麻里邑圭人
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- 現在地 涅槃
- 自己紹介 ミステリ初心者。非実在探偵小説研究会所属。 【好きな作家】飛鳥部勝則/梶龍雄/殊能将之/早坂吝/麻耶雄嵩 【好きな作品】「カルロッツァの翼」「殉教カテリナ車輪」「竹馬男の犯罪」「翼ある闇」「魍魎の匣」 【好きな映画】「キルビルVol.1」「サスペリア」「サンタ・サングレ/聖なる血」「ダークナイト」「リベリオン」
2020年10月01日(木)
深水黎一郎「詩人の恋」読了。シューマンの妻・クララの許に届いた脅迫状。そこにはシューマンの作品の評価を貶める決定的証拠を入手したと書かれていた。一方180年の時を経た現代では恋に悩む高校生、大学生指揮者、ベルリンを訪れた大学教員が「詩人の恋」を巡って不可解な出来事に遭遇していた。
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posted at 20:15:11
シューマンの代表曲「詩人の恋」に隠された秘密に迫る芸術探偵シリーズの一作。帯で「格式高い芸術ミステリ」と謳っている本作だが「詩人の恋」に関わった各キャラのエピソードできちんとクラシックに疎い読者のために分かりやすく説明しつつもテーマに相応しい恋物語に仕上げている点がまずいい。
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posted at 20:15:41
ただその一方で作中で起こる全ての事件が一つに収束するわけではないのでそこに期待するとやや肩透かしを覚えるかもしれない。しかしながら、それを差し引いてもラストに提示される「詩人の恋」の新解釈が際立つように構成された物語は読者に何ともいえない余韻を与えてくれるだろう。
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2020年10月04日(日)
秋山正美「葬儀のあとの寝室」読了。あるものを入れたコーヒーを飲ませ合う夫婦、カマキリや百足と名付けた部屋を売りにする怪しげな店、次々と女の右目を抉り取って晒し者にする怪人、謎の死を遂げた総理大臣、少女が遭遇した心臓の形をした花に纏わる奇怪な出来事……表題作含む十三編を収録。
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「13の怪奇と幻想の物語」というサブタイトルと作者の手による不気味なイラストが目を惹く作品集。帯には「本格的、恐怖小説集」とあるが、どちらかというとブラックユーモア色の方が強いのに加え、意外にもミステリ要素のある作品も多く、所々に作者が好きだという江戸川乱歩の影響を感じさせる。
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特にそれが顕著なのは恥球男と名乗る怪人が次々と女の右目を抉り取って晒し者にする「恥球男」で、怪奇幻想物と思っていると、最後に明かされるオチで「え、そういう話だったの!?」と少なからず驚かされるだろう。
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また妻が夫に硫酸シャワーを浴びせようと目論む「整形夫婦」もミステリではお馴染みの趣向が意外性に一役買っていて○。個人的な好みを挙げるなら青年がカマキリや百足と名付けた部屋を売りにする店の虜になっていく「最後の部屋には首がある」で、奇想とブラックなオチの何とも言えない味わいがいい。
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その他精神病院患者の手記という形をとった「胎児たちの相似」も実現可能かはともかく国内作家Sの某作みたいなオチは嫌いではないしトリを飾る「蕾と内臓」の怪奇と幻想のバランスも○。解説に仕掛けられたちょっとしたお遊びにもニヤリとさせられる本作は作者が言うほど出来は悪くない作品集である。
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2020年10月07日(水)
織守きょうや「辻宮朔の心裏と真理」読了。遠野が吸血種関連問題対策室に勤めて早五年ーー再び日本で不可解な連続殺人が発生した。被害者がいずれも吸血種というこの事件の捜査に乗り出した遠野と朱里は、やがて七年前に忽然と姿を消したカリスマ吸血種“ユエ”が事件に関係していることを知る。
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「世界の終わりと始まりの不完全な処遇」改め「花村遠野の恋と故意」に続く吸血鬼ミステリシリーズの二作目。初恋の行方を描いた恋愛物語と吸血鬼探しのフーダニットを主軸にした前作と比べると捜査一辺倒の本作はやや展開が単調であり、吸血種殺しの真相にしてもあまり意外性は感じられないだろう。
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posted at 19:50:34
むしろ本作のメインはある登場人物に纏わる事件の方であり、特殊設定を活かしつつもタイトルの意味が分かる真相がいい。また吸血種殺しの動機が良い対比になっているのも○だが、欲を言えばそっちの事件の展開及び真相にももう少し捻りがあればもっと良かったと思う。
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2020年10月09日(金)
千田理緒「五色の殺人者」読了。高齢者介護施設・あずき荘で働く新米女性介護士のメイこと明治瑞希はある日、利用者の撲殺死体を発見する。逃走する犯人と思しき人物を目撃したのは五人。しかし犯人の服の色についての証言は「赤」「緑」「白」「黒」「青」と、なぜかバラバラの五通りだった。
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第30回鮎川哲也賞受賞作。特殊設定ミステリの多い近年の鮎川賞受賞作にしては珍しい、シンプルな謎を扱ったオーソドックスな作品で、タイトル通りの謎はなかなか魅力的。しかしながら肝心の真相がただ説明付けただけで目新しさが全くないのが難。
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posted at 01:31:06
どちらかと言えばもう一つの仕掛けの方がまだ気がきいていると言えなくはないが、ミステリを読み慣れている人であれば書き方からだいたい察しがついてしまうのではないだろうか。とはいえ全体的には手堅く纏まっているのでミステリとして過度な期待をしなければ無難に楽しめる作品である。
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posted at 01:31:26
浅倉秋成「ノワール・レヴナント」読了。他人の背中にその人の幸福度が見える少年。本の背を指でなぞっただけで中身を記憶できる少女。毎朝五つだけその日に聞く言葉が予言できる少年。念じることで触れたものを破壊できる少女。そんな奇妙な能力を持った四人を呼び集めた者の真意とは?
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posted at 18:47:59
作者のデビュー作にして第13回講談社BOX新人賞Powers受賞作。上下二段組約600ページの大作である本作は何者かの意志により集められた特殊能力を持った四人の高校生が、それぞれの能力を駆使して自分たちが何に巻き込まれたのかを探り始めるという所謂ホワットダニット物のミステリとなっている。
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そして、その捜査の過程はスリリングかつ多岐にわたっており、聞き込みや潜入捜査は勿論のこと、中にはカジノでの一世一代のギャンブル対決(!)など実にバラエティ豊かなシチュエーションで繰り広げられるそれぞれの能力を駆使した駆け引きが堪らない。
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posted at 18:49:18
その一方で伏線の張り方がまた絶妙で、狙い澄ましたようなタイミングで伏線が回収されるその様は正に「伏線の狙撃手」という異名に相応しいだろう。但し厳密なミステリとしてみると説明不足の箇所も多く、特に敵役となる人物の内面が一切描かれていないのは勿体ないと言わざるを得ない。
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posted at 18:49:40
どちらかというと本作はミステリ要素のある壮大なジュブナイルとして捉えた方が楽しめるだろう。本作は所々に作者の出世作となった「教室が、ひとりになるまで」の片鱗が窺える、様々な要素を取り込んだ力作である。
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2020年10月10日(土)
竜騎士07「バケモノたちが嘯く頃に ~バケモノ姫の家庭教師~」読了。昭和25年晩夏。名家の令嬢の家庭教師として村を訪れた青年・塩沢磊一は死体のはらわたを貪る美しきバケモノ御首茉莉花と対峙する。一方、続発する少女の連続失踪事件。失踪者の特徴は茉莉花の部屋で見た死体と一致していて……。
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「ひぐらしのなく頃に」の作者による伝奇ミステリ。一応、連続少女失踪事件と主人公の恩師殺しという二つの事件を扱ってはいるものの、ミステリとしてみるとアンフェアかつ後出しの特殊能力が出てきたりするため、正直オマケ程度に考えた方がいいだろう。
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posted at 14:22:27
むしろ本作のメインは主人公に惹かれていくヒロイン・茉莉花の可愛らしさと、茉莉花を脅かす者たちと主人公のバトル(!)シーンであり、そういう意味ではかなり王道なラノベ展開と言える。加えて一作できちんと完結しているので、竜騎士作品の入門編として安心して勧められる作品である。
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2020年10月11日(日)
吉野泉「手のひらアストラル」読了。三年生の生徒手帳を持ち歩く同級生、オープンキャンパスでの謎探し、夏休み中に一人だけ試験を受ける先輩、不可解な血痕と手のひらに傷を負った同級生の関係、少年の言う全部黄色い駅の謎……大学院生の飛木さんが「私」の身の回りで起きる五つの謎を解き明かす。
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第23回鮎川哲也賞最終候補作「放課後スプリング・トレイン」に続く日常の謎を扱った連作ミステリシリーズの二作目。前作同様ミステリとしてみるとかなり弱いのが気になるが、どちらかというと謎が解かれることで見えてくる心の機微や関係性の変化により重点が置かれるようになっている。
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posted at 13:53:43
唯一最終話の「黄色い駅へ」は謎の難易度が最も高いが、ある特殊知識がないと全く気付けないのが難。しかしながら連作らしい伏線の張り方や探偵役の秘密に繋がっている点は前作よりもこなれており、あくまでミステリ部分に過度な期待さえしなければ思春期らしい青春の瑞々しさが楽しめる作品である。
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2020年10月12日(月)
るーすぼーい/古屋庵「無能なナナ」7巻読了。祝(?)某キャラの復活。そこからの一巻とは立ち位置が逆転した展開もさることながら、この作品ならではの重力密室を巡る推理対決が熱い。但し真相に関しては残念ながらバレバレではあったものの、新たな展開の導入部としては申し分なかったと思う。
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2020年10月13日(火)
市川憂人「揺籠のアディポクル」読了。無菌病棟、通称《クレイドル》の患者は隻腕義手の少女コノハとタケルの二人だけだった。ある大嵐の日《クレイドル》は貯水槽に通路を寸断され外界から隔絶される。そして翌日、コノハはメスで胸を刺され死んでいた。外気にすら触れられない彼女を誰が殺したのか?
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無菌病棟を舞台にしたクローズド・サークル物。三部構成の本作で特筆すべきは第一部であり無菌病棟でのボーイミーツガールから一転してクローズド・サークル状況下の不可能犯罪になったと思ったら最後にまさかのホワットダニット物へと変貌する、読者をこれでもかとばかりに翻弄する展開が実に面白い。
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posted at 11:44:42
恐らく大半の読者が自分は一体何を読まされているのかと面食らうことだろうが、この大風呂敷こそ単純な真相を隠すための目眩ましとして機能している点がまず秀逸。加えてあるものを巡るエロジック(?)により反転する構図が○で、それが真相のやりきれなさに一役買っている点もいい。
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