麻里邑圭人
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- 現在地 涅槃
- 自己紹介 ミステリ初心者。非実在探偵小説研究会所属。 【好きな作家】飛鳥部勝則/梶龍雄/殊能将之/早坂吝/麻耶雄嵩 【好きな作品】「カルロッツァの翼」「殉教カテリナ車輪」「竹馬男の犯罪」「翼ある闇」「魍魎の匣」 【好きな映画】「キルビルVol.1」「サスペリア」「サンタ・サングレ/聖なる血」「ダークナイト」「リベリオン」
2013年12月05日(木)
岡田秀文「太閤暗殺」読了。待望の我が子を授かった太閤秀吉が実の甥である関白秀次を疎ましく思っていることに危機感を覚えた秀次の側近・木村常陸介は、京都所司代・前田玄以に追われていたところを匿った大盗賊・石川五右衛門に太閤の暗殺を依頼する。迎え撃つ石田三成と前田玄以の秘策とは?
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時代小説という枠組みの中で、コンゲームと脱獄トリックを両立させた秀作。前者の胆となるのは五右衛門による太閤暗殺であり、その計画の全貌を知る手掛かりが五右衛門という人物を描く中で巧みに配置されているのがまず秀逸。
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posted at 01:06:28
そしてその計画を阻止せんとする者たちとの攻防もさることながら、特筆すべきは何といっても五右衛門たちに協力する謎の人物の正体だろう。それが明らかになると同時に浮かび上がる構図は実に強烈だが、これまで描かれてきた展開を考えれば充分納得がいくものに仕上がっている。
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一方、後者のトリックも大胆な発想で面白いが、それが解けることによって暗殺計画のヒントとしても機能するのは○。本作はミステリとしてはもとより、タイムリミットサスペンスの要素を取り入れることにより中盤から一気読み必至の盛り上がりを見せる、エンタメとしても配慮が行き届いた作品である。
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乾くるみ「北乃森高校探偵部」読了。京都府宇治市にある名門・北乃森高校で校歌や応援歌のように歌い継がれてきた歌「逍遥歌」。生徒に親しまれているその歌詞が実は書き変えられているという。いつ、誰が、どんな理由で?……「《せうえうか》の秘密」ほか北乃杜高校探偵部の面々が活躍する三編収録。
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posted at 21:27:25
乾くるみが米澤穂信の古典部シリーズを書いたらこんな感じになりました、というような短編集。といってもいつもの乾作品に見られるような黒さは一切なく、意外にも(?)内容紹介にあるような「楽しくてやがて切ない青春本格ミステリー」を目指して書かれている。
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しかしながら個人的にはこのタイプの作品は乾くるみに向いていない……というか、ぶっちゃけ面白くない(爆)。唯一「《せうえうか》の秘密」のみは作者が得意とする暗号を駆使して、乾くるみ版氷菓というべき作品に仕上げているが、どうもこれ一編で作者が力尽きた印象がある。
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2013年12月06日(金)
麻見和史「聖者の凶数 警視庁捜査一課十一係」読了。東上野のアパートの一室で見付かった男の死体は無惨にも硫酸で顔を消されていた。現場に残されていたのは死体の腹部に書かれた《27》という数字と狩りの守護聖人が描かれたポストカード。捜査陣が被害者の身元の特定を急ぐ中、第二の殺人が……。
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女刑事・如月塔子と十一係のメンバーが猟奇殺人に挑むシリーズの五作目。今回もまた殺伐とした事件の合間にさりげなく塔子タンの萌えシチュエーション(152.8センチの塔子タンがポンプ車の屋根に引っ掛かったレジ袋に手が届かず、ぴょんぴょん跳び跳ねるなど)が盛り込まれているのが実に心憎い。
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posted at 23:35:31
ミステリとしてみると猟奇殺人犯の正体が分かりやすいのが難点だが、それだけでは終わらずにちゃんと意外な構図を用意しているのは好印象。ある意味古典的な手ではあるものの、そこに現代的なアイディアを盛り込むことにより、今の時代にあった本格に仕上げている。
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2013年12月09日(月)
友井羊「ボランティアバスで行こう!」読了。大学生の和磨が企画した災害ボランティアバスには様々な人たちが乗り合わせていた。罪の意識に苛まれる会社員。人助けに燃える女子高生。教え子を弔いに向かう元教師。そして、ある事情から逃亡している謎の男……それらが繋がる時、驚愕の真相が明らかに。
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災害ボランティアバスに関わった人々の心の秘密を明らかにしていく六話構成の連作ミステリ。本作をミステリとしてみるなら、見所はやはり最後に待ち受ける連作ならではの仕掛けということになるだろう。仕掛け自体は定番ではあるものの、ミスディレクションをきかせて、それと気付かせない巧さがある。
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但し現実には起こっていない要素を持ってくるのは少々アンフェアな気もする。また個々の謎と真相は大したものではないが、謎が解かれることにより人々の心を救っていく構成はボランティアというテーマに合っていて○。本作はハートウォーミングな物語とミステリ的仕掛けを巧く両立させた良作である。
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2013年12月10日(火)
詠坂雄二「亡霊ふたり」読了。名探偵志願の女子高生は魅力的な謎を求め、日夜努力を積み重ねる。彼女はボクシング部所属の男子高生を自らの探偵活動に付き合わせるが、彼女は知らなかった。彼が卒業までに人を一人殺そうと計画している、殺人者志願の少年であることを。
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posted at 22:39:13
本作を読んで自分は改めて詠坂雄二という書き手はミステリ作家ではなく、ミステリ周辺作家なのだなということを再認識した。本作は殺人者志願の少年が殺そうとしている相手である名探偵志願の少女を見守り続ける展開は、どこかしら乙一「GOTH」を思わせるところがある。
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posted at 22:39:51
しかしながら「GOTH」とは違い、本作はどこまでいってもミステリにはならない。あくまで本作はミステリのガジェットを使った青春小説であり、故に本作を青春小説として評価することはできてもミステリとして評価することはできないだろう。
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posted at 22:40:03
加えて本作にはこれまでの作者の作品に出てきた様々な要素が設定に盛り込まれており、ファンであれば色々と感慨深いものがあるに違いない。だが逆を言えば、それらを知らないと些か物語の深みに欠けるきらいがあり、そこを許容できるか否かで評価が分かれる作品である。
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2013年12月11日(水)
河合莞爾「デビル・イン・ヘブン」読了。2020年、カジノ特区が誕生した東京。一人の老人が転落死した現場には黒い天使のトランプが落ちていた。刑事・諏訪は謎を追う過程で様々なものを見る。聳えるタワー、巨大歓楽街、謎の自衛集団、死神と呼ばれる男、そして青眼の天才ギャンブラーの伝説……。
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「警察小説、未来形!」というのが本作のキャッチコピーだが、自分の見解は些か異なる。これまで作者が発表した二作品はいずれも警察小説と島田荘司的奇想の融合を目指したものだったが、今回作者はまず社会的テーマに基づいた異世界を作り上げた上で、それを実現させるという離れ業に挑んでいる。
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posted at 21:38:34
そして、その試みはある程度達成されたと言っていいだろう。前二作に比べると本格ミステリ色は薄らいだものの、カジノ特区で行われている陰謀の黒幕を突き止めるに至った推理の過程は正に異世界本格のそれだ。
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posted at 21:39:03
また終盤では前作「ドラゴンフライ」でも見せた島荘的幻想と映画的演出を駆使して一読忘れ難い情景を生み出すことに成功している。加えて壮大なプロローグを予感させる結末で物語に余韻を残したのも個人的には○。本作はこれまでの作風を踏襲しつつ、作者の新たな可能性を感じさせてくれる力作である。
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2013年12月15日(日)
三津田信三「百蛇堂 怪談作家の語る話」(文庫版)読了。作家兼編集者の三津田信三が紹介された男、龍巳美乃歩が語ったのは旧家・百巳家での迫真の実話怪談だった。数日後、龍巳から送られてきた原稿を読んだ三津田と周囲の人々を、怪現象が襲い始める。
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独立したホラー長編として書かれた「蛇棺葬」に対し、ミステリ的手法を駆使して決着をつけた本作。ある物語を読んだことで起こる怪現象から逃れるために真相を推理するという流れは「作者不詳」の時と同じだが、本作では更にそれを発展させて、謎の解明がそのまま恐怖へと直結する仕掛けを試みている。
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posted at 17:29:33
本作で明らかにされる真相自体は作者がこれまで何度もやってきた○○○○○なのだが、それを怪奇現象とメタを取り入れることにより極上のホラーとして仕立てあげている点が秀逸。また一見ホラー小説にしか見えなかった「蛇棺葬」にさりげなく盛り込まれていた伏線が次々と回収される終盤の展開も巧い。
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そして、真相を踏まえた柴田よしきの解説も絶妙で、本編読了後に読むと思わずニヤリさせてくれる。本作はミステリ的手法を使ったホラー小説の、一つの到達点とも言える作品である。
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2013年12月16日(月)
深木章子「殺意の構図 探偵の依頼人」読了。弁護士の衣田はある日、妻の父の家に放火、殺害した疑いで逮捕された峰岸諒一の弁護を引き受けることになる。だが諒一は否認を続け、弁護人の衣田にも詳細を話さない。そんな最中、諒一の妻が別荘の地下で水死したのを機に諒一はある事実を語り始める。
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posted at 23:59:00
やはりこの作者はプロットが抜群に巧い。全三章から成る本作の見所は何と言ってもタイトルにもなっている複雑に入り組んだ事件の構図に尽きるだろう。とはいえ一章を読み終えた段階では事件の構図はバレバレであり、これの一体どこが複雑に入り組んでいるのだろうと大半の読者は首を傾げるに違いない。
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posted at 23:59:10
しかしながら本作の本領発揮は二章からであり、そこから読者の予想を先回りしてイヤミス風味を添えながら悉く裏切ってみせる展開が実に秀逸。そうして読者を煙に巻いた後、三章で満を持して探偵役が登場、真相が明らかになるのだが……正直いえばこの真相にやられた感を覚える人は少ないかもしれない。
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posted at 23:59:30
プロットの巧さに反してこじんまりと纏まってしまった印象が否めず、手掛かりにしても専門知識に依存し過ぎてどうにもぴんとこない。これは少々期待ハズレだったかなと思いきや、最後の最後で見事にしてやられた。と同時に、何故本作の推薦文が法月綸太郎だったのか大いに納得した次第である。
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posted at 23:59:39