麻里邑圭人
- いいね数 9,797/10,375
- フォロー 1,028 フォロワー 1,647 ツイート 91,937
- 現在地 涅槃
- 自己紹介 ミステリ初心者。非実在探偵小説研究会所属。 【好きな作家】飛鳥部勝則/梶龍雄/殊能将之/早坂吝/麻耶雄嵩 【好きな作品】「カルロッツァの翼」「殉教カテリナ車輪」「竹馬男の犯罪」「翼ある闇」「魍魎の匣」 【好きな映画】「キルビルVol.1」「サスペリア」「サンタ・サングレ/聖なる血」「ダークナイト」「リベリオン」
2020年12月12日(土)

小川春央「僕が七不思議になったわけ」読了。高校生の中崎夕也はある夜、七不思議を司る精霊・テンコと出会う。「おめでとう、お主はこの学校の新しい七不思議に選ばれた」生きながらも七不思議の一つとなった彼はその不思議な力を使い、気になる女生徒・朝倉さんをストーカーから助けようとするが――。
タグ:
posted at 16:11:13

第20回電撃小説大賞金賞受賞作。本作は「ミステリアス・ファンタジー」と銘打たれているものの、七不思議の設定を活かしたある仕掛けを最大のサプライズにした構造を考えると充分特殊設定ミステリと言っていいだろう。
タグ:
posted at 16:11:34

とはいえ、それ以外の部分でもミステリ要素は盛り込まれており、例えば不可解な盗難事件を扱った夏の章では容疑者の鉄壁のアリバイを駆け足ではあるが鮮やかに解いてみせる。そしてメインの仕掛けでは主人公の恋の行方をミスディレクションにすることで衝撃度をより高めているのが○。
タグ:
posted at 16:11:52

2020年12月14日(月)

吉岡梅「探偵はサウナで謎をととのえる」読了。不可解な心中事件、魚と一緒に冷やされていた死体、タロットのダイイング・メッセージ、同じ人物を殺したと主張する二人の容疑者……刑事・水田龍二の義父で元刑事の櫓竜太郎は安楽椅子ならぬサウナで六つの難事件の謎を解く。「謎は全てととのいました」
タグ:
posted at 22:54:11

カクヨムオーバー30歳主人公コンテスト特別賞受賞作。タイトル通り60歳の元刑事がサウナで謎を解く連作ミステリの本作は基本的に娘婿の刑事が事件を持ち込む→探偵役が迷推理を披露→探偵役がサウナで天啓を得て真相に辿り着く→容疑者と一緒に(!)サウナで謎解きという流れになっている。
タグ:
posted at 22:54:43

毎回探偵役がサウナへ行く前に披露する推理がとても推理とは言えないポンコツ仕様なのは賛否が分かれるところながら、サウナの蘊蓄の中にさりげなく手掛かりを織り込むことでサウナで謎を解く必然性をしっかりと用意しているのは好印象。
タグ:
posted at 22:55:09

また収録作は割りとベタなネタを扱う一方で変化球も取り揃えており、特にドッキリ企画の動画に隠された嘘を暴く「サウナ探偵の順応」と同じ人物を殺したと主張する二人の容疑者の謎を扱った「サウナ探偵の巡礼」の二編が抜きん出ている。
タグ:
posted at 22:55:40

前者は焦点となる動画に隠された嘘が物語の展開と共に刻々と形を変えていく点が秀逸で、何気に犯人視点の描写が絶妙なミスディレクションになっているのもポイント高し。そして後者は謎の面白さもさることながら、探偵役が突きつける盲点と言うべき気付きによってガラリと反転する構図が素晴らしい。
タグ:
posted at 22:55:55

一見ただのネタミステリのように思えるかもしれないが、実際読んでみると思いのほかサウナ探偵という設定がミステリとして活かされていることに驚かされる快作である。
タグ:
posted at 22:56:17
2020年12月15日(火)

鳳乃一真「いのしかちょうをこっそり視ている卯月ちゃん」読了。女子高生の逆槻卯月の日課は放課後になると使われていない部室に侵入しあるスマホの中に残った三人の人物のLINE記録を読み返して観察日記をつけること。そしてそれこそが「あの日」に起きた出来事に迫ることができる唯一の鍵だった。
タグ:
posted at 22:05:44

とある事情で手に入れた誰のものかわからないスマホのLINE記録を盗み見ることでヒロインが自分の身に何が起こったのかを探っていく長編ミステリ。本作でまず目を惹くのはなんといっても全編横書きのテキストと、アイコン画像やスタンプまで忠実に再現されたLINEのやり取りだろう。
タグ:
posted at 22:06:17

タイトルにもなっている三人の人物「イノ」「志賀」「ちょう」によるLINEのとぼけたやり取りも楽しいが、それ以上にヒロインに何があったのか少しずつ明かしていく構成が秀逸。だが凝った構成の割りに真相が安直なのもさることながら登場人物が少ないせいで誰が犯人なのかバレバレなのが勿体ない。
タグ:
posted at 22:06:35

加えて横書きのテキストとLINEならではの仕掛けがない点も些か残念ではあるが、端からそういったものさえ求めなければ、ちょっと変わった構成のサスペンス物として楽しめる作品である。
タグ:
posted at 22:06:51
2020年12月16日(水)

鳳乃一真「お嬢様がいないところで」読了。名家として名高い道明院家の可憐お嬢様はどんな難事件も解決してしまう“お嬢様探偵”だった。この物語は可憐お嬢様が関わった事件を描いた華麗なる事件簿──ではなく、そんなお嬢様に仕える三人の男たちの日々の様子を描いただけの、平凡な物語である。
タグ:
posted at 21:47:43

名探偵であるお嬢様の活躍ではなくそのお嬢様に仕えるただの外野に過ぎない三人の使用人にスポットを当てた異色連作。物語の大半が傍若無人なお嬢様探偵に振り回され蓄積した疲れを使用人トリオがとっておきの甘味で癒す様に費やされているのでミステリとは思わず本作を読む人がほとんどかもしれない。
タグ:
posted at 21:50:07

しかしながら本作は外野ならではの事件の描き方が秀逸で、事件に直接関わっていないにも拘わらず、何気ない日常の描写から見えてくる名探偵の影に隠れたある人物の活躍に、外野だからこそ気付いてみせる点が実に心憎い。
タグ:
posted at 21:50:57

2020年12月17日(木)

鳳乃一真「お嬢様がいないところで 水平思考のファンダメンタル」読了。名探偵でもある可憐お嬢様に振り回される勇吾(完璧メガネ執事)、志水(色気ダダ漏れモテ運転手)、薫(子犬系フットマン)の使用人トリオ。今度はお屋敷のサロンを通じてお嬢様に持ち込まれる“相談事”に悩まされる羽目に……!
タグ:
posted at 21:24:03

名探偵であるお嬢様に仕える外野に過ぎない三人の使用人にスポットを当てた異色連作シリーズの二作目。今回は三つの“相談事”もとい、ウミガメのスープなどに代表される水平思考ゲームに使用人トリオが挑むのが物語のメインとなっており、前作に比べるとよりミステリ色が強い内容になっている。
タグ:
posted at 21:24:20

三つの“相談事”のうち、一つ目は見破ったと思わせてからの捻りが、二つ目はホワイダニットと見せかけた問題が○。そしてそれらが最終的にお嬢様の追っている事件と絡む展開は前作と同じながら、今回はそこで使用人と主の微妙な関係を表現してみせた点がいい。
タグ:
posted at 21:24:36


綿世景「遊川夕妃の実験手記 仮面じかけのエンドロール」読了。とあるお金持ちから映画制作依頼を受けた遊川夕妃と千代倉和は気が付くと仮面の着用と偽名の使用が義務付けられ義務を破れば死が訪れる連続殺人に巻き込まれていた。一方、瀬海今日子は因習の残る村で密室首切り殺人の謎に挑むことに――。
タグ:
posted at 21:27:03

デビュー作「遊川夕妃の実験手記 彼女が孔雀の箱に落ちたわけ」の続編。メインの事件が致命的なまでに魅力がなかった前作に対し本作では一転して豪華ホテルを舞台に「奇面館の殺人」を思わせる状況下での連続殺人と過去に起きた密室首切り殺人というキャッチーな事件を二つも用意しているのが好印象。
タグ:
posted at 21:27:28

特に秀逸なのは豪華ホテルでの連続殺人パートで、デスゲーム的展開とルールが絶妙なミスディレクションになっているのもさることながら、序盤の何気ない描写が犯人の意図と密接に繋がっているのが素晴らしい。
タグ:
posted at 21:28:06

だがその反面もう一つの密室首切り殺人パートが明らかに消化不良で、作者がやりたかったことは分かるが駆け足過ぎる展開や説明不足が目につきすぎるのが実に勿体ない。結果的には作者が設けたハードルはお世辞にも超えているとは言い難いものの、前作からの成長はしっかりと感じられる作品である。
タグ:
posted at 21:28:33
2020年12月18日(金)

紺野天龍「錬金術師の消失」読了。アスタルト王国の錬金術師テレサとエミリアはセフィラ教会の聖地の塔へ調査に赴いた。水銀製の奇妙な塔には隣国の錬金術師や教会聖騎士団、巡礼者らが集まっていた。だが突然の嵐で塔は孤絶。一夜明け聖騎士の首なし死体が発見されたのを皮切りに次々と犠牲者が……。
タグ:
posted at 17:17:37

「錬金術師の密室」に続くファンタジーミステリシリーズの二作目。まず最初に断っておくと本作は前作を読了していることが前提の作品である。故にもし本作から読もうと考えている人がいるなら、速やかに本作は後回しにして前作から読むことを強くお勧めしたい。
タグ:
posted at 17:18:14

逆に前作を読んでいる人には、本作が前作以上に完成度が高い作品であると断言できる。二作目の今回はいかにもな建物で起こる連続殺人を扱っているが、大半のミステリ読みが期待するアレ系の仕掛けに関しては当然のことながら用意されているので、そこはご安心(?)を。
タグ:
posted at 17:19:11

個人的に感心したのはこの手の作品が陥りやすいトリックのためのトリックになりがちなところを世界観と絡めて巧く回避している点であり、加えてそのトリックをしっかりと犯人を絞り込むロジックにも活かしているのは好印象。
タグ:
posted at 17:19:32

欲をいえばダミーの解決(これもよくできている)を否定するものが後から出てきた新事実以外にもほしかったところだが、それを差し引いても充分秀作と言っていい作品である。
タグ:
posted at 17:20:05