麻里邑圭人
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- 現在地 涅槃
- 自己紹介 ミステリ初心者。非実在探偵小説研究会所属。 【好きな作家】飛鳥部勝則/梶龍雄/殊能将之/早坂吝/麻耶雄嵩 【好きな作品】「カルロッツァの翼」「殉教カテリナ車輪」「竹馬男の犯罪」「翼ある闇」「魍魎の匣」 【好きな映画】「キルビルVol.1」「サスペリア」「サンタ・サングレ/聖なる血」「ダークナイト」「リベリオン」
2021年03月17日(水)
小川晴央「サクラの降る町」読了。高校二年の夏。ある事件を境に環木ヒヨリと疎遠になっていた神屋敷ツバサのもとに現れたのは転校生の紫々吹ルカ。ルカは空から花びらが降る不思議な現象・アマザクラの謎を探るためにツバサに接近する。この出会いが少女たちの胸に秘めた想いを解き明かしていく。
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第10回京都アニメーション大賞KAエスマ文庫特別賞受賞のファンタジーミステリ長編。基本的な物語の中心となるのは二人の少女・ヒヨリとツバサの微妙な関係であり、読者は「二人に昔何があったのか?」と「空から花びらが降る不思議な現象の正体」という二つの謎を追うことになる。
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本作が巧いのは転校生のルカというキャラを用意した点であり、彼女の目的が不明な序盤では倒叙物にも似た展開で読者の興味を惹きつつ、徐々に彼女の目的を明かすことで謎を解かなければいけない必然性と、縺れた二人の関係を解きほぐすきっかけを同時に与えることに成功している。
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そして真相解明の手順もまた実に周到であり、唐突に明かされる意外な事実からヒヨリの深層心理に迫っていき、そこから物語の中に巧みに隠されていた盲点とも言える真相に繋げて、読者をあっと驚かせてくれる。
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もっとも真相が全て明かされるわけではない点は賛否分かれるところだが、それを差し引いても瑞々しい筆致で紡がれる少女たちの隠された想いは一読の価値がある青春ミステリの佳作である。
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2021年03月19日(金)
竹町「スパイ教室 短編集01 花嫁ロワイヤル」読了。僕は『灯』の誰かと結婚している――少女たちによるスパイチーム『灯』の創設者・クラウスから告げられた衝撃の一言。そして婚約者は謎のまま『灯』メンバーで花嫁を巡る戦いが勃発する表題作ほか、本編では語られない少女たちの日常を描いた四編収録。
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「スパイ教室」シリーズ初の短編集。先に雑誌にて発表された四編に書き下ろしの表題作を加えることで連作としても読めるようにした本作のコンセプトは作者曰く「スパイ教室・ラブコメ篇その①」とのことだが、そう言いつつも全編このシリーズらしいバトルと騙し合いをきっちり盛り込んでいるのは流石。
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とはいえ、その騙し合いのレベルに関しては本編と比べるとやや物足りなさはあるものの、グレーテはさておき本編で影の薄い印象のあるジビア、サラ、モニカに焦点が当てられた内容になっているのは○。短編集らしく、いい意味でいつもより肩の力を抜いて楽しめる作品である。
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北山猛邦「天の川の舟乗り 名探偵音野順の事件簿」読了。髪が伸びる人形と奇妙な依頼人、怪盗の予告状に端を発する空飛ぶ舟と密室殺人の謎、古城の財宝を巡り暗躍する怪人と人間消失、怪獣に襲われたとしか思えない死体……四つの難事件を世界一気弱な名探偵・音野順がいやいやながらも解決する。
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2009年に刊行された「密室から黒猫を取り出す方法」以来、約12年ぶり(!)の名探偵音野順シリーズ三作目。今回は表題作の中編と三つの短編が収録されているが読んだ印象では後半二編「怪人対音野要」と「マッシー再び」の方が出来がいいように感じた。
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特に「怪人対音野要」はタイトル通り音野順の兄で指揮者の音野要が怪人の起こした古城の不可能犯罪に挑む話で前回彼が登場した某短編も傑作だったがこれもなかなかの逸品。盲点とも言える人間消失トリックと財宝に纏わる真相を巧く絡め、更に怪人さながらの鮮やかな退場と実にセンス良く決まっている。
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また怪獣に襲われたとしか思えない死体の謎を扱った書き下ろしの「マッシー再び」は表題作の後日談的な内容で、シンプルながら大掛かりな作者らしいトリックもさることながら音野順の探偵としての姿勢を優しくフォローしているのが○。最後の一行といい、音野順シリーズ復活に相応しい一編である。
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2021年03月23日(火)
「超擬態人間」観了。ドグラ・マグラのような展開で始まったかと思ったら、いつしかトビー・フーパーを経てルチオ・フルチ的カオスでパワフルな殺戮劇へと雪崩れ込む怪作ホラー。このB級ごった煮感は最近観た「死霊の罠」にも通じるものがあり、令和の時代にこういう作品が出たことを素直に喜びたい。
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小川晴央「君の色に耳をすまして」読了。芸大に通う杉野誠一は声を聞くとその人の感情が色として見えてしまうことに悩まされていた。ある時、彼は声を失った女の子・川澄真冬と出会う。声の色を気にせず話せる彼女に惹かれ、生まれて初めて心の色を知りたいと願う誠一。だが彼女には秘密があって――。
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声の色が見える僕が映像課題の制作を通じて知り合った声を失った彼女の秘密に迫るボーイミーツガールミステリ。といってもミステリらしい展開になるのはだいぶ後の話であり、そこに辿り着くまでが長いと感じる人も中にはいるかもしれない。
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しかしながら最後まで読むと、それまでの積み重ねが彼女の秘密に纏わるサプライズを演出するのに必要不可欠であることが分かるだろう。そして何よりも特筆すべきは彼女の秘密に絡めたホワイであり、それが明かされた時の切実さは何とも言えないものがある。
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惜しむらくは伏線がやや足りていないと感じる部分が幾つか散見される点だが、それを差し引いても、この真相があることでボーイミーツガール物として鮮烈な印象を残す良作である。
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2021年03月24日(水)
辻真先「二十面相 暁に死す」読了。敗戦の翌年、焼跡にも徐々に活気が戻り始めた昭和21年春。二十面相の暗躍はやむことがなく、遂には明智探偵と小林少年の偽者まで現れたという。神出鬼没の二十面相を、明智は追い詰めることができるのか? そして「小林少年の偽者」の正体は……?
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posted at 20:32:45
「焼跡の二十面相」に続く辻真先版「怪人二十面相」第二弾。前作が戦後間もなくという設定ならではの捻りが面白かった「怪人二十面相」だったのに対し、本作は定番の「怪人二十面相」の延長線上の作品であり、前作のような意外性のある面白さを期待するとやや物足りなさを覚えるかもしれない。
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posted at 20:33:07
とはいえ定番だからこその面白さがあるのもまた事実であり、特に終盤に起こる殺人事件を巡る二転三転する推理と宿敵同士のコラボはなかなか熱いものがある。その一方で小林少年の恋の行方など冒険活劇部分以外にも読みどころが用意されており前作の後日談としては申し分ない内容と言っていいだろう。
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紅玉ふくろう「チヨダク王国ジャッジメント 姉と俺とで異世界最高裁判所」読了。ゲーム好きの高校生アクトがある日裁判官をしている姉のツカサと共に召喚された異世界は日本の文化を模倣する“チヨダク王国”だった。二人はそこで女王からかつて世界を救った勇者が起こした焼殺事件の裁判を依頼される。
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posted at 20:35:39
第16回MF文庫Jライトノベル新人賞《最優秀賞》受賞作。ファンタジー世界で裁判をやる話はこれまでにも幾つかあったが、本作の場合あくまで日本の法律に則った裁判を行う点が新鮮であり、それを実現させるために用意された“チヨダク王国”というかなり強引な異世界の日本化設定がまず面白い。
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posted at 20:35:57
しかも裁判中に実際に日本で起こった事件を引き合いに出したり、日本の負の部分をあえて取り入れることで社会派的要素を事件の背景に活かしている点もかなり異色と言っていいだろう。またメインの勇者が起こした焼殺事件に行く前に一度民事事件を通して裁判の流れを読者に理解させる親切設計も○。
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posted at 20:36:13
惜しむらくは作中で逆転裁判らしきゲームが挙がるにも拘わらず作者がミステリとして描くつもりがないのかせっかくの真相が推理することなくただの説明で終わってしまっている点だが、そこさえ割り切れば実際裁判所の仕事に携わっているという作者の経験が活かされた異色の裁判劇が楽しめる作品である。
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2021年03月25日(木)
森晶麿「前夜」読了。山奥の密室状態の別荘で若き映画スター、比留間稔流が殺された。稔流は弟の真斗に自分たち兄弟は〈蛭鬼〉と呼ばれる吸血鬼の血統なのだと言っていた。稔流はかりそめの死の一年後に復活するはずだと真斗は信じた。犯人は誰なのか? そして兄弟は〈蛭鬼〉の血統なのか?
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posted at 22:27:25
兄を失った元難病持ちの弟が、兄と同じ俳優としての道を歩みながら吸血鬼伝説と密室殺人の謎に迫っていく長編ミステリ。本作をミステリとしてみた場合、まず驚かされるのは国内作家のKを思わせるバカミスすれすれのある仕掛けであり、読者の想定とは全く違うところにさらりと仕込んでみせた点がいい。
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posted at 22:27:41
加えて主人公を取り巻く設定や展開を駆使することで現実と虚構の境界線を曖昧にしてラストに明かされるもう一つの外連味ある趣向を効果的に演出してみせた点も秀逸だし、一見すると素っ気なく思える前夜というタイトルに実は様々な意味が込められていることが読了後に分かる点も○。
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尤も細かいところを見れば一部特に入れる必要もなかったのではないかと思われる要素や御都合主義に感じる部分が気になるものの、それらを差し引いても全編を通して作者の本作に対する並々ならぬ意気込みが充分伝わってくる力作である。
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2021年03月28日(日)
「シン・エヴァンゲリオン劇場版:||」観了。これまで様々なメディアで展開されたエヴァという一大プロジェクトに全て終止符を打ったといっても過言ではない正に「さらば、全てのエヴァンゲリオン」という言葉通りの内容であり、エヴァという業に取り憑かれた人間ほど痛烈に響くメッセージ映画だった。
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人によって受け取るメッセージは様々だと思うが個人的には観終わって「ありがとう」と言いたくなる位にはエヴァの影響を受けていた自分に改めて気付かされた。今思えばQの戸惑いの渦に叩き込む展開はこの浄化作用に繋げるために必要だったような気がする。あとサクラちゃんが可愛かった(ここ重要)。
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posted at 14:51:04