麻里邑圭人
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- 現在地 涅槃
- 自己紹介 ミステリ初心者。非実在探偵小説研究会所属。 【好きな作家】飛鳥部勝則/梶龍雄/殊能将之/早坂吝/麻耶雄嵩 【好きな作品】「カルロッツァの翼」「殉教カテリナ車輪」「竹馬男の犯罪」「翼ある闇」「魍魎の匣」 【好きな映画】「キルビルVol.1」「サスペリア」「サンタ・サングレ/聖なる血」「ダークナイト」「リベリオン」
2012年07月03日(火)
首藤瓜於「大幽霊烏賊 名探偵面鏡真澄」読了。まず最初に断っておくと、本作は名探偵・面鏡真澄が快刀乱麻を断つ名推理で日本初の専門精神科病院で起こった奇々怪々な事件の真相に迫る……という内容では断じてない。少なくとも謎解きをメインに読むと間違いなく肩透かしを覚えることだろう。
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posted at 19:17:05
本作に出てくる謎はあくまで物語に彩りを添える程度に過ぎず、それに日本初の専門精神科病院という舞台設定、衒学趣味が加わって、何とも魅力的な雰囲気小説に仕上がっている。「夢から覚めると、夢を見ていた」とは本作の帯の文句だが、本作は正にそんな余韻に浸ることができる作品である。
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posted at 19:17:31
2012年07月04日(水)
中村文則「迷宮」読了。僕が何気なく知りあった女性は迷宮入りとなった通称「折鶴事件」の遺児だった。密室状態の家で両親と兄が惨殺され小学生だった彼女だけが生き残ったのだ。犯行現場には遺体を飾るように無数の折鶴が散乱していた。僕がこの事件に惹かれるのは彼女が好きだからか、それとも――。
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posted at 13:47:17
芥川賞作家によるミステリ作品。同じ芥川賞作家の松浦寿輝「不可能」は幻想色が強い本格ミステリだったが、本作はというと「巧みな謎解きを組み込」んであるとはいえ、少なくともこれを本格ミステリとは言えないだろう。
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posted at 13:47:50
作者の描きたかったのはあくまで事件の起きた背景とその異常な事件に惹かれてやまない歪んだ人々であり、ミステリ的仕掛けや真相の意外性はほぼ皆無に等しい。とはいえ一部の事件の構図は面白いと思うし、何より「事件」を物語の主役として魅力的に描くという点では成功しているのではないだろうか。
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2012年07月05日(木)
高橋泰邦「黒潮の偽証」読了。広大な海原を漂流する貨物船・寿男丸。転覆の危険性があるため乗組員のほとんどが救命ボートで脱出した船内に残されたのは、今や船長の広兼と密航した謎の女の二人だけだった。果たして二人の運命は? そして、漂流前に船内で起こった不可解な密室殺人の真相とは?
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posted at 14:37:24
前半こそ海洋冒険小説の色が濃いが、海の弁護士こと海事補佐人の大滝が事件に関与し出したあたりから徐々に本格ミステリらしい展開になってくる。容疑者を論理的に絞っていった結果、犯人がいなくなるという困った事態になるが、そこから本作ならではの設定を活かして鮮やかにひっくり返ってみせる。
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posted at 14:37:46
そして何よりも読み応えのある海洋小説と本格ミステリとしての無駄のない構成を両立させている点が素晴らしい。本作は「『本格物』であるからには、フェアー・プレーを心がけました」という作者の言葉に偽りなしの海洋本格推理の秀作である。
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2012年07月06日(金)
鯨統一郎「タンタンの事件ファイル 横浜『佐藤さん』殺人事件」読了。佐藤が名字である人物ばかりが相次いで殺され、その犯人から「次はお前の番だ」と書かれた脅迫状を受け取った佐藤優子は、たんぽぽ探偵事務所、略してタンタンに事件の調査を依頼する。佐藤に拘る犯人の真意とは……?
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posted at 11:00:42
佐藤ばかりが殺されるという粗筋から「リアル鬼ごっこ」を思い出す人もいるかもしれないが、それを見越したように作中でも言及されていたのには思わず笑ってしまった。更には名前に拘るカルト教団や誇大妄想スレスレの野望を抱く危険人物が登場。
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posted at 11:01:23
これはかなりぶっ飛んだ真相が期待できるかもと思っていたのだけど……予想に反して、悪い意味で無難なところに終わってしまった印象。どうせなら「パラドックス学園」並のトンデモを目指してほしかった。
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posted at 11:02:40
栗本薫「伊集院大介の私生活」読了。「この本で、伊集院大介という《イイ男》を知って頂ければ」と作者が語る本作には六編の短編が収録されているが、収録作のタイトルからも分かる通り「追憶」「初恋」「青春」「一日」「私生活」「失敗」と様々な側面から名探偵・伊集院大介の人間像に迫っている。
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posted at 16:03:31
そういったエピソードの面白さもさることながら、事件の方もバリエーションに富んでおり、例えば「伊集院大介の初恋」では複数の少年たちと付き合う人妻の目的という日常の謎を扱ったかと思えば、続く「伊集院大介の青春」では学生運動の最中に起こった不可解な墜死事件を扱っている。
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posted at 16:03:51
その中からベストを挙げるとするなら「伊集院大介の失敗」になるだろう。所謂「雪の密室」物であるこの短編で使用されている人を食ったトリックもかなり好みだが、それ以上にトリックに気付くヒントの出し方が素晴らしい。個人的には前に読んだ短編集「伊集院大介の冒険」よりも本作の方が楽しめた。
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2012年07月09日(月)
夏寿司「アリシアの三姉妹」読了。ウソを全く受け付けない体質の僕が親友のヒヅキの父親が殺されたのをきっかけに知り合った三姉妹は、伝説の女子高生探偵と言われた母親からそれぞれ「探偵に必要な資質」を受け継いでいた。三姉妹はその資質を武器に「神犯人」を名乗る謎の連続殺人魔に挑む。
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posted at 18:31:28
一言で言えば、形を変えた「トリック・ソルヴァーズ」。本格ミステリのガジェットの使い方やラブコメ展開がどうしようもなく作者のもう一つのシリーズである「トリック・ソルヴァーズ」を想起させるが、ミステリとしてみると、些か微妙と言わざるを得ない。
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posted at 18:32:11
強引すぎるトリックが出てきたかと思えばバレバレ過ぎて肩透かしを覚えるなど、折角見せ方は悪くないのに勿体ないと思う場面がかなり目につく。とはいえ「トリック・ソルヴァーズ」シリーズも一作目が微妙だったことを考えると、本作もまたシリーズ物として長い目で期待したいと思う。
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posted at 18:32:47
2012年07月11日(水)
御影瑛路「空ろの箱と零のマリア5」読了。人々の罪を可視化、それを取り込むことによって対象を傀儡化する箱〈罪と罰と罪の影〉を使って人間を選別していく醍哉と、そんな彼を止めるため、箱〈願い潰しの銀幕〉の使用を決断する一輝。「箱」対「箱」の熾烈な頭脳戦を制するのは果たしてどちらか?
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posted at 13:29:28
所有者に願いを叶える力を与える「箱」という存在を巡るコンゲームシリーズの五作目……だが、本作はどちらかというとコンゲーム部分よりもシリーズを通した物語の方に比重が置かれている印象を受ける。
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posted at 13:30:03
勿論コンゲーム的展開はあるものの、ルールの盲点をつくやられた感は一切なく最初から規定通りの結末に持っていった感が否めない。とはいえダブル主人公の構成は面白いと思うし、本作がシリーズのターニングポイントと言うべき見逃せない内容なのは間違いない。
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posted at 13:32:09
中山七里「静おばあちゃんにおまかせ」読了。黒い噂の絶えなかった警官の射殺事件、派手好きの老婆の死と頁の一部を破り取られた雑誌の謎、宗教施設で起きた死体消失、地上四百五十メートルの密室殺人、ホテルの密室で暗殺された独裁者。五つの難事件を元裁判官の静おばあちゃんが鮮やかに解き明かす。
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posted at 22:48:15
これまでの中山七里のイメージというと、本格ミステリのコアは持ち合わせてはいるが、どちらかといえばエンタメ寄りの作家という印象だったのだけど、本作は打って変わって真正面から本格に挑んだ短編集に仕上がっている。
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posted at 22:49:10
「知恵」「童心」「不信」「醜聞」「秘密」というブラウン神父の作品集から採られた収録作のタイトルももしかしたらその決意の現れなのかもしれない。実際出来の方も手堅く時にはっとするロジックやトリックで魅せてくれる(ロジックでは「知恵」が、トリックでは「醜聞」のある小道具の使い方が秀逸)
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posted at 22:50:09
また見所はそれだけではなく、静おばあちゃんの孫娘・円と葛城刑事の恋の行方や、円の両親が車で轢き殺された過去の事件が絡んでくる。尤も後者の真相に関しては途中で読めてしまうかもしれないが、それとは全く関係ないところで作者はあるサプライズを用意している。
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posted at 22:51:44
2012年07月14日(土)
幡大介「猫間地獄のわらべ歌」読了。猫間藩下屋敷の鍵のかかった書物蔵で御広敷番が絶命した。不祥事を恐れた藩主の愛妾和泉ノ方は御使番である俺に「密室破り」を命じる。一方、利権を握る銀山奉行の横暴に手を焼く国許では、不気味なわらべ歌どおりに次々と人が殺されていく事件が発生し――。
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posted at 16:50:35
時代小説の書き手として知られる作者がお江戸が舞台の本格ミステリに挑んだ野心作と内容紹介にある通り、確かに本作には密室、館もの、見立て殺人、読者への挑戦状とその手の趣向がてんこ盛りではあるものの、どちらかというとノリは正統派本格というよりメフィスト系バカミスに近い。
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posted at 16:51:22
しかしながらバカミスとしてみると個々の仕掛けはイマイチ振り切れていないように感じる。また各事件が一つに纏まることなく完全にバラバラのまま終わってしまうのもかなりマイナス。とはいえ時代小説であることを活かした点は悪くないので、またこの路線で本格に挑むようであればその時に期待したい。
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posted at 16:52:09
栗本薫「黒船屋の女」読了。沈丁花の匂いが漂う古びた洋館から突如聞こえてきた女の悲鳴。通りがかりのイラストレーターが駆け付けると、そこには床の上に転がる二つの死体と竹久夢二の描く「黒船屋」から抜け出したような魔性の女の姿があった……。彼女を巡り次々と起こる死の連鎖の先に待つものは?
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posted at 16:52:43
退廃的な魅力を持った女と、そんな女に惹かれてやまない男たちを描いた物語の傑作。本格ミステリとしてみた場合、差ほど優れたネタを使っているわけではないが(むしろ手垢がついたネタであるとすら言える)、それが却って物語に絶妙な深みを与えている。
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posted at 16:53:39
もっとも作者自身はあとがきで百パーセント成功したとは思っていないと語っているが、それでも作者が描きたかった狂った花のような女の魅力は充分感じ取ることができる。若干最後が呆気ないような気がするが、美しくもけだるい夢の終わりとはそんなものなのかもしれない。
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posted at 16:54:24
乾くるみ「カラット探偵事務所の事件簿2」読了。《あなたの頭を悩ます謎を、カラッと解決いたします》「謎解き専門」の探偵事務所に持ち込まれた七つの日常の謎を、探偵・古谷が鮮やかに解決する連作短編シリーズの第二弾……なのだが、何か前作よりも更にスケールダウンしている印象。
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posted at 20:25:13
前作もかなり小粒な短編揃いだったが、本作はそれに輪をかけて小粒……というか、もはや微粒(?)レベルのものもあり、考えようによってはそんなネタで短編を書いてしまったことが凄いのかもしれない。
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posted at 20:26:21
唯一例外なのは最後の書き下ろし短編「つきまとう男」で、真相は途中で読めるかもしれないが、実に乾くるみらしいオチがついている。とはいえ、帯の「『イニシエーション・ラブ』に並ぶ面白さと驚き!」という文句はさすがに○AROに訴えてもいいレベルだと思う。
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posted at 20:26:58