麻里邑圭人
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- 現在地 涅槃
- 自己紹介 ミステリ初心者。非実在探偵小説研究会所属。 【好きな作家】飛鳥部勝則/梶龍雄/殊能将之/早坂吝/麻耶雄嵩 【好きな作品】「カルロッツァの翼」「殉教カテリナ車輪」「竹馬男の犯罪」「翼ある闇」「魍魎の匣」 【好きな映画】「キルビルVol.1」「サスペリア」「サンタ・サングレ/聖なる血」「ダークナイト」「リベリオン」
2020年03月18日(水)
エラリー・クイーン「オランダ靴の秘密」読了。オランダ記念病院に救急搬送された一人の患者。だが、手術台に横たえられた彼女は既に何者かによって絞殺されていた。控室では生きていた患者がいつ、どうやって絞殺されたのか。推理するエラリーを嘲笑うかのように、やがて第二の犠牲者が……。
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posted at 20:33:20
国名シリーズの三作目。本作でまず目を惹くのは、やはりロジックの組み立て方だろう。第一の事件と第二の事件、それぞれで展開されるロジックはいずれも単純なものながら、きちんと他の可能性を潰しつつ段階を踏んで犯人を絞り込めるようになっている点が素晴らしい。
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posted at 20:33:38
だがそれ以上によくできているのが事件の構図で、ただ意外な犯人を設定しただけではなく、なぜその人物が犯人なのかを更に突き詰めていくと事件のアンバランスさから見えてくる冷酷無比な犯罪計画と人間関係が実に秀逸。本作はロジックだけでなく細部までよく練られたパズラーの傑作である。
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posted at 20:33:46
2020年03月19日(木)
河合莞爾「カンブリア 邪眼の章 警視庁「背理犯罪」捜査係」読了。三鷹の賃貸住宅で若い女性が死亡した。当初は急性心臓死と思われたが、尾島警部補と相棒の閑谷巡査は過去にも同じ部屋で女性の突然死があったことを突き止める。「理に背く力」を使う犯罪者に立ち向かう、二人の刑事の運命は?
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posted at 21:54:15
超能力者の犯罪に対し現在の法律でどこまで立ち向かえるか?に挑んだ警察小説。作者の持ち味であるリーダビリティの高さもさることながら過去の判例や科学的蘊蓄を駆使して説得力のある物語を作り出している点がまず○で、加えてここまでやるかと唸らされるテーマの掘り下げ具合が素晴らしい。
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posted at 21:54:30
そしてこの「ここまでやるか」という部分に本格ミステリ作家らしいセンスが巧く活かされており、特に終盤における展開やある奇想に至っては「だからこういう設定だったのか」と本格ミステリならではの腑に落ちる感覚が味わえることだろう。
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明らかにシリーズ化を想定した幕引きは好みが分かれるところだが、個人的には続編を読みたいと思わせるくらいには楽しめるエンタメ性の高い佳作である。なお作品の内容とは関係ないところだが、幾つか誤植(P50「泉谷」、P117「口ごもった跡」など)がそのままになっているのはどうかと思った。
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posted at 21:54:51
2020年03月20日(金)
森谷祐二「約束の小説」読了。医師の辰史のもとに父が死んだという知らせが届いた。名家出身の父の後継者として雪深い山に建つ館を訪れた辰史。彼を待ち受けていたのは頑固な祖母、掟で定められた許婚、帰りを快く思わない者からの脅迫状だった。そして遂に殺人事件が起こり、館は孤立状態に陥る――。
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posted at 18:36:33
第12回ばらのまち福山ミステリー文学新人賞受賞作。本作は粗筋からするとコテコテの館ミステリ風だが実はもう一つ、謎に包まれたヒロインによる殺人事件とは別の物語が平行して展開する構成となっている。言うなればこの全く異なる二つの物語がどう繋がるかというのが本作の見所というわけである。
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posted at 18:36:46
尤もそう言うと人によってはよくある趣向じゃないかと思うかもしれない。しかしながら本作の真骨頂はその二つの物語を繋げるにあたり早坂吝ばりのエロジック(!)を炸裂させている点であり、これにより古式ゆかしい物語が島田荘司の提唱する二十一世紀型本格へと鮮やかに変貌を遂げるのが素晴らしい。
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posted at 18:37:06
更にトドメとばかりにラストに明かされる、なぜ作者があえて「約束の小説」というミステリっぽくないタイトルをつけたのか、その理由も心憎いほど決まっている。ただその一方で殺人事件パートで明かされる真相との温度差がやや気になるところだが、そこはご愛嬌と見るべきだろう。
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posted at 18:37:23
ちなみに温度差と言えば突如展開されるミステリ論(荒唐無稽なトリックこそミステリの華、キャラクター小説じゃなくてミステリ小説が読みたい云々)やメタル談義(!)も人によっては面食らうかもしれないが個人的には嫌いではない。とまれ、本作は古さと新しさが両方楽しめる実に意欲的な作品である。
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posted at 18:37:41
2020年03月21日(土)
中町信「新特急「草津」の女」読了。サラ金から三千万円を強奪した犯人が、パトカーに追われたあげく某総合病院の裏庭で事故を起こして即死した。ところが奪われた三千万円がどこにもない。それから一週間あまり後のこと、事件の目撃者である女医・奥沢くみるが新特急「草津3号」内で殺される。
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posted at 19:07:58
読む人が読めばすぐに分かるが、作者の某シリーズ探偵が別名義で出てくる(といっても終盤で正体が明かされるが)長編ミステリ。ネタは結構詰め込み気味で、途中からいつもの(?)殺人旅行ツアーが始まるが、どちらかというと殺人旅行ツアーに入る前のネタの方が切れ味があったように思う。
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posted at 19:08:21
特に秀逸なのはお馴染みの例の仕掛けと本に纏わるロジックを巧く絡めている点だろう。何となく作者がどういう過程で思い付いたのか分かるだけに読了後ニヤリとさせられるし、事件の構図に関するミスディレクションも手堅く決まっている。詰め込み気味とはいえ、テンポよく読める快作である。
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posted at 19:08:34
……と、ここまで書いたところで実は昔文庫版(「萩・津和野殺人事件」に改題)で既読だったことを知ってビックリした(爆)。しかも昔の感想を見たら当時より再読と気付かずに読んだ今の方が好評価だったので二度ビックリした。なお中町作品で再読と気付かずに読んだのはこれで二度目だったりする。←
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posted at 19:09:29
2020年03月23日(月)
天樹征丸/さとうふみや「金田一37歳の事件簿」6巻読了。あの函館異人館ホテルでの新たなる事件は舞台中の殺人と空中密室。特に後者は舞台という設定を活かしつつ謎の見せ方も実にハッタリがきいていて○。引き続き犯人当てにも期待したい。そして次回予告では遂に速水玲香の登場で俄然気になる。
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posted at 09:36:52
2020年03月24日(火)
長沢樹「龍探 特命探偵事務所ドラゴン・リサーチ」読了。ヤクザに追われる美人AV監督の護衛、かつての極左過激派の”女神”をつけ狙うストーカーの正体の調査……元敏腕刑事の遊佐龍太が営む探偵事務所「ドラゴン・リサーチ」には今日も警察の手に余るような厄介な依頼が持ち込まれる。
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posted at 23:54:22
全四話構成の本作は内容紹介によると軽妙にしてハードボイルドな探偵ミステリーとのことだが、ここ最近警察小説に方向転換した作者だけに警察小説の色が強いハードボイルドとなっている。とはいえ近年の作者の警察小説要素のある作品の中では比較的本格ミステリ寄りと言っていいだろう。
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posted at 23:54:46
加えてこの作者らしく登場する女キャラが妙に立っているのはいいが、その反面そっちばかり目立ちすぎて肝心の探偵の顔が見えづらいのが残念。また売りのどんでん返しにしても後半二編に関してはいまいち切れ味が鈍いように感じた。もしシリーズ化するのであれば、その点をもっと考慮してほしいと思う。
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posted at 23:57:05
2020年03月25日(水)
酒本歩「幻のオリンピアン」読了。故障により東京オリンピックへの夢破れたカナリー体操部アシスタントコーチの帆乃夏。ある日、選手の真央が腹部の激痛に襲われ病院に運ばれる。痛み止めの薬による急性胃炎と診断されるが、不穏な空気を感じる帆乃夏。独自に調査を始めるが……。
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posted at 22:39:32
第11回ばらのまち福山ミステリー文学新人賞を受賞した作家の二作目。タイトルにある通りオリンピックを題材にした本作は前作「幻の彼女」と同じく地味な謎から驚愕の真相へと繋げているが本作の場合、前作を読んでいる人間ほどこの作者がこういう手でくるとは思わず騙されるのではないだろうか。
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posted at 22:43:04
尤も仕掛け自体は前作に比べると斬新さに欠けるものの、作品全体から見れば前作よりも無駄なものが削ぎ落とされ、よりミステリとしての骨格がしっかりしているのは好印象。何よりも仕掛けが明かされて以降の、不思議な縁が紡ぐ人間ドラマにこそしみじみとした良さがある。
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posted at 22:43:28
その分、エピローグには今の世情からすると何とも言えないやるせなさを覚えるものの、それを差し引いても本作は二つの意味で青春を描いたスポーツミステリの良作と言っていいだろう。
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posted at 22:43:46
2020年03月26日(木)
貴志祐介「罪人の選択」読了。妻を寝取った男の前に夫が出したのは一升瓶と缶詰。一方には猛毒が入っている。もしどちらかを口にして生き延びられたら男は許されるという。果たして正解は? 表題作を始め、ミステリ、SF、ホラーなどバラエティーに富んだ四編を収録。
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posted at 20:39:43
ノンシリーズ物の四編を収録した作品集。全編ハズレなし――と言いたいところだが、一編目の「夜の記憶」は作者が「黒い家」で本格的にデビューする前に書かれたものだけあって、今の貴志作品とはだいぶ毛色が異なり、人によってかなり好みが分かれるだろう。
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posted at 20:40:12
むしろ作者の本領発揮と言えるのは二編目の「呪文」からであり「新世界より」の刊行直後に書かれただけあって、その共通点が窺えるのもさることながら、何よりSFと呪いという正反対とも言える要素を奇跡的に融合させた手腕は驚嘆に値する。
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posted at 20:40:25
続く三編目の表題作では仁木悦子「赤と白の賭け」を思わせる絶体絶命の状況から人間の本性を浮き彫りにさせる切れ味鋭いサスペンスで魅せる一方で、なぜ作者が十八年という時を隔てて同じ状況に陥った二人の男の視点で描いたのか、その理由が分かる捻りに捻ったオチが実に秀逸。
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posted at 20:40:34
そしてトリを飾る四編目「赤い雨」は世界各地に降り注いだ赤い雨によって人間を含む生物が絶滅の危機にある未来社会を描いたSFでありつつも二転三転する法廷劇を盛り込み、伏線を見事に回収しながら絶妙な余韻も残す幕引きはさすがの一言。極上のエンタメが読みたい人には打ってつけの作品集である。
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2020年03月27日(金)
中町信「佐渡ヶ島殺人旅情」読了。推理作家の氏家周一郎と妻の早苗が事故死した知人の孫娘の墓参りをするため佐渡ヶ島に到着した日、同じホテルの宿泊客の女性が何者かに撲殺された。氏家夫妻は被害者が生前にロビーでつぶやいた「あの写真の人だわ」という言葉を手がかりに事件に挑戦していく。
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posted at 19:00:33
作者の看板探偵の一人、推理作家の氏家周一郎が活躍する長編ミステリ。旅先で殺人事件に巻き込まれ、真相に近付いた人間が次々と殺されていく展開はいつも通りながら、本作で特筆すべきは何と言っても事件の鍵を握るオームの正体だろう。
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posted at 19:00:50
作者らしい着眼点と言えるこのネタを駆使した大胆なミスディレクションのみならず、それが解けると瞬時に事件の構図が理解できるようになる単純明快な構造が実に秀逸。またお馴染みの仕掛けも真相のミスディレクションとして巧く機能しており、なかなかどうして隠れた佳作と言うべき作品である。
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posted at 19:01:09