麻里邑圭人
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- 現在地 涅槃
- 自己紹介 ミステリ初心者。非実在探偵小説研究会所属。 【好きな作家】飛鳥部勝則/梶龍雄/殊能将之/早坂吝/麻耶雄嵩 【好きな作品】「カルロッツァの翼」「殉教カテリナ車輪」「竹馬男の犯罪」「翼ある闇」「魍魎の匣」 【好きな映画】「キルビルVol.1」「サスペリア」「サンタ・サングレ/聖なる血」「ダークナイト」「リベリオン」
2014年01月02日(木)
白鳥賢司「模型夜想曲」読了。拳銃自殺した老人の依頼で悪魔のような少年を探すことになった精神病院帰りの探偵・鼓洞櫂悟。霊柩車と暴走族のカーチェイス、浮浪者相手に開かれる死の講義、異形の映画館を経て辿り着いたのは衆人監視のプラネタリウムで投影機もろとも犯人が消失した奇怪な事件だった。
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posted at 16:45:02
私立探偵を主人公にしたハードボイルドの体裁を採った怪奇幻想小説。故に冒頭の、魅力的な人間消失の謎も幻想小説として処理されるわけだが、その伏線の張り方はどことなく本格ミステリ的。とはいえ個人的にはそれよりも井上雅彦を彷彿とさせる、異形への傾倒ぶりの方が楽しめた。
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posted at 16:45:24
また精神病院帰りの探偵という設定を活かした現実と虚構が入り交じる眩惑感も相当なもので、些か回りくどい文章もその演出の一環と考えればアリ。欲を言えばもう少し真相に関する伏線がほしかったところだが、ミステリならともかく幻想小説として終わらせるならこれくらいが丁度いいのかもしれない。
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2014年01月03日(金)
谷恒生「血文字「アカシア」の惨劇」読了。五明海運の御曹司・五明信太郎とアイドル歌手・藤咲えりかの結婚披露宴の最中、爆発音と共にシャンデリアが落下、信太郎が下敷きとなり即死した。更に翌朝、司会役の男がホテルの一室で喉をかき切られて殺され、枕には「アカシア」という謎の血文字が……。
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posted at 17:30:02
本作について作者は「人間の心の内奥に微睡む不可思議なものから生じる複雑な人間関係が犯罪=殺人に結びつくという設定にした」と語っているが、その言葉通り事件の状況よりも、その背景にある複雑な人間関係と事件の鍵を握る藤咲えりかという女の過去に筆が費やされている。
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posted at 17:30:46
「合理的な謎をはらみながら人間心理の不可思議性を追求してみたつもり」と作者は言うが、合理的な謎に関しては必ずしも成功しているとは言い難い。しかしながら「この事件は誰が犯人というような性質の事件じゃない」と作中で探偵役が語るように本質はそこではない。
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posted at 17:30:56
とはいえ結果としてみれば、その背後にあるものに注力したあまり、ミステリ部分が中途半端になった印象が否めないが、その一方で作者が最も書きたかった独特な犯罪パズルが忘れ難い作品である。
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2014年01月04日(土)
風見潤「闇の夢殿殺人事件」読了。天文考古学者・神堂賢太郎は恋人の奈々から失踪した友人の姉・玲子を探してほしいと頼まれる。玲子は聖徳太子の生まれ変わりである新興宗教・徳聖教団の教祖の子供を生んだと主張していた。それから暫くして玲子の他殺体が発見され、容疑者には鉄壁のアリバイが――。
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posted at 15:28:15
闇の夢殿という法隆寺の夢殿を模した窓一つない奇妙な建物を持つ、謎の宗教団体を巡る殺人事件という設定だけでも美味しいのに、そこへ暗号、アリバイトリック、密室、更に教団の秘密まで盛り込んだ贅沢な作品。しかもそれらが僅か二百頁強の分量の中で有機的に繋がっているのが凄い。
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posted at 15:28:29
とはいえアリバイトリックに関して言えばかなり綱渡りではあるものの、ミスディレクションと偶然性を考慮すればギリギリあり。個人的に最も感心したのは密室の使い方で、ある事実と絡めることにより犯人特定のロジックに繋げているのが巧い。
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posted at 15:28:47
また最後に明かされる教団の秘密に至っては、教団の設定が絶妙なカムフラージュになっているのもさることながら、ある小道具が意外な伏線として機能しているのがいい。本作は斬新なトリックこそないものの、伏線と構成に作者の技巧が窺える佳作である。
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2014年01月05日(日)
風見潤「殺意のわらべ唄」読了。TK製薬の熊沢専務が安曇野で首を切断された挙げ句、木から吊り下げられた姿で見付かり、彼の家からはてるてる坊主の歌詞が書かれた手紙が発見された。その四日後、同社の加治木専務が横浜の山下公園で赤い靴と一緒に発見され自宅からはまたしても赤い靴の手紙が……。
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posted at 18:46:14
天文考古学者の神堂賢太郎とその恋人の奈々が活躍するシリーズの一作目。童謡に見立てた連続殺人という趣向は面白いが、いかんせん明らかに頁数が足りていない。急転直下過ぎる解決もアレだが、それ以上に構成を完全にミスっており、本来作者がやりたかったことが中途半端な形で終わってしまっている。
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posted at 18:46:41
とはいえ仮に構成が巧くいっていたとしても、見立て殺人の真相に関しては正直風呂敷を広げすぎと言わざるを得ない。犯人が被害者たちを操った方法や、作者の某作を読んでいるとニヤリとするお遊びなど目を惹くところもなくはないが、個人的にはかなり消化不良な作品だった。
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2014年01月07日(火)
加藤眞男「希望のまちの殺し屋たち」読了。一人息子が起こした交通事故が気が気でない母親、不倫相手に入れあげ妻が疎ましく思っている建築士、勉強もそっちのけで大好きな彼女のことばかり考えている高校生。そんなさいたま市に暮らす三人の日常が、ある時抱いた殺意を機に複雑に絡まり始めて……。
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posted at 23:32:22
60歳以上を対象に本格ミステリ作品を募集する、第一回島田荘司選ベテラン新人発掘プロジェクト受賞者の二作目。前作「ショートスカート・ガール」もオヤジセンスが少々気になる作品だったが、今回はそれに輪をかけて酷くなっているのがかなりアレ。
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posted at 23:32:53
オヤジ視点の話ならまだしも、高校生視点でそれをやられるのはさすがにキツい。というかこれに関して編集は何も言わなかったのだろうか……。また、ことある度に出てくる埼玉ネタも正直やり過ぎて物語から完全に浮いてしまっている。
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これでミステリ部分もアレなら余裕で壁本認定だったのだが、そこは島田荘司が見出だした才能だけあってそれなりのものを見せてくれる。詳しい言及は避けるが、ある人物の意外な正体が明らかになると共にそれまでの展開がひっくり返る様は(些か強引なところはあるが)実に鮮やか。
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2014年01月09日(木)
風見潤「出雲神話殺人事件」読了。一年前に死んだはずの加賀戸村の有力者が突如現れ、消えてしまう事件が起こった。折しも加賀戸村では寺の五百羅漢に火がともり、誰もいないはずの賽の河原で子守唄が聞こえる不可解な出来事が続発していた。やがて出雲七不思議の手鞠唄通りに奇怪な連続殺人が……。
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posted at 23:41:51
まず本作はソノラマ文庫で作者が出した三冊のミステリからトリックを流用しているが、その三冊よりも本作の方が出来がいいかと言われると必ずしもそうとは言い難い。むしろそれぞれ別の作品から流用したことにより却って散漫になってしまった印象を受ける。
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posted at 23:42:01
仮にその三冊を読んでなかったとしても、犯人が見立てに拘る理由は今となってはバレバレすぎるし、そこから犯人が容易に見当ついてしまうのが難。それを考えると終盤に出てくるダイイング・メッセージは作者なりの精一杯の抵抗だったのだろうが、にしても些か強引と言わざるを得ない。
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posted at 23:42:12
逆に評価できるところは死んだはずの人間が現れたり消えたりする謎の真相と、ある事件における犯人の大胆な行動だろうか。特に前者は別の謎が絶妙な手掛かりとして機能する点が秀逸。ちなみに本作を読むのであれば、全面改稿した文庫版の方をお勧めしたい。
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posted at 23:42:45
2014年01月11日(土)
風見潤「津軽神話殺人事件」読了。大阪の十三で「ジュウサンノカク」と言い残して男が死んだ。一方、津軽半島の西側の十三村へ取材で訪れた三村佐和子が行方不明になり数日後、山奥の滝壺で死体となって発見される。二つの死の謎を追って佐和子の先輩である麻里子は恋人のたかしと共に津軽へ……。
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posted at 16:03:27
トラベルライターの朝倉麻里子とその恋人の羽塚たかしが活躍するシリーズの二作目。前作「出雲神話殺人事件」に比べてアリバイ崩し一本に絞った分、構成はだいぶスッキリしたものの、代わりに古代史と殺人事件の結び付きが弱くなったのが難。
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posted at 16:04:11
見所としては、あるアクシデントに犯人がどう対応したかであり、その綱渡りぶりがなかなか面白い反面、前作とは打って変わって鉄道マニアにしか楽しめないトリックになってしまっているのが少々残念である。
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2014年01月12日(日)
中町信「暗闇の殺意」読了。勤務先で横領の疑いをかけられていた男が転落死して間もなく、彼の住んでいたマンションで同僚が撲殺され、連続殺人の様相を帯び始める表題作を含む単行本未収録の四編に、「Sの悲劇」収録の三編を加えた本格ミステリ短編集。
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posted at 16:20:49
本作に収録された七編のうち、前半の三編はダイイング・メッセージ物で統一されているが、唯一「濁った殺意」のみはダイイング・メッセージを扱いつつも後半の四編で見られる、構成で犯人をミスディレクションさせる技巧が盛り込まれている。
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ベストは美人作家が密室で半裸姿で殺されているのが見付かる「裸の密室」で、一見ただのスケベ趣味(!)と思われた設定に隠された計算された企みと前述した技巧のダブルパンチが実に鮮やかで、個人的にはエロミスの傑作に挙げたい。
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posted at 16:21:42
次点は自動車の密室という謎が目を惹く「動く密室」と安楽死テーマを扱った「濁った殺意」で、前者は詰め込まれたトリックとさりげなくも大胆な伏線が○。後者はダイイング・メッセージの真相が明かされると共に反転する事件の構図と構成の仕掛けの結び付きが素晴らしい。
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posted at 16:22:13