麻里邑圭人
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- 現在地 涅槃
- 自己紹介 ミステリ初心者。非実在探偵小説研究会所属。 【好きな作家】飛鳥部勝則/梶龍雄/殊能将之/早坂吝/麻耶雄嵩 【好きな作品】「カルロッツァの翼」「殉教カテリナ車輪」「竹馬男の犯罪」「翼ある闇」「魍魎の匣」 【好きな映画】「キルビルVol.1」「サスペリア」「サンタ・サングレ/聖なる血」「ダークナイト」「リベリオン」
2011年09月26日(月)
長沢樹「消失グラデーション」読了。私立藤野学院高校のバスケ部員・椎名康はある日秘かに想いを寄せている女子バスケ部のエース・網川緑が校舎の屋上から転落する場面に遭遇する。康は血を流し横たわる緑を助けようとするが何者かに襲われその場で昏倒。気が付くと緑の姿は忽然と消え失せていた――。
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posted at 23:10:27
やられた。今年度の横溝賞〈大賞〉受賞作である本作は帯で謳っている通り、企みに満ちた本格ミステリなのだが、その仕掛け自体は特に新鮮味はない。にも関わらず見事にやられてしまったのは幾重にも張り巡らされたミスディレクション故である。
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posted at 23:11:02
ネタはありふれていても磨きあげられた技巧により秀作になっているという点では深木章子「鬼畜の家」と共通している。何より真相が明かされた時、事件すらもミスディレクションの一環だったことが分かる構図が素晴らしい。選考委員の北村薫が言うように読み終わったらあれこれ語りたくなる作品である。
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posted at 23:11:34
2011年09月28日(水)
梶龍雄「灰色の季節」読了。戦時下という灰色の季節を迎えた東京を舞台に、教え子が巻き込まれた事件をギョライという渾名で慕われている中学校教師・堀上が鮮やかに解決するミステリ短編集。だが同時に本作は語り手である中学生・正彦の成長を描いた青春小説でもある。
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posted at 22:22:38
正彦が遭遇するのは事件ばかりではない。友人たちとの秘密の楽しみ、思春期らしい性への憧れ、歳上の女性に対する仄かな恋心……それら甘酸っぱい出来事が語られれば語られる程、灰色の季節の不穏な空気が浮き彫りになる構成が秀逸。それは処女作「透明な季節」からこの作者が得意としてきたものだ。
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posted at 22:23:16
本作はそれに加えて様々なミステリの趣向が凝らされている。万引き事件におけるアリバイ崩し、降霊会での殺人、夢想家が巻き込まれた奇妙な状況……特にお勧めしたいのが最終話「夜から来た女」でたった一言で全ての謎が氷解するミステリ的醍醐味と胸を打つ感動を同時に味わうことができる。
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posted at 22:24:03
2011年09月29日(木)
深水黎一郎「人間の尊厳と八〇〇メートル」読了。深水作品は処女作の頃からリアルタイムで読んでいるけれど、近年の作品になればなるほど隠すテクニックに磨きがかかっているように思う。真相は勿論のこと、ミステリであることすらも伏せていて、ここぞという所で読者の度肝を抜くのだ。
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posted at 21:32:02
本作にはそんな技巧に優れた五つの短編が収録されているが、個人的なベストは何と言っても表題作だろう。とあるバーで「わたし」が初対面の男から異様な賭けを持ちかけられるこの短編は、倉知淳の某短編にも似た、予想外の方向から来るサプライズが素晴らしい。
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posted at 21:32:30
次点は作者のミステリ観が窺える「完全犯罪あるいは善人の見えない牙」で、できればこの短編は長編「ジークフリートの剣」と併せて読むことをお勧めしたい。本作は深水黎一郎とはどんな作家かを知るには打ってつけのミステリ短編集である。
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posted at 21:32:49
友成純一「凶殺都市」読了。至福教団事件から約十年。活発化した土竜の心臓により新宿区を中心に都内一円では壮絶な超常現象や通り魔殺人、大規模な自動車・列車事故が頻発していた。そんな都心に十年の歳月を経て、一人の男が土竜の心臓を叩き潰すため、地獄の底から甦ってくる――。
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posted at 22:14:04
至福教団事件の顛末を描いた「聖獣都市」の続編である本作について、作者は「全編これ、人肉の大花火大会(中略)心臓の弱い人は読まないで下さい。死にます」と語っているが、どちらかと言うと個人的には全編ギャグ展開で笑い死にそうだった(爆)。
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posted at 22:14:37
勿論、作者の言う通りスプラッターしてはいるのだけど、それ以上に地獄の底から甦った男・氷室の言動、行動がおかしすぎておかしすぎて……(悶絶)。しまいにはこの人、何のために甦ったのか分からないし(爆)。とりあえず本作はギャグキャラ(!)氷室のためにあると言っても過言ではないだろう。
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posted at 22:15:07
2011年09月30日(金)
月原渉「世界が終わる灯」読了。ニュージーランドの山間を走る豪華寝台特急。ジュリアンとバーニィの二人はこの列車に乗って優雅な旅を楽しんでいたが、それも束の間、密室状況の客室で乗員の首なし死体が発見される。そしてその直後に列車はトンネル内で急停車しクローズサークルと化してしまう――。
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posted at 21:36:26
本作を読んでまず思ったのが、この作者がやりたいのは本格ではなく、本格が持つ雰囲気(ガジェット)なのだということである。それは例えば犯人が首を切断した動機一つ取ってもよく顕れている。少なくとも本格ミステリを書こうという人間であれば、絶対こんな動機にはしないはずである。
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posted at 21:37:34
とはいえ本格ミステリと謳う以上一応その条件は満たしている。だが古典的とはいえそれなりに考えられていた第一の事件に対し第二の事件の杜撰ぶりはいただけない。緻密に作り込まれた技巧的な本格を期待すると確実に肩透かしを覚えるが古きよき本格の持つ雰囲気が好きな人ならば楽しめるかもしれない。
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posted at 21:39:19