麻里邑圭人
- いいね数 9,797/10,375
- フォロー 1,028 フォロワー 1,647 ツイート 91,937
- 現在地 涅槃
- 自己紹介 ミステリ初心者。非実在探偵小説研究会所属。 【好きな作家】飛鳥部勝則/梶龍雄/殊能将之/早坂吝/麻耶雄嵩 【好きな作品】「カルロッツァの翼」「殉教カテリナ車輪」「竹馬男の犯罪」「翼ある闇」「魍魎の匣」 【好きな映画】「キルビルVol.1」「サスペリア」「サンタ・サングレ/聖なる血」「ダークナイト」「リベリオン」
2018年10月05日(金)
西澤保彦「いつか、ふたりは二匹」読了。突続、眠りに就くことで猫の身体に乗り移れる能力に目覚めた菅野智己が六年生の時、クラスメイトを含め三人の女子児童が襲撃される事件が発生した。一人が重態になったこの事件は昨年秋に町内で起きた女子児童誘拐未遂事件の犯人と同一人物の仕業のようで……。
タグ:
posted at 15:29:14
ジュブナイルミステリレーベル〈ミステリーランド〉用に書かれた作品。作者らしいSF的設定が盛り込まれている一方である程度読み進めてもどこに謎があるのかピンとこないかもしれないが、そんな中、急転直下と言うべきショッキングな展開と共に予想外の真相が明かされるところがいい。
タグ:
posted at 15:29:26
加えてその真相はジュブナイルならではの人間のイヤらしさに満ちており、それがタイトルの意味と相俟って結末のほどよい苦さと温かさを絶妙に引き立てている。本作は子供向けでも手を抜かず、きっちり作者の個性を発揮した良作である。
タグ:
posted at 15:29:36
2018年10月06日(土)
小杉健治「偽証」読了。殺人容疑の男は犯行時刻、映画館にいた。だが、それを証明できる女はなぜか証言を拒む……表題作ほか、妻との旅行がきっかけでかつて愛した女に纏わる暗い過去の事件が甦る「消えた女」、夫を殺そうとした女のアリバイ工作に協力した画家に隠された秘密「隠し絵」など七編収録。
タグ:
posted at 17:22:42
作者が得意とする法廷ミステリや美術ミステリなどを収録した短編集。収録作のほとんどに何かしらの捻りが用意されており、前半の法廷ミステリ二編などは割りとシンプルな構成を活かした捻りだったのに対し後半の「消えた女」以降の三編は様々なエピソードを盛り込み二転三転の捻りをきかせている。
タグ:
posted at 17:22:57
ベストを挙げるとするなら「消えた女」か「隠し絵」になるが、いずれも狭義のミステリとしてみるとアンフェアなきらいがあるのが難。むしろシンプルな構成を逆手にとって偽証の狙いに意外性を凝らした表題作や「赤い証言」の方が説得力は高いかもしれない。
タグ:
posted at 17:23:08
2018年10月08日(月)
「スパズモ」観了。何度殺しても追いかけてくる殺し屋と何かを暗示するように殺される人形たち。狭義のミステリとしてみるとややアンフェア感が否めないものの何が起こっているのかというホワットダニットの演出が巧みで謎また謎の後に待ち受ける救いのなさと相俟って忘れ難い印象を残す作品である。
タグ:
posted at 02:37:45
2018年10月10日(水)
小杉健治「動機」読了。行方不明の芸者の千代子は、隅田児童公園の隣りの空地に埋められている――差出人不明の手紙の告発で殺人事件が明るみになり、彼女を世話していた船原昇吉が逮捕された。本当に犯人は船原なのか? そして動機は? 表題作ほか、事件の様々な「動機」に迫る六編収録。
タグ:
posted at 03:53:04
事件の動機に纏わる短編集。動機と一言で言ってもその見せ方は男女の愛憎劇や社会派など様々であり、加えて収録作の大半が作者が得意とする法廷ミステリであるのも嬉しい。但し奇抜なものはほとんどなく、どちらかというと事件の裏に隠されていた思惑を浮き彫りにする作りとなっている。
タグ:
posted at 03:53:23
ミステリ的には表題作が最も意外性があるが、社会派としての問題提起という意味では障害者問題や生活保護の実態を扱った「手話法廷」「福祉裁判」が読ませる。全体的に派手な要素はないが、事件を通して人間性を丁寧に描き出した滋味深い作品集である。
タグ:
posted at 03:55:50
田村由美「ミステリと言う勿れ」3巻読了。二巻後半から始まった遺産相続を巡る一族の話の続き。この手の話のお約束に対するずらしが秀逸で殺人が起きそうで起きない絶妙な緊張感を保ったまま過去の事件のおぞましい真相に迫っていく過程が実にいい。さながら西澤保彦meets横溝的な内容で面白かった。
タグ:
posted at 09:11:49
2018年10月11日(木)
東野圭吾「沈黙のパレード」読了。突然行方不明になった町の人気娘・佐織が数年後に遺体となって発見された。容疑者はかつて草薙が担当した少女殺害事件で無罪となった男。だが今回も証拠不十分で釈放されてしまう。それから間もなく秋祭りの最中、男が変死を遂げる。復讐劇はいかにして遂げられたか?
タグ:
posted at 23:46:21
物理学者の湯川学が探偵役を務めるガリレオシリーズ久々の長編作品。帯にある「容疑者は彼女を愛したふつうの人々」という文句と粗筋からぴんとくる人もいるかもしれないが、本作は某古典ミステリのガリレオ版とも言うべき内容に仕上がっている。
タグ:
posted at 23:47:16
その殺害方法や犯行計画はよく練られてはいるものの基本的には想像の範囲内から出ることはなく、良くも悪くも堅実だなあ……と思っていると最後の最後で足元を掬われることになる。この終盤の展開こそが名探偵の本領発揮であると同時に改めてこれを成立させたキャラ設定の巧さに唸らされることだろう。
タグ:
posted at 23:47:59
2018年10月12日(金)
川澄浩平「探偵は教室にいない」読了。海砂真史の幼馴染み・鳥飼歩は別々の小学校に入って以来、長いこと会っていなかったが聞くところによると中学生になってから学校にもあまり行っていないらしい。ある日真史の許に届いた差出人不明のラブレターを巡って真史は九年ぶりに歩と再会を果たす。
タグ:
posted at 15:14:20
第二十八回鮎川哲也賞受賞作。日常の謎を通して少年少女が新たな扉を開く瞬間を切り取った四編からなる連作形式の本作はキャラは立っているし文章も軽やかで、青春小説としてみればまずまずの評価と言ってもいいかもしれない。
タグ:
posted at 15:14:48
しかしながらこの賞に求める本格としてみると丁寧ではあるものの全体的に凡庸という印象が否めず、正直受賞作と言われるとどうにも物足りない(これは「屍人荘の殺人」の後だから余計そう思うのかもしれない)。作者が今後もミステリを書くというのであれば次回作で突出したものを見せてほしいと思う。
タグ:
posted at 15:15:01
2018年10月13日(土)
笹沢左保「さよならの値打ちもない」読了。五味川大作の代役でヨーロッパ招待旅行に出かけた妻の澄江がマドリードで毒殺された。妻の最後の絵葉書には旧友と出会ったことが書かれていた。ところが大作の調べでその旧友の女性は二年前に自殺していたことが判明する。妻は旅先で死者と出会っていたのか?
タグ:
posted at 11:46:38
妻の死の謎を調べる過程で出会った運命の女と恋に落ちた主人公が次第に不可解な連続殺人に巻き込まれていく長編ミステリ。妻の死を巡る謎は魅力的だが、そこから運命の女と恋に落ちる展開は人によっては話が横道に逸れてしまったような印象を受けるかもしれない。
タグ:
posted at 11:46:56
しかし中盤以降は予想外の連続殺人が起こり、再びミステリとして読者を物語に一気に引き込んでくれる。ミステリとしてみると途中で明かされるアリバイトリックに関しては差ほど新鮮味を覚えないかもしれない。
タグ:
posted at 11:47:10
しかしながら本作の本領はその後に待ち受ける妻殺しの真相であり、実はかなり早い段階から大胆なミスディレクションが仕掛けられていた事実には恐らく大半の読者が驚かされるに違いない。
タグ:
posted at 11:47:19
加えて作者の理想とするロマンと本格の融合が巧く決まっており、タイトルが象徴する結末の余韻も申し分ない。本作は笹沢作品としてはあまり知名度は高くないが、埋もれるには実に惜しい隠れた秀作である。
タグ:
posted at 11:47:33
2018年10月17日(水)
加藤元浩「Q.E.D.iff」11巻読了。燈馬がMIT時代に出会った正直すぎる男が証言した鉄壁のアリバイを巡る「信頼できない語り手」、AI裁判官が導入された近未来の日本。ある日、妻とその浮気相手を殺害した容疑で逮捕されたのはAI裁判官の管理を行う技官の男だった「溺れる鳥」の二編を収録。
タグ:
posted at 09:23:36
「信頼できない語り手」はタイトルからミステリ読者であれば身構えてしまうかもしれないが、それでも騙されてしまうこと請け合いの好編で、アリバイトリック自体はよくあるものだが、それよりも作者が得意とするコンゲーム的企みと語りの妙に隠されたある真相が素晴らしい。
タグ:
posted at 09:23:56
一方「溺れる鳥」は時おり作者がやる架空世界の話で、この設定ならではのロジックの積み重ねの末に明らかになる漫画という媒体を最大限に活かした仕掛けが実に秀逸。ただその反面、フーダニット部分の意外性が若干物足りないものの、それを差し引いても充分傑作と言っていいだろう。
タグ:
posted at 09:24:15
2018年10月18日(木)
七月鏡一/杉山鉄兵「探偵ゼノと7つの殺人密室 」3巻読了。走行中の列車で発見された溺死体の話の続き。トリックよりもむしろある特殊設定を活かした決め手がいい。その他「あの女を殺した日」は短編らしい一発ネタが、「狩人の死角」は助手の殺し屋をフューチャーしたコンゲーム的面白さが良かった。
タグ:
posted at 09:09:20
2018年10月20日(土)
石持浅海「崖の上で踊る」読了。那須高原にある保養所に集まった十人の男女。彼らの目的は企業「フウジンブレード」の幹部三人を復讐のために殺害することだった。計画通り一人目を殺し次なる殺人に向けてしばしの休息をとったのも束の間、仲間の一人の変わり果てた姿だった。裏切り者は誰なのか?
タグ:
posted at 17:55:51
復讐計画の実行中に別の殺人事件が起こる、異色のクローズド・サークル物。特殊な警察が呼べない状況の中、連続殺人のサスペンスと復讐を優先するか、それとも犯人捜しを優先するかという究極の選択を登場人物たちに突き付けつつ延々と議論を繰り返す展開はどこを切ってもこの作者らしさを感じさせる。
タグ:
posted at 17:56:11
これまでの石持作品の中でもロジック性は高いものの、主に心理面におけるロジックが多いのはやや好みの分かれるところだろう。また途中で披露される仮説の方が真相よりも出来がいいのが気になる。とはいえ、ダークな石持節全開の結末など見所も多い作品である。
タグ:
posted at 17:56:31
我孫子武丸「凛の弦音」読了。ひたすら弓道に打ち込む女子高生・篠崎凜はある日、師匠の棚橋先生の家で、ありえない矢で男が殺された事件に巻き込まれ、見事に解決した。その結果『弓道名人は名探偵』と校内新聞で取り上げられ、凛の動画はいつの間にかネットで『天才弓道美少女』と評判になるが……。
タグ:
posted at 17:57:14
一人の弓道少女の成長を活き活きと描いた連作短編集。粗筋だけ見るといかにもミステリっぽいが、ミステリ要素はあくまでオマケに過ぎず、次第に主人公の凜が悩みつつも自分にとっての弓道とは何かを模索していく青春小説へとシフトしていく。
タグ:
posted at 17:57:49
そしてこの手の小説ではお馴染みの友人や仲間との心の機微やライバルの登場、気になる男子との関係の変化を巧く盛り込みつつ、最終的にタイトルが象徴する「凛の弦音」へと辿り着く展開が実に秀逸。読了後に何とも清清しい気分が味わえること請け合いの青春弓道小説の傑作である。
タグ:
posted at 17:58:32