麻里邑圭人
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- 現在地 涅槃
- 自己紹介 ミステリ初心者。非実在探偵小説研究会所属。 【好きな作家】飛鳥部勝則/梶龍雄/殊能将之/早坂吝/麻耶雄嵩 【好きな作品】「カルロッツァの翼」「殉教カテリナ車輪」「竹馬男の犯罪」「翼ある闇」「魍魎の匣」 【好きな映画】「キルビルVol.1」「サスペリア」「サンタ・サングレ/聖なる血」「ダークナイト」「リベリオン」
2022年12月07日(水)
鴨崎暖炉「密室狂乱時代の殺人 絶海の孤島と七つのトリック」読了。日本有数の富豪にしてミステリーマニアが開催する孤島での『密室トリックゲーム』に招待された高校生の葛白香澄は変人揃いの参加者達と共に本物の連続密室殺人に巻き込まれてしまう。果たして彼らは生きて島を出ることができるのか?
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posted at 18:51:18
「密室黄金時代の殺人 雪の館と六つのトリック」の続編。正直いうと前作は光るところもなくはないが総じて質より量の印象が否めなかったため、前作に比べて密室トリックが増えたと言われても期待より不安の方が勝っていたのだけれど……結論からいうと、それは杞憂に過ぎなかった。
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posted at 18:53:36
勿論七つも密室トリックがあれば中には微妙なものもあるけれど今回は物理の北山に勝るとも劣らない思わず笑ってしまうような大掛かりなものも多く、かなり好印象。しかもただ詰め込んだだけではなくトリックの順番も考えられており、それにより次に使われるトリックに説得力が与えられているのがいい。
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posted at 18:53:56
加えて今回はロジックや仕掛けに関してもだいぶ力が入れられており、ある隠された趣向を犯人特定のロジックと絡めた点もさることながら何より作中にさりげなく挿入された某シーンを七つ目の密室トリックの解明と大胆に結び付けて意外な犯人を演出してみせた点が実に秀逸。
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posted at 18:54:14
更に最後に明かされる仕掛けでは発想の面白さだけでなく、きちんと未回収の謎の補完として機能している点も○。総じて前作よりも遥かに質が向上した、バカミス愛に満ちた秀作である。
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posted at 18:54:30
2022年12月08日(木)
平石貴樹「笑ってジグソー、殺してパズル」読了。ジグソーパズル連盟日本支部長で三興グループのオーナーでもある興津華子の死を皮切りに富豪興津家で三度惨劇が起こる。現場にはなぜか必ずジグソーパズルがばらまかれていた。若き法務省特別調査官・更科丹希が動機に囚われない論理的思考で謎を解く。
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posted at 17:45:39
作者の看板探偵の一人・更科丹希こと更科ニッキ初登場の長編ミステリ。まず冒頭で作者は本作のことをジグソーパズル小説と称し「第3章の結末まででこの犯人捜しのジグソーパズルは一とおり完成される運びとなる」と語っているが、これは言うなれば本作が純粋パズラーであるという宣言に他ならない。
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posted at 17:46:22
故に読者は第3章の結末の時点で探偵役の更科ニッキ同様真相に気付いていてしかるべきであると作者に挑発されているわけだが如何せん本作はパズラーとしてみるとかなりの曲者であり、特に連続殺人であるという事実を逆手に取って本質を見誤らせる事件の構図が意地が悪いくらいに良くできている。
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posted at 17:46:42
それでいて動機に囚われない論理的思考によって犯人を突き止めつつも決して動機をないがしろにしているわけではなく、それどころかジグソーパズルを効果的に使うことで動機に纏わるある人物の心の闇をまざまざと印象付ける技巧が実に秀逸。
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posted at 17:47:00
加えてなぜ犯人が毎回現場にジグソーパズルをばらまくのかという謎がシンプルながらも良く練られており前述した事件の構図と相俟ってミステリ好きであるほど罠にハマりやすいのではないだろうか。尤も警察の捜査のみで進む構成はやや単調かもしれないがパズラー好きならばぜひ挑んでほしい傑作である。
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2022年12月09日(金)
岬鷺宮「あした、裸足でこい。2」読了。未来での二斗の失踪を止めるため過去へ遡って高校生となった俺は二斗の親友・五十嵐萌寧が二斗への依存をやめるべく始めた夢探しを手伝うことに。一方、二斗は順調にアーティストの道を駆け上がっていたが、それは未来で起きたある事件が近い前兆でもあった。
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posted at 21:35:42
元恋人の失踪を止めるため高校時代へとタイムリープするシリーズの二作目。主人公のタイムリープの法則もだいぶご都合主義だが、そこへ更に某キャラのタイムループ設定も加わってきて正直困惑感は否めない。作者的には厳密にSFをやる気はないにせよ、それに関するフォローは後でしてほしい気がする。
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posted at 21:35:56
とはいえ今回のメインである親友間の問題に前述したループ設定を多少なりとも活かしてきた点は悪くないし、何より今回作者が描こうとした熱くて美しいだけではない青春の一端は垣間見えたように思う。
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posted at 21:36:15
2022年12月10日(土)
「MEN 同じ顔の男たち」観了。夫の死を目撃した女が心の傷を癒すためにやってきた田舎町で遭遇する恐怖。序盤の静かな展開からは想像もつかない不気味ながらもシュールな笑いの連続と終盤の血みどろの悪夢は必見。但し考えるな感じろタイプの物語は賛否が分かれるかもしれない。あと何気に音楽も○。
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2022年12月12日(月)
青崎有吾「11文字の檻 青崎有吾短編集成」読了。JR福知山線脱線事故に遭遇したカメラマンが覚えた違和感を描く「加速していく」、全面ガラス張りの屋敷で起きた不可能殺人の顛末「噤ヶ森の硝子屋敷」、人気コミックのノベライズ「前髪は空を向いている」などに書き下ろしの表題作を加えた全八編収録。
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posted at 20:33:56
これまで作者が発表したノンシリーズ物の短編及び掌編のみを収録した作品集。中には某人気コミックの二次創作もあるごった煮的内容で、一応ミステリも幾つか収録されてはいるものの、どちらかというとミステリ部分よりも小説家としての作者の引き出しの多さを楽しむのが吉だろう。
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posted at 20:34:45
とはいえミステリとしての読みどころが全くないわけではなく例えば「加速していく」はミステリとしての気付きが事故の衝撃性と相俟って米澤穂信にも似た青春の苦さを引き立てることに成功しているし「噤ヶ森の硝子屋敷」はこの作者らしい唖然とするような大胆な発想で楽しませてくれる。
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posted at 20:35:16
また「your name」は掌編ながらも活字あるあるネタを巧く使ったどんでん返しがいい。だが何よりも本作のトリを飾る、奇妙な刑務所に囚われた男たちのコンゲームを描いた書き下ろしの表題作が、ミステリ作家としては勿論、小説家としても作者の今後の可能性を大いに感じさせてくれることだろう。
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posted at 20:35:37
2022年12月13日(火)
高野和明「踏切の幽霊」読了。1994年冬。東京・下北沢の三号踏切で撮影された一枚の心霊写真。同じ踏切では列車の非常停止が相次いでいた。雑誌記者の松田が調べるとそこでは一年前に身元不明の若い女性が殺されていた。彼が被害者について調査を続けるにつれて幽霊事件はやがて思わぬ真実に辿り着く。
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posted at 20:07:51
前作「ジェノサイド」から11年ぶりの新作は踏切に現れる女の幽霊を巡る長編ホラーミステリ。作者は過去にも幽霊を題材にした小説を書いているが今回はとりわけミステリ色が強く主人公が調査を進めるにつれてそれまで何気なく描かれてきた様々な出来事とみるみる繋がっていく醍醐味は正にそれだろう。
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posted at 20:08:05
その一方でホラーとしての見せ方がまた絶妙で、幽霊として真っ当に(?)事件関係者を怯えさせたかと思えば、ここぞというタイミングで主人公に怪異という形で事件の手掛かりを与えたりと物語における適度なアクセントになっているのがいい。
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posted at 20:08:28
それでいてこの作者らしい泣かせの演出も抜かりなく、幽霊となった女に纏わる一部の謎や小道具は勿論のこと、主人公の亡くなった妻のエピソードまで物語と巧く絡めて読者の涙腺を全力で緩ませようとしてくるのがあざといながらも実に秀逸。目新しさこそないが、ツボをついた王道エンタメの秀作である。
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2022年12月14日(水)
鵺野莉紗「君の教室が永遠の眠りにつくまで」読了。小学六年生の葵と同級生でいじめにあっていた紫子は無二の親友だったがある事情により仲違いしてしまう。やがて紫子が転校して間もなく町の住人の失踪事件が続発。更に新しい担任の狭間百合が葵に「あなたの秘密も過ちも知っている」と告げてきて――。
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posted at 23:12:01
第42回横溝正史ミステリ&ホラー大賞〈優秀賞〉受賞作。三部構成の本作で特筆すべきはやはり第一部であり仲良しだった二人の少女の関係が拗れて取り返しのつかない事態になっていく過程で読ませるのもさることながらそれ以上に第一部の最後に明かされるある意外な事実には誰もがあっと驚くに違いない。
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posted at 23:12:16
但しピークはそこまでで第二部以降の展開に関してはバレバレの書き方のせいでミステリとしてみると大部分がただの確認作業になってしまっているのが難。一応確認作業ではない部分もなくはないが正直大差ないとしか言いようがなく更に設定的にも気になる点が読めば読むほど増えていくのがかなり厳しい。
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posted at 23:13:00
細かいところを気にしなければそれなりに楽しめるかもしれないが、そこを差し引いても第一部を超える驚きや盛り上がりが用意できなかったのがつくづく残念な作品である。
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2022年12月16日(金)
ロビン・スティーヴンス/ シヴォーン・ダウド原案 「グッゲンハイムの謎」読了。母と姉と一緒にグロリアおばさんといとこのサリムが住むニューヨークを訪れた12歳のテッド。おばさんが主任学芸員を務めるグッゲンハイム美術館へ赴いたのも束の間、火事騒動と共に名画が盗まれ、おばさんに嫌疑が……。
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前作「ロンドン・アイの謎」に続き自閉スペクトラム症の少年テッドが謎を解き明かすジュブナイルミステリ。前作が衆人環視からの人間消失がメインだったのに対し今回は美術館から名画を盗んだ犯人捜しが物語の主軸となっており誰に犯行が可能だったかの検証は地味ながら相変わらず丁寧で好感が持てる。
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posted at 23:50:22
ミステリとしてみると前作よりも謎の難易度は上がっており、犯行が可能だった人物=犯人というシンプルな構造ながらも巧く捻りを入れて(とはいえ似たような前例がなくはないが)、おいそれと犯人に辿りつけないように工夫が凝らされているのは○。
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また警察に逮捕されてしまったおばさんを一刻も早く助けなければいけないというタイムリミットサスペンスが物語のアクセントになっているのもいい。そして何より亡き作者に代わり別の人間が執筆しているにも拘わらず全く違和感のない物語が秀逸で前作が好きだった人こそ是非読んでほしい良作である。
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posted at 23:51:40