麻里邑圭人
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- 現在地 涅槃
- 自己紹介 ミステリ初心者。非実在探偵小説研究会所属。 【好きな作家】飛鳥部勝則/梶龍雄/殊能将之/早坂吝/麻耶雄嵩 【好きな作品】「カルロッツァの翼」「殉教カテリナ車輪」「竹馬男の犯罪」「翼ある闇」「魍魎の匣」 【好きな映画】「キルビルVol.1」「サスペリア」「サンタ・サングレ/聖なる血」「ダークナイト」「リベリオン」
2013年05月01日(水)
西村京太郎「南神威島」読了。南の無医島に赴任した青年医師が巻き込まれる伝染病騒動と惨劇。表題作を始め、血の繋がらない母親に想いを寄せる少年の葛藤「幻想の夏」、若者の自殺の理由に迫る「手を拍く猿」、理不尽な殺意「カードの城」、幼児の変死事件に執着する刑事の真意「刑事」の四編を収録。
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posted at 20:09:49
「推理小説もまた、小説でなければならない」というあとがきの言葉からも分かるように、本作にはミステリというよりも小説として優れた短編が収められている。人間の心の機微を様々なシチュエーションから描いていくその手腕は、さながら石沢英太郎にも通じるものがある。
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posted at 20:10:09
個人的なベストを挙げるなら「幻想の夏」で、報われない少年の恋心が、ある出来事を機に一つの悲劇へと向かっていく様が堪らない。尤もこの作品に惹かれたのは自分が梶龍雄好きだからかもしれないが(爆)。
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2013年05月02日(木)
斎籐栄「赤蛇家の惨劇」読了。家族の胸に蛇模様の痣があることから『赤蛇家』と呼ばれる大河内家の当主・光太郎が嵐が去った後の土砂の中から刺殺体となって発見された。財産目当てか呪われた血縁ゆえか、それを皮切りに次々と殺されていく一族。そして殺人鬼の影は盲目の美少女・桜子の身辺にも……。
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posted at 21:23:25
作者が「殺人の棋譜」と共に江戸川乱歩賞に投じ、最終候補に残った作品。タイトルやあらすじから受ける本格ミステリの王道を地でいくような派手な印象とは裏腹に、どうにもぱっとしない読書体験を強いられるが、それも終盤の謎解きに至ると一転して、お下劣ミステリ(!)へと変貌する。
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posted at 21:24:13
正直アリバイトリックに関しては絵面的に最悪の一言に尽きるが、インパクトだけはかなりのもの。また犯人を特定する物的証拠もこれに負けず劣らず(?)お下劣極まりないもので、特にこれを探している光景は絶対に人には見られたくないと言っていいだろう。
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2013年05月07日(火)
浅岡沙織「悪魔の家系図~エラリー・クイーンへの挑戦状~」読了。舞台はイギリス。様々な陰惨な過去を持つ元修道院の屋敷へ美術品の査定にやって来たアメリカ人青年のジョシュとその友人ザックは、滞在三日目に主人の毒殺事件に巻き込まれる。状況的に毒を盛ることができたのは一人しかいないが……。
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posted at 09:19:03
ミステリ新人賞の落選作が自費出版されて世に出た例は幾つかあるが、本作もまたその中の一つ。文庫形式で約五百頁とかなりのボリュームがあるが、正直なところ、それに見合った内容とはお世辞にも言い難く、回りくどい文体や無駄な描写で水増しした感が否めない。
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posted at 09:20:03
その上事件はなかなか起きず、ようやく起きても検証を細かくやり過ぎてかなりだれる。だがそれ以上にやり過ぎなのが事件の謎解きであり、読んでいて思わず飛ばしたくなったのは自分が覚えている限り相村英輔の「偽装」以来である。
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posted at 09:20:41
それでもウリであるロジックに見るべきところがあればいいのだが、そのロジックにしても「可能性が高い」「思う」「だろう」に終始し、イマイチ説得力に欠ける。また動機に関しても後付け部分が多い上に、事件の引き金になったものがかなり無茶過ぎる。
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posted at 09:21:07
にも拘わらず「証拠はなかった…。だが、これほどまでに整合性を持って全ての事実が繋がったとなれば――、もはや他の可能性なんて、追求する必要はないとさえ思えた…」と言い切ってしまう探偵役がかなりアレ。本作は帯にある「エラリー・クイーンも脱帽!?」の「!?」が全てを物語る作品である。
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鳥飼否宇「憑き物」読了。植物写真家の猫田夏海と生物の知識に精通した〈観察者〉こと鳶山久志の二人が遭遇した、憑き物に纏わる四つの事件。表題作他、「幽き声」「呻き淵」「冥き森」の三編を収録。
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posted at 22:35:24
前作「物の怪」が河童や天狗、鬼といった物の怪に纏わる謎を論理の刃で斬るミステリだったのに対し、本作は差し詰め「憑き物」に纏わる謎を知識の刃で斬るミステリ。というのも本作の謎の大半が特殊知識にかなり依存しており、本格ミステリとしてはどうにも評価しづらいのだ。
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posted at 22:36:13
ただその代わりに連作ミステリとしては前作よりも作り込まれており、「憑き物」という古風な題材に反して、やたらと現代的なオチを持ってきているのが面白い。個人的なベストは村社会と謎の結び付きが秀逸な「呻き淵」。
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2013年05月08日(水)
碇卯人「杉下右京の事件簿」読了。ドラマ「相棒」のオリジナル小説第一弾。スコットランドの伝統あるウイスキー蒸留所で目撃される伝説の巨人と二つの密室殺人に挑む「霧と樽」、逃亡中の暴力団幹部がいく先々で相次ぐ変死事件と奄美大島に伝わる妖精の目撃情報の関連性「ケンムンの森」の二編収録。
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posted at 21:42:34
霧の中で目撃される伝説の巨人、その巨人に潰されたと思しき死体、蔵と樽による二重密室……スコットランドと巨人の組み合わせというと自分は真っ先に島田荘司「暗闇坂の人喰いの木」を思い出すが、本作収録の「霧と樽」の謎もまた「暗闇坂」に勝るとも劣らない奇想に満ちている。
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posted at 21:43:45
そして、その真相も「暗闇坂」における「巨人の家」を彷彿とさせる実に大胆かつ豪快なもので、正直この発想は全く想定していなかった。舞台設定を見事に活かした秀作と言っていいだろう。
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posted at 21:44:05
一方「ケンムンの森」はミステリとしてみると伏線があからさまで大半の人が途中で真相に気付いてしまいそうだが、その代わり「霧と樽」にはなかった手に汗握る展開と活劇シーンで魅せてくれる。言うなれば本作は本格ミステリとエンタメで二度美味しい中編集である。
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posted at 21:44:23
2013年05月09日(木)
西村京太郎「おれたちはブルースしか歌わない」読了。おれと仲間四人で結成した「ザ・ダックスフント」の渾身の一曲が盗作された。その犯人を追って静岡県の武家屋敷までやって来たおれたちは、そこで恐怖の連続殺人劇に巻き込まれる。幽霊と密室に彩られた惨劇の果てにおれが辿り着いた真相とは?
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posted at 22:33:59
西村作品の中では数少ない青春ミステリにして、読者への挑戦付きの本格パズラー。バンド活動に明け暮れる若者の視点で描かれる物語は西村作品においては実に新鮮で、盗作騒動にいなくなった飼い犬探しと私立探偵殺しが絡んで展開する前半はさながら軽ハードボイルド風。
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posted at 22:34:18
だがそれも中盤に至るなり、カラクリ仕掛けのある武家屋敷を舞台にした連続殺人というまさかのガチガチの本格ミステリへと変貌を遂げる。その破格の構成は一見意外性を狙っただけかと思いきや、そこにはきちんと作者の企みが潜んでおり、それに気付かないと恐らく真相を見抜くことはできないだろう。
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posted at 22:35:28
また本作は伏線の張り方が非常に巧く、何気ない猥談や人物描写が後々事件においてとんでもない役割を担っていたりするので要注意。読者への挑戦で求められる解答は犯人と動機だけといたってシンプルだが、その裏では作者が周到に罠を張り巡らせている、実に油断ならない秀作である。
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posted at 22:35:56
2013年05月10日(金)
辻真先「弔い島殺人ステージ」読了。目の不自由な主人公を描くために自らマスクで目をふさぎ、離れ小島・とむらい島へやって来た推理作家の高篠英麗奈と編集者の浅田。だがその翌日に浅田が何者かに崖から突き落とされ、竹に串刺しになった無残な死体で発見される。そして、殺人の疑いが英麗奈に……!
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posted at 17:56:07
マスクが外せなくなるというアクシデントのために、ヒロインが目の見えない状態で殺人犯から逃げつつ事件を推理するという一風変わった設定は面白いが、その反面、何故作者がそんな設定を持ち込んだのかという点に着目するとすぐに犯人が分かってしまうのが難。
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posted at 17:56:46
また個人的には「作者ももてあますほどの性悪女」であるヒロインのキャラがかなり辛く、ミステリ以外の部分でも人によって好みが大きく分かれる作品と言えるだろう。
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2013年05月12日(日)
上田志岐「ぐるぐる渦巻きの名探偵」読了。ぐるぐる渦巻きの中心では全ての謎が謎でなくなりそこにはどんな難事件でも解決できる名探偵が住んでいる――ある日、女子高生の加奈子は迷い込んだ古びた洋館で《カタリ屋》と名乗る不思議な人物と知り合うが、それから間もなく連続殺人に巻き込まれて……。
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posted at 19:37:26
第二回富士見ヤングミステリー大賞「竹河聖賞」受賞作。本作もまた「名探偵」テーマを扱った作品であり、そこに「竹河聖賞」らしくファンタジー要素を盛り込んでいるのが特徴。だが、本作での名探偵に対する扱いは定番の域を出ておらず、目新しさは一切感じられない。
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posted at 19:38:14
また名探偵が挑むにしては事件に花がなく、動機も前例ありなのがいただけない。更にガジェットやメタ要素にしても雰囲気作り以上の効果はなく、必然性に乏しいのが残念。作者曰く「名探偵がいるから殺人事件がおこる世界」を描きたかったとのことだが、それなら、もっと独自性を出してほしかった。
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posted at 19:39:02
日下圭介「笛の鳴る闇」読了。奥秩父にある山荘の地下室で半裸状態の若い女の絞殺体が発見された。発見時、現場は完全な密室状態で、死体の回りにぶちまけられた青いペンキの海にはあるべきはずの犯人の足跡が存在しなかった。更に被害者は平将門伝説を示していると思しき暗号を残していて……。
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posted at 19:39:32
密室トリックにしろ暗号にしろ、作者が自信を持つだけあってよく練られているが、それ以上に目を惹くのがミスディレクションの巧さだろう。特にあるものに関してはミスディレクションの方がメインじゃないか思えるほどの凝りようで、つくづく感心させられる。
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posted at 19:40:09
また終盤は一転して倒叙物のような展開になり、犯人をじわじわと追い詰めていく女刑事のサドっぷり(?)が堪能できるのも○。一部、仕掛けの必然性に疑問が残るものの、それ以外の部分で見るべきところが多い良作である。
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posted at 19:40:35