麻里邑圭人
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- 現在地 涅槃
- 自己紹介 ミステリ初心者。非実在探偵小説研究会所属。 【好きな作家】飛鳥部勝則/梶龍雄/殊能将之/早坂吝/麻耶雄嵩 【好きな作品】「カルロッツァの翼」「殉教カテリナ車輪」「竹馬男の犯罪」「翼ある闇」「魍魎の匣」 【好きな映画】「キルビルVol.1」「サスペリア」「サンタ・サングレ/聖なる血」「ダークナイト」「リベリオン」
2013年04月01日(月)

井沢元彦「修道士の首」読了。時は天正。安土城を拠点に天下を睨む織田信長が遭遇した事件の数々。修道士の失踪と人間消失、有り得ない距離からの狙撃、アリバイ崩し、不可解な放火と切腹、茶会での毒殺、不動明王が起こした密室殺人、アドニス像に纏わる連続死……七つの謎に信長の推理が冴える。
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posted at 19:03:31

織田信長を探偵役にした連作短編集。何と言っても謎と史実の絡ませ方が絶妙で、実際こんな事件があってもおかしくないのではと思わせてしまうあたりに歴史ミステリを得意とする作者の凄味を感じさせる。また全編この時代だからこそ可能な仕掛けを用いている点も素晴らしい。
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posted at 19:04:00

個人的にツボだったのは現代に生きる読者だからこそ気付かない毒殺トリックが秀逸な「身中の虫」、事件の動機が目から鱗な「不動明王の剣」、プロットが最も凝っている「裁かれたアドニス」の三編だが、基本的には全編何かしら見るべき所がある作品集である。
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2013年04月02日(火)

青柳友子「あなたの知らないあなたの部屋」読了。マンションに住む美しい女・菜織子。たまたま鍵を拾ったことから度々憧れの菜織子の部屋に無断で入り込んでいる女・伊都子。同じく菜織子に憧れ、ベランダの窓からいつも菜織子のことを覗き見ている男・玉男。三人の運命に、やがてある異変が……。
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posted at 17:18:09

二人の変態(?)に見初められた哀れな女の話……かと思いきや、ある事件を機に一転してこの作者得意の悪女小説に。やはりこの作者は悪女を描いている時が一番イキイキしているように思う。
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posted at 17:18:44

また作中に出てくる言葉一つとっても、薄い壁越しに聞こえる老人の咀嚼音、部屋に漂う自分のものではないワキガ臭、殺虫剤をかけられたゴキブリのようにもがく死に瀕した男……等々、いい感じで生理的嫌悪感を煽ってくれるのも○。
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そしてミステリとしてもきちんと設定を活かしたサプライズを幾つか用意しており、特に因果応報とも言えるラストの捻りが素晴らしい。伏線の一部にやや唐突なきらいがあるものの、本作が「完全犯罪の女」と並ぶ作者の代表作であるのは間違いない。
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2013年04月03日(水)

山崎洋子「香港迷宮行」読了。四泊五日の香港ツアーに参加した麻砂美は、とある事情で子連れの母親・久里子を殺さなければいけなかった。だがなかなかチャンスは訪れず、そうこうしているうちに麻砂美自身も何者かに命を狙われる羽目になる。ただでさえ一癖も二癖もある参加者たちに隠された秘密とは?
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posted at 22:00:12

トリッキーな構成とサスペンスで魅せる快作。本作の登場人物は基本的に胡散臭く、皆、腹に一物を抱えている。そんな登場人物たちの素性が一章ごとに明らかにされていくわけだが、謎は解消されるどころか、より深まっていくばかりである。
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posted at 22:00:32

とはいえ、その真相はあらすじ(講談社ノベルス版)にあるような戦慄を覚えるものでは決してない。しかし伏線は丁寧に張られているし何よりその皮肉めいた構図はどこかコミカルな物語には相応しいと言えるだろう。赤川次郎のような毒のあるユーモアサスペンスが好きな人にこそお勧めしたい作品である。
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2013年04月04日(木)

周木律「眼球堂の殺人 ~The Book~」読了。天才建築家・驫木煬が山奥に建てた巨大な私邸・眼球堂に招待された各界の天才と放浪の数学者・十和田只人。だが一夜明けた彼らを待っていたのは人間技とは思えない、高いポールの先端に串刺しにされた主の死体だった。第47回メフィスト賞受賞作。
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初心者向けミステリ。それが本作を読んでまず思った自分の感想だった。本作で起こる事件のトリック(とオチ)は全てある程度ミステリを読みなれた読者であれば真っ先に思い付く定番のものであり、むしろここまでテンプレ通りであることに驚いてしまったくらいだ。
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そういう意味では帯にある森博嗣の推薦文(「懐かしく思い出した。本格ミステリィの潔さを」)は嘘偽りないと言えるだろう。とはいえ本作だけ読んだ時点では、作者のオリジナリティがこのトリックを実現するのに眼球堂という舞台を持ってきたことくらいしかないのがかなりアレ。
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posted at 10:06:29


天祢涼「綾辻行人殺人事件 主たちの館」読了。舞台で演じられた事件の真相を観客が推理するイベント「ミステリーナイト」で綾辻行人とのコラボ作品が上演されることとなった。中村青司が建てた蜃気楼館の開かずの間で惨劇が起こるという筋立てだが、そのプレビュー公演中に本物の殺人が発生し……。
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posted at 19:51:23

本作は「ミステリーナイト」誕生&綾辻行人デビュー二十五周年を記念して企画された同名のイベントをメフィスト賞作家の天祢涼がノベライズしたものだが、もともと舞台劇だっただけあって作中で用いられたトリックはどれも非常に舞台映えしたものになっている。
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posted at 19:52:05

ミステリとしては丁寧な伏線とミスディレクションが好印象で、失礼な言い方かもしれないが、イベントだけで終わらせるには惜しいと思わせるくらいのクオリティには達していると思う(だからこそノベライズしたのかもしれないが)。
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ただ不満も幾つかあり、例えばダイイング・メッセージに関しては、補足程度の扱いとはいえ、あの解釈の仕方はさすがに厳しいと言わざるを得ない。また個人的には劇中劇の内容にあまり面白さを見出だすことができなかった。そこまで作り込んでくれれば、なお良かったと思う。
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posted at 19:53:01
2013年04月05日(金)

麻見和史「虚空の糸」読了。江東区の団地で発見された刺殺体は右手にナイフを握っていた。自殺に見せかけるにしてはあまりに稚拙な偽装工作に捜査陣が首を傾げる中、警視庁に犯人から次のようなメールが届く。「一日に一人ずつ東京都民を殺害する。この計画を止める方法はただ一つ。二億円を用意しろ」
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posted at 16:31:23

新米女刑事・如月塔子を始めとした警視庁捜査一課十一係の面々が活躍するシリーズの四作目。犯人が東京都民を人質に多額の身代金を要求してくるという一見スケールの大きなあらすじは、さながら西村京太郎「華麗なる誘拐」を彷彿とさせるが、あいにく本作の眼目はそこではない。
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posted at 16:32:10

あくまで本作の見所は身代金を巡る駆け引きと犯人探しであり、前者は一見本筋とは関係なさそうな場面が後々重要になっていく過程が、後者は些細な伏線の綱渡りで意外な犯人を引きずり出す手腕が秀逸。特に後者に関してはシリーズ中、最も成功していると言っていいかもしれない。
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思えばシリーズ一作目では意外性を狙い過ぎて「クルーザー殺人事件」状態(?)になってしまったが、それも四作目にしてようやくこなれてきた感がある。警察小説としてもさることながら、本格ミステリとしてもお勧めできる良作である。
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2013年04月06日(土)

辻真先「急行エトロフ殺人事件」読了。舞台は昭和十九年、まだ太平洋戦争が開戦していない平行世界の日本。夕刊太陽で記者をしている克郎が同窓会に出席して間もなく会の参加者が次々と謎の死を遂げる。事件の鍵を握るのは失踪した友人・町谷が残した手紙にある存在しない鉄道「急行エトロフ」だった。
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克郎やスーパー、ポテトといった作者の作品ではお馴染みのキャラクターが何故か戦争の影が濃いパラレル日本で活躍する話。ミステリとしてみると派手な仕掛けこそないものの、些細な伏線の巧さや「急行エトロフ」の意外な正体など見るべきところは多い。
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posted at 18:36:04

また作者のいう、ある掟やぶりへの挑戦に関してもぎりぎり成功していると言ってもいいだろう。しかしながらそういったミステリ部分も全て戦争に対する作者の主張によって食われてしまっており、正直ミステリとして純粋に楽しめたかと言われると首を傾げざるを得ない。
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2013年04月07日(日)

山崎洋子「花園の迷宮」読了。昭和初期、横浜にある遊廓「福寿」に売られてきた二人の少女・美津とふみ。美津は娼妓として、ふみは下働きとして採用されるがそれから暫くして美津が客と共に謎の死を遂げる。美津の死に疑問を抱いたふみは単身事件の調査に乗り出すが、その後も惨劇は次々と起きて――。
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posted at 00:02:15

第三十二回江戸川乱歩賞受賞作。遊廓を舞台にしたミステリというと、最近の例では三津田信三「幽女の如き怨むもの」があるが、ホラーミステリである「幽女」とは異なり、本作は勝ち気な美少女・ふみの視点で描いたゴシック・ロマンス的な内容となっている。
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posted at 00:05:04

シナリオライターである作者だけに話の運びが非常に巧く、物語への没入感はかなり高い。それでいて伏線の張り方もそつがなく、ミステリとしてのポイントはきちんと押さえている。あっと驚く仕掛けこそないものの、万人に安心してお勧めできる良作と言っていいだろう。
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赤月黎「操り世界のエトランジェ 第一幕 糸仕掛けのプロット」読了。万物を自在に操る能力「操糸術」の使い手である高校生・透真は失踪した母の仕事を引き継ぎ、巷を騒がせている連続通り魔事件の調査に乗り出す。美しくも奇妙な少女たちとの邂逅と数々の怪異の果てに待ち受ける真相とは?
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posted at 17:09:36

万物を自在に操る糸遣いの主人公、百八の名刀をその体に収めた神の手の十四番目の作品という美少女、自分のことを人形と呼び主人公に忠誠を誓う黒衣の戦闘メイド……異世界本格ミステリ「魔女狩り探偵春夏秋冬セツナ」の作者のデビュー作は厨二設定が際立つミステリ風味の伝奇バトル物である。
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「魔女狩り探偵」にあった寒いギャグが一切ないのは好印象で、キャラ萌えとしてもこちらの方が上。しかしながらミステリとしては風味以上のものは全く見出だせず、これはちょっと見込み違いだったかな……と思っていたら、まさか最後の最後でやってくれるとは思わなかった。
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正直この真相は些か強引なものではあるが、設定を活かした引っくり返しのセンスは正にミステリのそれである。純粋なミステリとしては全くお勧めしないが、個人的には「魔女狩り探偵」の片鱗が見れただけでも満足だった。
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