグロリアおばさんといとこのサリムが住むニューヨークを訪れた12歳のテッド。おばさんが主任学芸員を務めるグッゲンハイム美術館へ赴いたのも束の間、火事騒動と共に名画が盗まれ、おばさんに嫌疑が……。
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前作「ロンドン・アイの謎」に続き自閉スペクトラム症の少年テッドが謎を解き明かすジュブナイルミステリ。前作が衆人環視からの人間消失がメインだったのに対し今回は美術館から名画を盗んだ犯人捜しが物語の主軸となっており誰に犯行が可能だったかの検証は地味ながら相変わらず丁寧で好感が持てる。
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ミステリとしてみると前作よりも謎の難易度は上がっており、犯行が可能だった人物=犯人というシンプルな構造ながらも巧く捻りを入れて(とはいえ似たような前例がなくはないが)、おいそれと犯人に辿りつけないように工夫が凝らされているのは○。
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また警察に逮捕されてしまったおばさんを一刻も早く助けなければいけないというタイムリミットサスペンスが物語のアクセントになっているのもいい。そして何より亡き作者に代わり別の人間が執筆しているにも拘わらず全く違和感のない物語が秀逸で前作が好きだった人こそ是非読んでほしい良作である。
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2022年12月17日(土)
「かぐや様は告らせたい-ファーストキッスは終わらない-」観了。氷かぐや編の映画化。原作では評判が悪いとされる話ながらアニメで通して観てみるとこれはこれで悪くないと思う(とりあえず医者と藤原家には笑ったw)。基本的にはTVシリーズと変わらないが映画だけあって演出がゴージャスなのは○。
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ルディー和子「ピンクのおもちゃネコ殺人事件」読了。罪をバラされたくなかったら三千円寄付しなさい――奇妙な脅迫状が事件の発端だった。化粧品会社で発見された全裸死体にはなぜか新製品の香水〝ピンクのおもちゃネコ〟がたっぷり振りかけられていた。更にその香水の発表会で絞殺死体が発見されて――。
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新製品の香水を巡る殺人事件の顛末を描いた長編ミステリ。いかにも昭和らしい通俗的なキャラクター描写や文体は好みが分かれるものの、それでも本作にはミステリとして見るべきポイントが二つある。まず一つ目は死体に香水が振りかけられていた理由で、これはちょっとした盲点をついた面白さがある。
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そして二つ目は第二の事件の状況から導き出される犯人特定のロジックで、この探偵役の性格だからこそ気付けたという点も相俟ってシンプルな巧さがある。ただ惜しむらくは全体としてみると有機的な繋がりは一切なく構図としての美しさは欠片もない点だがそこに目を瞑れば部分的に評価できる快作である。
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2022年12月20日(火)
輝井永澄「名探偵は推理で殺す 依頼.1 大罪人バトルロイヤルに潜入せよ」読了。絶命した高校生名探偵・明髪シンは気が付くと様々な世界から大罪人が送り込まれてくる世界【監獄界】にいた。そこでとある依頼を引き受けたシンは大罪人たちが命を懸けて殺し合う《闘争裁判》に参戦することになり……!?
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posted at 21:07:40
異世界で名探偵が推理を武器に大罪人たちと戦うバトルロワイヤル物。推理が武器ということでミステリ的ノリを期待する読者もいるかと思うが生憎本作の名探偵は被害者が短時間のうちに悲鳴も上げず滅多刺しにされた謎に対し犯人がそういう能力だったの一言で片付けるため大いに肩透かしを覚えるだろう。
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posted at 21:08:00
とはいえ名探偵らしさが全くないわけではなく推理は基本的にバトルもとい《闘争裁判》を通して得られた手がかりを元に大罪人たちの罪に隠された秘密を看破するのに活用されており、しかも《闘争裁判》のルールではそれによって相手が本当の罪を認めると報い=死を迎えるようになっているのが興味深い。
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しかしながら本作の時点でその設定が十二分に発揮されているかというとやや疑問が残るところではあるものの、それでも後半の展開からはこの世界の謎やコンゲーム要素が絡んできて面白くなりそうな気配は感じるので、引き続き2巻以降に期待したい。
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2022年12月22日(木)
連城三紀彦「黒真珠 恋愛推理レアコレクション」読了。一人の男を巡る二人の女の対決を描いた表題作の他、弁護士が奇妙な依頼人に振り回される「過剰防衛」と「裁かれる女」、妻の轢き逃げ事件が思わぬ展開を見せる「紫の車」、旅館の美しき女将に隠された驚きの秘密「ひとつ蘭」など全十四編を収録。
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posted at 11:17:07
これまで単行本未収録だった恋愛ミステリ物の短編と掌編計十四編を収録した作品集。連城作品に造詣が深い浅木原忍氏の解説でも語られているように本作は単なる落ち穂拾い集とは思えないクオリティーの作品が揃っており、いずれもこの作者ならでの愛憎劇と構図の反転が堪能できる内容となっている。
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posted at 11:17:28
収録作で特に印象に残ったものだと目まぐるしいまでに二転三転する展開の表題作や「裁かれる女」も捨て難いがやはりオチの切れ味では「過剰防衛」が掌編ながら頭一つ抜きん出ている。また個人的な偏愛作で選ぶならカムフラージュでそこまでするかという異様な構図が強烈な「ひとつ蘭」になるだろう。
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その他、構図の反転の後に浮き彫りになる隠された想いがタイトルと共に沁みてくる「片思い」や、家族だからこそ解ける日常の謎が秀逸な「白い言葉」も捨て難い。総じて作者の最後の作品集として見逃せない作品集である。
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2022年12月24日(土)
「ナイブズ・アウト グラス・オニオン」観了。名探偵ブノワ・ブランが活躍するシリーズの二作目。孤島を舞台にした今回は前作とはまた違った二重構造の物語がまず秀逸でそれが明かされて一変する事件の様相と映像ならではの大胆な犯人の手口もさることながら舞台装置を活かした終盤の展開が実に痛快。
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小森収「明智卿死体検分」読了。その男は四阿いっぱいの雪に埋もれて凍死していた。明らかに魔術を使った犯行。だが魔術を使って人を殺めるとその証が術者の相貌に顕われるにも拘わらず関係者にはその気配はなかった。この不可解な謎に権刑部卿・明智小壱郎光秀と陰陽師・安倍天晴の二人が挑む。
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アンソロジー&評論書「短編ミステリの二百年」の著者による異世界本格ミステリ。まず冒頭で作者は本作についてランドル・ギャレット「魔術師が多すぎる」のシリーズにインスパイアされた作品であり、シリーズを全く知らなくても本作を読むのに支障はないと語っている。
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そしてかくいう自分がシリーズ未読だったりするわけだが、その上で本作を読んだ感想を率直にいうと徹頭徹尾面白くない。謎だけ取り出せば魅力的だし色々事件が起こっているはずなのに文章は勿論描写一つとっても淡々としていて全く盛り上がらない。
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加えて謎を盛り上げるよりも策謀の方に筆が割かれているせいで謎解きの印象が薄い上に事件を構成するにあたって必要な人物描写が稀薄なのも相俟って驚きもないただの説明に感じてしまうのが痛い。更に古風な言い回しが多用されているのも読み辛さに拍車をかけており個人的にはただただ辛い読書だった。
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2022年12月29日(木)
二階堂黎人「悪霊の館【完全版】」再読了。不気味な逆五芒星の中央に捧げられた二重鍵密室の首なし死体、邸内を徘徊する西洋甲胄姿の亡霊……呪われた遺言を機に資産家一族・志摩沼家の住む大邸宅で続発する血みどろの惨劇。そして真実を追う名探偵・二階堂蘭子にも遂に殺人者の魔の手が……!
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名探偵・二階堂蘭子シリーズの四作目。本作は予告されながらも書かれることがなかった高木彬光「甲冑殺人事件」を作者なりに書いてみた作品であり、確かに密室を始め様々な局面で甲冑が出てくるもののそれを活かしたトリックに期待すると良くも悪くもシンプルすぎてやや肩透かしを覚えるかもしれない。
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むしろ本作は散りばめられた大小様々な謎を魔女伝説が絡む壮大な伝奇ロマンで纏め上げたプロットこそが最大の見所であり、そこに作者の持論である「ロジックよりもトリック、トリックよりもプロット」が存分に活かされていたことが最後まで読むと良く分かるだろう。
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とはいえロジックやトリックをないがしろにしているわけでは決してなく、例えば犯人を特定するロジックは抜かりがないし、犯人が駆使した猟奇的なトリックにしても普通にやったら明らかに不自然な部分をオカルト要素が絶妙な隠れ蓑になっている点が実に秀逸。
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posted at 19:25:32
そして何より計算された謎解きの順番によって過去の因縁が積み重なり凄惨さを増していく動機が素晴らしい。本作は「人狼城の恐怖」ほどではないにしろ、壮大なスケールの伝奇ロマンと本格ミステリの謎解きが詰まった傑作である。
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