麻里邑圭人
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- 現在地 涅槃
- 自己紹介 ミステリ初心者。非実在探偵小説研究会所属。 【好きな作家】飛鳥部勝則/梶龍雄/殊能将之/早坂吝/麻耶雄嵩 【好きな作品】「カルロッツァの翼」「殉教カテリナ車輪」「竹馬男の犯罪」「翼ある闇」「魍魎の匣」 【好きな映画】「キルビルVol.1」「サスペリア」「サンタ・サングレ/聖なる血」「ダークナイト」「リベリオン」
2020年07月12日(日)
近江泉美「死に戻り勇者は魔王を倒せない~セーブポイントのご利用は計画的に~」読了。魔王を討つ勇者の仲間《栄光の戦士》選抜最終試験のダンジョンで目覚めたウィルはそこで共に試験を受ける四人の最終候補と出会う。だがそれは本来存在しない五人目を巡るデスゲームとループ地獄の幕開けだった。
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魔王を討つ勇者の仲間《栄光の戦士》選抜最終試験候補者の中に偽者が紛れている。そんな疑惑の中、候補者の一人が何者かに襲われて――という本作の序盤の展開だけ聞くと、ファンタジー設定で人狼ゲームを試みた「六花の勇者」みたいな話かと思うかもしれない。
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posted at 14:01:43
しかしながら本作はそこに異世界転生とループ物の要素まで取り込み物語はますます混沌と化していく。尤もこの何でもありのごった煮感はライトノベルでは比較的よく見られるものだが本作が凄いのはただ流行りの要素をぶちこんだだけでなくそれらの要素なくしては成立しない物語に仕上げている点だろう。
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posted at 14:02:18
更にトドメとばかりに最後に用意された趣向はミステリのあるテーマにも通じる物がある。正直序盤の展開からミステリだと思って読んだ人はまさかのオチにぽかんとするかもしれないが、個人的にはこのごった煮の状況を纏めあげてしまった豪腕ぶりこそ評価したい作品である。
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2020年07月14日(火)
五十嵐律人「法廷遊戯」読了。久我清義、織本美鈴、結城馨の三人が通う法都大ロースクールでは時折、無辜ゲームと呼ばれる模擬法廷が開かれていた。そんな中、続発する不可解な事件の数々。やがて三人のうち、一人は弁護士になり、一人は被告人になり、一人は命を失った──謎だけを残して。
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第62回メフィスト賞受賞作。しかしながら一方で本作は尖った作品の多いメフィスト賞には珍しい(?)実に端正な法廷ミステリであり、プロットやキャラ、文体がいずれも良い意味で新人離れしている。
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中でも目を惹くのが模擬法廷の後に殺人事件が起こり実際の法廷が始まるという破格の構成であり、それが被害者の人物像と法律上の問題を描く上で十二分に活かされているのがいい。尤もミステリとしてみた場合、途中で着地点が見えてしまうのが難だが青春ミステリとしての苦みがそれをフォローしている。
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個人的にはメインの事件よりも途中で語られる墓泥棒のエピソードの方にミステリとしての意外性を感じてしまったが、それを差し引いても本作が完成度の高い作品であるのは間違いない。
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2020年07月17日(金)
平石貴樹「立待岬の鴎が見ていた」読了。五年前に函館で起きた連続殺人・傷害致死事件。美貌の推理作家として注目され始めた柚木しおりは、その一連の事件の関係者だった。彼女の作品を読んだことをきっかけに舟見警部補は以前事件を解決に導いた青年・ジャン・ピエールに再び捜査協力を依頼する。
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posted at 22:07:21
「潮首岬に郭公の鳴く」に続く函館を舞台にしたシリーズの二作目。前作が横溝正史「獄門島」の本歌取りミステリだったのに対し、本作は差し詰め鮎川哲也や夏樹静子の作品(特に後者)を思わせるリアリズム本格リスペクト作品であり、それは作中に出てくる女流作家のエッセイによく表れている。
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そんな本作の一番の見所は五年前に起きた三つの殺人・傷害致死事件と事件の関係者である女流作家の書いた推理小説との関係性であり、そこから見出だされる無意識の人間心理に基づく犯人特定のロジックをきっかけに一風変わった事件の構図を暴き出していく過程がまず秀逸。
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だがそれ以上に秀逸なのがタイトルが意味するある逆転の真相で、これには思わず唸らされてしまった。前作に比べるとやや小粒感が否めないものの、それでも充分佳作と言っていい出来の作品である。
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2020年07月18日(土)
竹本健治「これはミステリではない」読了。香華大学ミステリクラブの夏合宿でメンバーをモデルにした犯人当て小説の問題篇が披露された翌日、濃霧の中で出題者は解決篇の原稿と共に消え去ってしまう。偶然居あわせた「汎虚学研究会」の面々も渦中に巻きこまれ、事件の謎に挑むことになるが――。
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posted at 13:16:30
汎虚学研究会シリーズの二作目にして、作者自身が「これまで僕が書いてきたなかでも最大級に歪」と語る作品。タイトルに反して、犯人当て小説を巡る事件の展開は思いのほか真っ当ながら、合間合間に挿入される登場人物たちの見る脈絡のない夢の描写が不穏な雰囲気を掻き立ててくれる。
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posted at 13:16:56
だが次第に真っ当と思われた展開すらも曖昧模糊と化し、これは一体何なのかと狐につままれたような心境で迎えた終盤残り数ページ。そこで唐突に明かされる理不尽な真相と登場人物の言葉を借りて告げられる本作の趣向にはさすがに唖然としてしまった。
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posted at 13:17:21
よくもまあこんなことを考えるなあという本作の趣向は確かにタイトル通り「これはミステリではない」のだけど、一方でいかにもミステリっぽい道具立て、展開だからこそこの趣向が成立したのもまた事実であり、ある意味ミステリ読者がどこまで許容できるか挑戦した、極めてこの作者らしい問題作である。
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posted at 13:17:45
「レディ・オアノット」観了。館を舞台にした、かくれんぼデス・ゲーム物。追われるスリルと黒い笑いのバランス配分が絶妙なのに加え、シチュエーションのバリエーションが豊富なのもいい。終盤の展開がやや思っていたのとは違うものの、これはこれで笑えたので良しとしたいw
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2020年07月21日(火)
三津田信三「そこに無い家に呼ばれる」読了。編集者・三間坂の家の蔵から発見されたのは、厳重に封印が施された三つの記録。それらはすべて「家そのものが幽霊」だという奇妙な内容で――。もし何かが「一つずつ減っている」または「増えている」と感じたら、この読書を中止してください。
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posted at 07:08:20
「どこの家にも怖いものはいる」 「わざと忌み家を建てて棲む」と続いた幽霊屋敷怪談シリーズの三作目。今回は家そのものが幽霊という幽霊屋敷ならぬ屋敷幽霊(!)を扱っており、これまで通り複数の記録から怪異の真相に迫る形式ながらも最終的にはこれまで以上にホラー寄りの仕上がりになっている。
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posted at 07:08:42
とはいえミステリ部分も健在で作中の三津田信三によって明かされるある事実には一部バカミス要素もあってちょっと笑ってしまったw その一方で今回はシリーズ前二作のみならずシリーズ以外の三津田作品に言及したメタ趣向を試みておりそれがいい意味でホラーとしての後味の悪さを生んでいる快作である。
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2020年07月22日(水)
戸田義長「雪旅籠」読了。大老井伊直弼が暗殺された桜田門外の変を巡る「第二の銃声」の謎、雪密室、切腹人の殺害……江戸時代末期、『八丁堀の鷹』こと北町奉行所定町廻り同心の戸田惣左衛門と気弱な息子・清之介の同心親子が時に元花魁お糸の助けを借りながら遭遇した八つの謎に真摯に対峙する。
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デビュー作「恋牡丹」に収録された四編の間を埋める八編から成る時代ミステリ短編集。前作に引き続き時代物を活かした不可能犯罪と前作以上に多い収録話数が嬉しい反面、一編一編が短いが故にシンプルすぎる見せ方が災いして、謎解きに至る前に分かってしまうものが大半を占めるのが難。
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だがその一方で数少ないながらも巧くハマっているものもあり特に雪密室を扱った表題作のある気付きと、銃を持っていたにも拘わらず刺し殺された男の謎を扱った「天狗松」の人間味溢れる真相が○。またトリを飾る「夕間暮」の惣左衛門とお糸の推理の共演と時代の変化が色濃く反映された真相も良かった。
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2020年07月23日(木)
赤月黎「魔女狩り探偵春夏秋冬セツナ」再読了。この学院では人がよく死ぬ。魔女予備軍が本物の魔女となり魔法の対価に人を殺す――魔女と魔女候補生が通う聖アラディア学院で被害者の顔を潰す連続殺人が発生。一度は魔女に殺され魂に奪われたクオンは、彼を助けた魔女狩り探偵セツナと共に事件に挑む。
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posted at 18:13:59
魔女と魔女候補生が通う学園で魔女が起こした連続殺人の謎に魔女狩り探偵が挑む異世界本格ミステリ。犯人が魔女ということは当然そこには何らかの魔法が使われているわけで、その魔法が何かという謎だけでなく顔のない死体に密室、アリバイ崩しといった定番のミステリネタを絡めた見せ方がまず秀逸。
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posted at 18:14:21
勿論それらのガジェットはただの魅力的な演出として使っているわけではなく、ある時は絶妙なミスディレクションとして、またある時は魔法の正体を突き止める必要不可欠な手掛かりとして機能しており、しかもその魔法の正体がシンプルであればあるほど効果的という点も実に心憎い。
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そしてシンプルであるが故に一見すると本作は一発ネタのように思えるが終盤で更に一捻り入れることで事件の構図と人間ドラマに深みを与えているのがいい。それでいて最後の最後にある茶目っ気たっぷりの仕掛けまで用意した本作は徹頭徹尾読者を翻弄してやろうという作者の意気込みが窺える秀作である。
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2020年07月24日(金)
田代裕彦「魔王殺しと偽りの勇者」再読了。百年に一度復活すると言われた大魔王が倒され四名の人物が「自分こそが大魔王を倒した勇者だ」と名乗り出る異常事態が起こった。王宮戦士のエレインは王からの命を受け、地下牢に幽閉されていた魔族の青年・ユーサーと共に魔王殺しの真犯人を探すことになる。
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自分こそ魔王を倒した勇者と主張する四人の中から本物の勇者を探し出す全二巻構成の異世界フーダニット物。本作がユニークなのは何といっても通常のミステリなら犯人であることを隠そうとするところをRPG設定を持ち込むことで見事に逆転させてしまった点だろう。
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加えてそれぞれの容疑者に犯人だと名乗り出なければいけない動機がきちんと用意されておりそういう意味ではどことなく我孫子武丸「探偵映画」を彷彿とさせる。そして本作の探偵役であるユーサーはそんな容疑者たちの話を聞きその中に隠された矛盾を突くことで徐々に真犯人を絞り込んでいくことになる。
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だが困ったことにやがて容疑者が一人もいなくなる事態に直面することになるが、そこからどう引っくり返すかこそが本格ミステリとしての醍醐味なのは言わずもがなだろう。しかも最終的に明かされる真相は前述したRPG設定の盲点を巧く突きつつ、同時に世界観とも密接に結び付いている点が実に秀逸。
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posted at 18:47:13
それだけでなく物語終盤ではコンゲーム要素まで盛り込まれ、それまでユーサーの助手に過ぎなかったエレインの成長ぶりをこれ以上ない形で見せ付けてくれるのがまた心憎い。本作は二巻に亘って周到に計算されたファンタジーミステリの傑作である。
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