麻里邑圭人
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- 現在地 涅槃
- 自己紹介 ミステリ初心者。非実在探偵小説研究会所属。 【好きな作家】飛鳥部勝則/梶龍雄/殊能将之/早坂吝/麻耶雄嵩 【好きな作品】「カルロッツァの翼」「殉教カテリナ車輪」「竹馬男の犯罪」「翼ある闇」「魍魎の匣」 【好きな映画】「キルビルVol.1」「サスペリア」「サンタ・サングレ/聖なる血」「ダークナイト」「リベリオン」
2021年03月01日(月)
浅倉秋成「六人の嘘つきな大学生」読了。IT企業「スピラリンクス」新卒採用の最終選考に残った六人の就活生。親交を深めたのも束の間、一通のメールを機に仲間だった筈の六人は一転、一つの席を奪い合うライバルになった。だが内定を賭けた議論が進む中、六人分の告発文が発見されて事態は一変する。
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posted at 22:06:51
六人の就活生が新卒採用の最終選考の場で告発文の犯人探しと内定を賭けたディスカッションを同時に行うことになる長編ミステリ。本作の粗筋と表紙からどことなく石持浅海っぽいと思うミステリ読みは少なからずいると思われるが、個人的観点から言えばその印象は半分正しい。
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posted at 22:08:58
本作の前半部は事件が起こった過去と、「犯人」の死後に何者かが関係者たちから事件の話を聞く現代パートの二つで構成されているが、事件の進行と連動して現代パートで「犯人」ではない生き残っている関係者が一人ずつ明かされていく展開は実にスリリングかつ意外性に満ちている。
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posted at 22:10:40
そして、その構成の中に巧みに隠された伏線から導かれるロジックは思いの外シンプルながら意表を突いたものになっており、犯人の正体と共に明かされる動機からは紛れもなく「教室が、ひとりになるまで」の作者らしさが感じられるだろう。……だが、本作の真骨頂は実はここからなのだ。
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posted at 22:11:12
正直ここで終わっても充分ミステリとしては良くできているのだが、作者はそれでよしとせず一見蛇足とも思える部分を描くことで本作を見事に傑作へと押し上げてみせる。しかもそこには作者の異名である「伏線の狙撃手」ならではの物語としての伏線の巧さが遺憾なく発揮されているのだから堪らない。
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posted at 22:11:42
2021年03月10日(水)
田村由美「ミステリと言う勿れ」8巻。今回のメインは美術館に突如押し入ってきた男たちと整が命がけの駆け引きをしつつ彼らが探している物を探し当てる話で、個人的には事件の真相よりもある人物が倒れた理由とライカに隠された秘密の方が衝撃的だった。新章も気になる引きで、次の巻が待ち遠しい。
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駿馬京「インフルエンス・インシデント Case:01 男の娘配信者・神村まゆの場合」読了。人気女装配信者「神村まゆ」こと男子高校生・中村真雪はある日SNSを悪用したストーカー被害に遭ってしまう。そこに手を差し伸べたのは優秀だがエキセントリックな大学教授・白鷺玲華と助手の姉崎ひまりだった。
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posted at 22:55:12
第27回電撃小説大賞《銀賞》受賞作。女教授と女子大生のコンビが女装男子インフルエンサーからストーカーの相談を受けたのを機にネット絡みの事件に立ち向かう本作は一応ミステリーと銘打たれてはいるものの、ネットを使った他のミステリ作品と比較して読むと、どうにも型通りの印象が否めない。
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とはいえ終盤で起こる事件の真相は近年のネット事情を巧く反映させたものになっており、加えて助手の過去を描いてからの活躍も物語の盛り上げに一役買っていて○。但し続編を想定した黒幕の存在が却って結末をチープなものにしてしまっているのが難で個人的にはその辺をもう少し何とかしてほしかった。
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2021年03月11日(木)
中村あき「チェス喫茶フィアンケットの迷局集」読了。チェス喫茶店「フィアンケット」では卓越した推理力を持つ柚子子のクラスメイト・世野くんが店長代理として働いていた。ある事情から店を手伝うことになった柚子子は日常の様々な謎を鮮やかに解き明かす世野くんの姿を目の当たりにすることになる。
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第3回双葉文庫ルーキー大賞受賞作にして作者初の連作ミステリ。作者がこれまで手掛けた女子高生探偵・鋸りり子シリーズ三作と比較するとだいぶライトなノリながらその物語とミステリとしての完成度は現時点の作者のベストと言っても過言ではなくそういう意味では再デビューに相応しいと言えるだろう。
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収録された五編はいずれもよく練られていて第一話はチェスの知識を活かした謎の見せ方と極めて俗物的な動機のギャップ感が○。また第二話、第三話は仕掛けこそ分かりやすいものの、そこから更に踏み込んで、さりげない伏線の巧さと共に隠されていた登場人物の心情を鮮やかに描き出してみせる点がいい。
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そして第四話は収録作の中で最も企みに満ちた一編で、軽いノリの話と思って読んでいると思わぬところからくるサプライズにあっと言わせられるところもさることながら、実はそれまで積み重ねてきたキャラ描写がそのサプライズに一役買っている点にも大いに唸らされることだろう。
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posted at 19:12:11
その第四話の結末を踏まえた第五話では一転して熱いチェス小説として読ませつつも仕掛けは抜かりなく、更に連作ならではのオチもつくという至れり尽くせりな内容となっている。作者のこれまでの作品を知っていると最初は戸惑うかもしれないが読み終わると作者の入門編として推したくなる佳作である。
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posted at 19:12:24
2021年03月12日(金)
似鳥鶏「卒業したら教室で」読了。柳瀬さんの卒業を間近に控えた三月のある夜、秋野麻衣が真っ暗なCAI室で鍵をかけ、誰かが電源も入れずパソコンで何かしていたのを目撃する。どうやら校内八番目の七不思議、神出鬼没の「兼坂(んねさか)さん」と判明し、葉山君たちは真相解明に奔走するが……。
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2016年の「家庭用事件」以来、久々の市立高校シリーズ七作目。今回はいつもの日常の謎に葉山君たちが挑む話だけでなく、彼らが12年後の未来(!)に作者がモデルらしい謎の作家が書いた異世界本格ミステリの習作を読むことになる話が平行して進むというかなり奇を衒った構成となっている。
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そして結論から言えばその試みは半分成功しており、なぜわざわざ12年後という未来の話を用意したかについては、メインの事件の真相に捻りを入れつつ青春ミステリならではのエモさを際立たせていて○。
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今村昌弘「ネメシス1」読了。お人好し探偵の風真、自由奔放な助手アンナ、ダンディな社長の栗田の三人が所属する探偵事務所ネメシスに大富豪の邸宅に届いた脅迫状の調査依頼が舞い込む。現地を訪れた風真とアンナが目にしたのは謎の暗号と密室殺人、そして無駄に長いダイイングメッセージだった。
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四月から始まる同名の本格ミステリドラマを脚本協力した作家たちによって小説化するシリーズの一作目。全二話構成であらすじにある大富豪殺人事件が第一話、遊園地で起こる爆弾脅迫事件が第二話となっており、ミステリとして評価するなら個人的には第一話を推したい。
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posted at 19:13:47
第一話は暗号に密室殺人、ダイイングメッセージと色々な趣向を取り入れつつも、それらを有機的に繋げた犯人当てになっている点が○で、特に無駄に長いダイイングメッセージが、ある意味暗号以上に凝っているのが面白い。
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posted at 19:14:05
一方、第二話は第一話の作り込みに比べると微妙な出来で、メタ的に犯人が分かりやすい点もさることながら何よりある内輪ネタがかなり寒いのが難。とはいえ二編とも本格ミステリに求められる一定のクオリティーは保っていると思う。
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posted at 19:14:24
一方失敗している部分、異世界ミステリの習作はこの枚数でやるには明らかに足りていないものが多く、本当に習作を読まされている気分になるだろう。もっともメインの事件そのものは良くできていて、この設定を活かしたかなり綱渡りな真相とそれを隠し通した技巧が実に秀逸。
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2021年03月14日(日)
「ビバリウム」観了。一組のカップルが案内された住宅地から出ることができなくなり、解放の条件として謎の赤ん坊を育てることになる不条理ホラー。設定説明の序盤は面白いがそれだけで終わってしまっている感が否めず中盤でだれて以降、特に捻りもないまま予想通りの結末で終わってしまったのが残念。
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2021年03月15日(月)
菊石まれほ「ユア・フォルマ 電索官エチカと機械仕掛けの相棒」読了。電索能力が釣り合わない同僚の脳を焼き切っては病院送りにしていた電索官エチカの新しい相棒ハロルドはヒト型ロボット〈アミクス〉だった。アミクスを嫌うエチカと構わず距離を詰めるハロルドのコンビが世界を襲う電子犯罪に挑む。
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posted at 20:22:32
第27回電撃小説大賞《大賞》受賞作。本作は攻殻機動隊などでお馴染みのSF設定と、ロボット嫌いで人付き合いが苦手な天才女性捜査官とやたらと観察力が鋭くコミュニケーション能力に長けたヒト型ロボットの相棒がコンビを組むというシチュエーションが好きな人には堪らないものがあるだろう。
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posted at 20:22:45
だがその反面、物語や事件の真相はどこまでいっても定番の粋を出ないため意外性や斬新さを求めると物足りなさを覚えるかもしれない(個人的にはあまりにもトントン拍子で進む捜査とエチカの天才感が読んでいてピンとこないのも気になったが)とはいえ最初から割り切って読む分には楽しめる作品である。
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2021年03月16日(火)
小川晴央「やり残した、さよならの宿題」読了。小学生の青斗は両親の離婚によって大好きな町を離れることになった鈴のために最高の夏休みをプレゼントしようとする。そんな時、偶然知り合った不思議な女性・一花は時折魔法としか思えないことをして彼らを驚かす。一方、町では謎の不審火が続発して――。
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海沿いの田舎町を舞台にしたジュブナイル・ミステリ。引っ越しが決まっている少女のために主人公の少年が最高の夏休みをプレゼントしようとするという甘酸っぱさと懐かしさが同居したような物語もさることながら、さりげなく散りばめられた謎の数々が読者の興味を否応なしに惹き付けてくれるだろう。
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posted at 20:37:39
そうして物語が進むにつれ高まっていく不穏な空気は唐突に明かされるある意外な事実によって最高潮を迎えることになるが、本作の真骨頂はむしろここからであり、そこから怒涛の如く回収されていく伏線と切実な真相、そしてタイトルに隠された意味には恐らく多くの読者が深く胸を打たれるに違いない。
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posted at 20:38:01
加えて最後に用意されたオチもまたジュブナイル・ミステリらしいものになっているのがいい。惜しむらくはカバー裏の内容紹介や帯の煽り文句がネタバレに触れている点だが、これに関しては恐らくレーベルが本作をミステリだと認識していないからだと思われる。
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posted at 20:38:18
しかしながら本作がジュブナイル・ミステリの傑作であるのは紛れもない事実であり、願わくは本作に興味を持った方はぜひとも余計な前知識なしに読んでもらいたい次第である。
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posted at 20:38:33