麻里邑圭人
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- 現在地 涅槃
- 自己紹介 ミステリ初心者。非実在探偵小説研究会所属。 【好きな作家】飛鳥部勝則/梶龍雄/殊能将之/早坂吝/麻耶雄嵩 【好きな作品】「カルロッツァの翼」「殉教カテリナ車輪」「竹馬男の犯罪」「翼ある闇」「魍魎の匣」 【好きな映画】「キルビルVol.1」「サスペリア」「サンタ・サングレ/聖なる血」「ダークナイト」「リベリオン」
2011年10月10日(月)
嵯峨島昭「グルメ殺人事件」読了。本作はフォアグラ、すきやき、ジビエ、にぎり鮨、北京ダック、鮎、ライスカレー、ちゃんこ、スイス・フォンデューという九つの料理に纏わる事件を、キザで美食家の酒島警視と金持ちの人妻の紫藤鮎子のコンビが解き明かすグルメ・ミステリ短編集である。
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posted at 20:30:11
嵯峨島昭のグルメ・ミステリというと料理に関する描写が絶妙なあまり、空腹状態で読むと後悔すること請け合いだが、本作はそれに加えてミステリとしても密室あり、吹雪の山荘あり、ダイイング・メッセージあり、動く力士人形(!)ありと、かなり読み応えのある内容になっている。
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posted at 20:30:48
しかも、それらの謎に料理がきちんと絡んでいるのが素晴らしい。その絡ませ方も実にバリエーションに富んでおり、料理の調理法やメニューが意外な手掛かりとして機能している点が秀逸。本作はグルメとミステリにおいて正に二度美味しい作品である。
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posted at 20:37:10
2011年10月11日(火)
草野唯雄「塩原殺人行」読了。塩原温泉の岩風呂で、大学教授の夫を持つ人妻・ゆりと不倫旅行中だった男が殺された。警察は偶然同じ塩原にいたゆりの夫・三田を犯人と断定、裁判にかけるが、先妻の娘・さなえは父の無実を信じて、ボーイフレンドの栄二と共に真相を突き止めることを決意する。
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posted at 18:10:42
鉄壁のアリバイ崩しに挑んだ表題作は、中編という長さに関わらず、殺人事件の捜査から法廷シーンまで実に様々な展開が用意されている。正直トリックは二時間サスペンスの域を出ないものの、物語のテンポはいいので最後まで読者を飽きさせない。
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posted at 18:11:28
一方、同時収録の中編「大東京午前二時」は作者の初期作である。恋人に去られた男が東京のどこかにあるビルで大量の睡眠薬を服用し死にかけている女の命を救うため、僅かな手掛かりを元に夜の東京を奔走するという内容のこの中編は、時間制限によるサスペンスとプロットの妙を堪能することができる。
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2011年10月12日(水)
清水義範「こちら幻想探偵社」読了。やむを得ぬ事情で大学時代からの友人・真下と共に探偵社を始めることになったおれ。名探偵を気取る真下は本格ミステリーに出てくるような事件との出会いに胸をときめかせているようだが、実際はミステリー違いの奇々怪々な事件ばかりで……。
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posted at 21:11:23
本作が西澤保彦の「チョーモンインシリーズ」に影響を与えていると聞き、読んでみたのだが、成る程、確かにミステリとして非常に興味深い内容になっている。基本的には本作で起こる事件はSFのカテゴリに入るものだが、そんな本作をミステリたらしめているのは「幻想探偵社」所長・真下の存在である。
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posted at 21:11:57
この真下というキャラ、名探偵になりきるあまり、真相に関係なく本格ミステリ顔負けの解決をでっち上げ、事件を解決した気になるという困った性格だったりする。故にどんな事件であろうと、真下の手にかかれば本格ミステリになってしまうのである。
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posted at 21:12:14
個人的に感銘を受けたのは第二話「幽霊屋敷の時間の渦」で、新築の家に出没する幽霊の謎が真下の手にかかるとどうなるか一読の価値あり。また第四話「アリバイ崩しにご用心」でも唖然とするような解決をでっち上げてくれる。本作は西澤ファンはもとより殊能ファンにも読んでもらいたい作品である。
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2011年10月13日(木)
歌野晶午「春から夏、やがて冬」読了。『葉桜に君を想うということ』を超える衝撃がいま――という帯の文句から多分本作を読むミステリファンの大半が『葉桜』を念頭に置くだろうと思われるが、結論から言うとそれは間違っている。『葉桜』のような驚きを求めると十中八九肩透かしを覚えることだろう。
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posted at 22:07:11
但し、それは本作が『葉桜』に劣っているという意味では断じてない。考えようによっては本作も『葉桜』同様、あるネタを成立させるために作られた物語と言えなくはないが、サプライズ重視だった『葉桜』と違い、本作はあくまで説得力重視で書かれている。
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posted at 22:07:46
故に本作を読んで巧いなと思うことはあれど、やられたと思うことはない。『葉桜』がミステリ作家・歌野晶午の代表作なら、本作は差し詰め、小説家・歌野晶午の代表作になる可能性を秘めた作品である。
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2011年10月14日(金)
初野晴「ノーマジーン」読了。終末論が囁かれる荒廃した世界。車椅子で生活をする鞄職人のシズカは介護ロボット支給の抽選に当選するが、肝心のロボットは届かず、代わりに現れたのは言葉を話す赤毛のサル・ノーマジーンだった。ノーマジーンは言う。「シズカの背中を押すためにぼくはきたんだ」
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posted at 20:52:14
まず最初に断っておくと、本作の寓話的設定はトリックを成立させるためのものではない。基本的にそれはノーマジーンとシズカの絆を効果的に描き出すために存在するが、どこか今の社会と被る部分のあるその世界観は、読み手によって色々思うところもあるだろう。
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posted at 20:52:37
一応、ミステリらしく終盤でノーマジーンの正体とその目的が明らかになるが、それにしてもミステリ本来の「やられた」という醍醐味とは些か異なる。あくまで寓話の域を出ることはないが、それ故に考えさせられるところも多い作品に仕上がっていると思う。
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posted at 20:54:24
2011年10月17日(月)
「Q.E.D.」40巻読了。四角関係にある男女二組が盗難事件の容疑者になる「四角関係」もよくできているが、目玉は何と言っても「Q.E.D.」初のコミックス描き下ろし中編「密室 No.4」だろう。
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posted at 15:08:44
孤島の館で起きる密室殺人の解明を目的としたミステリーツアーの模擬体験中に、本当の密室殺人が発生してしまうこの話は、〈密室がどうやって作られたのか?〉という前半の趣旨が後半で起きる事件の絶妙な目眩ましになっている点がまず秀逸。
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posted at 15:09:50
しかも、それを利用して計画を立てたはずの犯人が、その密室に足許を掬われるという皮肉な構成が実に素晴らしい。個人的には近年の「Q.E.D.」の傑作の一つに挙げたい出来だったと思う。
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posted at 15:10:16
2011年10月18日(火)
吉田恭教「変若水」読了。厚生労働省に勤務する俊介は幼馴染み・玲子の突然死の背後にある病院の内部告発の真相を追及するうちに変若水という奇妙な村に辿り着く。誰も見てはならない雛祭り、墓荒らし、奇病、行方不明になったハイキング客……次々と浮かび上がる不可解な出来事は何を意味するのか?
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posted at 12:25:26
一言でいうなら最先端医療サスペンスと三津田的異形世界のハイブリッド。複雑に入り組んだ死の連鎖を纏めあげる手腕はただ者ではない。確かに帯で謳っている殺人トリックは非常に面白いが、それよりも個人的に感心したのは奇病が生まれた背景で、これに心を擽られないホラー好きは恐らくいないだろう。
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posted at 12:26:30
唯一の不満は推理要素が少ないのと雛祭りの真相にあまり意外性がないことくらいだが、前者に関しては作品の性質上仕方ない部分もあると思う。だが、それを差し引いても、本作がリーダビリティ抜群の良質なエンターテイメント作品であることに変わりはない。
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posted at 12:27:10
2011年10月21日(金)
森晶麿「黒猫の遊歩あるいは美学講義」読了。モルグ街の殺人事件、黒猫、マリー・ロジェの謎、盗まれた手紙、黄金虫、大鴉……ポーの作品をモチーフにした六つの事件を「黒猫」と呼ばれる芸術学専門の若き大学教授が鮮やかに解き明かす本作は、探偵小説の持つ詩的な美しさに満ちた連作短編集である。
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posted at 15:56:45
ポー作品の新解釈やペダンチック講義が楽しい反面、モチーフに拘り過ぎるあまり、ミステリとして些か苦しいものもなくはない。だが一方で優れた短編もあり、例えば第三話「水のレトリック」は香水に纏わるミステリアスな悲恋話が、思わぬ伏線と結び付いて仄かに甘い構図を浮かび上がらせる点が秀逸。
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posted at 15:58:13
蘇部健一「古い腕時計 きのう逢えたら…」読了。片思い中の青年、プロ野球選手、お笑い芸人、借金を抱えた元ラーメン屋、作家志望の男、時効を待つひき逃げ犯、見習い棋士……偶然にも一日だけ時間を巻き戻せる不思議な腕時計を手に入れた七人の物語。「まちがった時間は、正さなければなりません」
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posted at 16:47:16
蘇部健一の新作は「恋時雨」路線のSFファンタジーだが、ただ奇跡が起こって救われる安易なハッピーエンド物にしていない点は個人的に好印象。得意のイラストによる演出も作品から浮くことなく、綺麗に溶け込んでいると思う。
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posted at 16:47:59
不満点を挙げるならば、SF設定ならではの技巧的な面白さがあまり感じられないことだが、単純に「ちょっと不思議ないい話」を読みたい人にとっては問題なく楽しめるだろう。
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posted at 16:48:26
2011年10月22日(土)
石黒正数「外天楼」読了。捨てられたエロ本の持ち主分析、宇宙刑事と悪の組織との戦闘中に起こった殺人、様々な解釈ができてしまうダイイング・メッセージ……外天閣と呼ばれる建物に纏わる珍事件の数々を描いた本作は、前半はミステリ好きの作者らしいパロディネタが楽しい。
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posted at 15:22:19
個人的に好きだったのは密室で発見された死者を巡る第四話「面倒な館」で、元ネタは十中八九作者が敬愛する島田荘司の某作品だろう。だが、そんなコミカルな前半とは打って変わって、後半はシリアス全開の異世界本格ミステリになり、意外な構図が明らかになる。
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posted at 15:22:49
これが最初から計算して描かれたものなのか、それとも途中から思い付いたものなのかは分からないが、どちらにしろかなり上手く繋げていることに変わりはない。正直この真相を見抜くのは厳しいと思うが、本作はむしろどこに着地するか分からない、良い意味で先の見えない展開を楽しみたい。
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posted at 15:24:00