麻里邑圭人
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- 現在地 涅槃
- 自己紹介 ミステリ初心者。非実在探偵小説研究会所属。 【好きな作家】飛鳥部勝則/梶龍雄/殊能将之/早坂吝/麻耶雄嵩 【好きな作品】「カルロッツァの翼」「殉教カテリナ車輪」「竹馬男の犯罪」「翼ある闇」「魍魎の匣」 【好きな映画】「キルビルVol.1」「サスペリア」「サンタ・サングレ/聖なる血」「ダークナイト」「リベリオン」
2011年02月13日(日)
多岐川恭「濡れた心」読了。あたしはあなたをそっと見ているだけ。それだけで世界は美しい――出会った瞬間から惹かれ合い結ばれた二人の少女、典子と寿利。だが、典子の方は同性との愛に強く惹かれながらも一方で荒々しい男の魅力にも抗えずにいる。……そして遂に、事件は起こった。
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posted at 22:07:05
本作は女子高生の同性愛に端を発した殺人事件の顛末を登場人物の日記や手記、メモを通じて描いた異色作である。事件が起こるまで多少ベージ数を要するが、読み進むにつれて徐々に緊張感が高まっていく雰囲気作りはかなり巧みだ。
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posted at 22:08:49
ミステリとしては残念ながら明らかに浮いている伏線のおかげで途中で真相が読めてしまうという欠点はあるものの、個人的にはむしろ二人の少女の胸の鼓動が伝わってくるような心理描写に注目して読んでもらいたいと思う。
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posted at 22:09:55
2011年02月16日(水)
真梨幸子「えんじ色心中」読了。今から16年前、名門中学に入学したのを境に人が変わったように暴力を振るうようになった息子を父親が殺害する事件があった。その事件は「西池袋事件」と呼ばれ家庭内暴力の果てに起こった悲劇の一つとして幕引きされる筈だった。だが判決後事件は思わぬ展開を見せる。
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posted at 22:13:20
……という粗筋に惹かれて本作を読み始めた人はまず違和感を覚えるに違いない。何故なら登場人物の誰一人として「西池袋事件」に興味を示さないからだ。語られるのは事件とはあまり関係がなさそうなフリーターの鬱屈とした毎日。そして物語の合間に挿入される「西池袋事件」に纏わる記事。
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posted at 22:15:48
これは果たしてミステリなのか、ただの社会の底辺を描いた鬱小説なんじゃないだろうかと不安になる読者もいるかもしれないがそこは心配無用、ちゃんと作者は事件と物語を繋ぐ意外な接点を用意している。しかしながら個人的には1章のラストが本作のピークだったような気がしてならない。
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posted at 22:17:19
帯にある「――君のこと忘れたこと、なかったよ、これから先も、百歳になっても」という言葉が全てを象徴する本作は、ミステリというより現代の心中物語としてお勧めしたいと思う。
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2011年02月18日(金)
東川篤哉「放課後はミステリーとともに」読了。本作は東川ファンにはお馴染みの「鯉ヶ窪学園」に通う高校生で探偵部副部長の霧ヶ峰涼が巻き込まれた八つの事件を収録した連作短編集である。タイトルから、ゆるい学園ミステリかと思ったら大間違い。
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posted at 00:12:05
その内容はといえば人間消失に密室、足跡なき犯行と不可能犯罪目白押しであり、前作「謎解きはディナーのあとで」よりも本作の方がずっとミステリ度は高い。しかも最初の短編「霧ヶ峰涼の屈辱」から作者がありとあらゆる手を駆使して読者を騙そうとしているのが伝わってきてかなり好印象。
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posted at 00:13:14
ベストは「霧ヶ峰涼の放課後」だが、「霧ヶ峰涼の屋上密室」や「霧ヶ峰涼の屈辱」も個人的には捨て難い。というか収録作はどれもお勧めできる安心の出来と言っていいだろう。「謎解きはディナーのあとで」が物足りなかった自分のような読者も本作なら満足いくのではないだろうか。
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2011年02月19日(土)
道尾秀介「カササギたちの四季」読了。直木賞受賞後第一作である本作は、作者久々のミステリ連作集。「リサイクルショップ・カササギ」で働く僕が日常で遭遇した「ブロンズ像放火未遂事件」「神木損壊事件」「マルちゃんヤケ食い事件」などの四つの事件が収録されている。
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posted at 18:45:59
本作は基本、推理癖のある店長の華沙々木が推理を披露した後に、僕がこっそり真相を突き止めてそのフォローをするという流れで進行するが、面白いのは華沙々木の推理が成立するように僕が毎回根回ししている点だ。
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posted at 18:46:35
この関係について、自分は国内作家の某作を思い出したけれど、本作はその某作のように僕の性格が黒いということはないのでご安心を(?)。まあ時には華沙々木の推理の方が真相よりも面白かったりすることがままあるが、そこはご愛嬌ということでw
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posted at 18:48:01
個人的なベストは「マルちゃんヤケ食い事件」もとい、奇妙な猫の盗難事件を扱った「南の絆」。でも、この話も自分としてはバカミス的な華沙々木の推理の方が好みだったりする(爆)。
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posted at 18:49:12
2011年02月20日(日)
飯野文彦「蒼きリバイバー」読了。私立黎華学園に通う蓮実沙織が二週間の病欠の後に復学すると学園は以前とは違う異様な雰囲気に包まれていた。教師の吹く「謎のホイッスル」に操られる生徒たち。そこへ謎の美少年が転校してきたのを機に、沙織は人知を超えた魔物たちのバトルに巻き込まれていく。
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posted at 16:48:51
徹頭徹尾、王道の伝奇アクション物。故に物語にはすんなり入りやすい反面、作者の個性があまり感じられないのが難点か。個人的にはもう少しエログロ描写が過激だったら良かったのだけど、連載誌が学研の高校生向け雑誌だったことを考えると、それも無理な話か……。
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posted at 16:57:32
2011年02月22日(火)
蘇部健一「木乃伊男」読了。信州の山奥にある病院に入院したぼくの隣のベッドには全身を包帯でぐるぐる巻きにしたミイラ男がいた。ある日ぼくは、ミイラ男に鏡の迷路で不可解な死を遂げた兄のことを話して聞かせる。すると驚いたことにミイラ男はその謎をあっさりと解き明かしてみせたのだった。
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posted at 06:26:09
「絵で犯人が分かる全く新しいタイプの推理小説」と内容紹介にある通り、本作には多数の絵が使われているが、その試みはある程度成功していると思う。特に印象的だったのは鏡の迷宮のトリックとラストで、前者は某傑作ミステリ映画の仕掛けを彷彿とさせる。
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posted at 06:27:55
2011年02月26日(土)
小林泰三「人造救世主 ギニー・ピッグス」読了。謎の組織「MESSIAH」と敵対するヴォルフを暗殺するため、次々と送り込まれる歴史上の偉人たちの遺伝子が埋め込まれた残虐非道な超人たち。一方、偶然組織の秘密を知ってしまった女子大生ひとみにも組織の魔の手が迫っていた。
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posted at 11:31:52
「未曾有のダーク・オペラ」第2弾もとい、小林泰三版009第2弾。皮肉たっぷりのオチが全てという印象だった前作に対し、本作はオチというオチはないものの、前作以上に白熱したバトル展開でぐいぐいと読ませる。また、そのバトル一つ取っても作者らしいブラックユーモアが感じられるのは○。
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posted at 11:33:22
静月遠火「真夏の日の夢」読了。演劇の活動費を捻出するため変人として知られる心理学部の教授の奇妙な実験に参加する事になった演劇サークルのメンバーたち。一ヶ月間、建物から一歩も出ないで過ごすというその実験は順調に進んでいたが実験開始から6日目にメンバーの一人が忽然と姿を消してしまう。
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posted at 23:22:34
野崎まどに続く二人目の本格ミステリの書き手、メディアワークス文庫に現る。麻耶雄嵩や西澤保彦が好きだというこの作者の作品を読むのは「パララバ」以来、今回で二作目になるが、正直「パララバ」を読んだ段階では、それほどミステリセンスは感じなかった。
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posted at 23:24:45
それが今回の「真夏の日の夢」では見事に化けたと言っていいだろう。本作は130頁までは退屈な日常描写が続くが、130頁すぎてメンバーの一人が消えて以降は一気に物語が加速する。特に終盤、退屈な日常描写の中に巧みに隠されていた怒涛の伏線回収は正に圧巻の一言。
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posted at 23:25:46
それと共に明らかになる仕掛けの数々と真相からは、はっきりと麻耶や西澤の遺伝子を感じることができて個人的には好印象。今年の本格の思わぬ収穫としてお勧めしたい作品である。
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posted at 23:27:51
2011年02月28日(月)
蘇部健一「動かぬ証拠」読了。完璧に見えた犯行が、ラスト1頁にイラストで示される「動かぬ証拠」によって脆くも崩れ去るという画期的な趣向のミステリ短編集。読んだのは「木乃伊男」の方が先だったが、発表されたのは本作の方が先である。
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posted at 21:11:36
読んだ印象としては脱力ネタ、下ネタを控えめにした敷居の低い(?)「六とん」という感じ。なので真面目な本格ミステリと思って読むと痛い目を見ることになるが、個人的にはそれでこそ蘇部健一だと思っているので無問題(爆)。皮肉に満ちたオチに苦笑してこそ本作の正しい読み方だと思う。
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posted at 21:13:36
ベストは「逆転無罪」。脱力ネタは控えめと言ったけれど、中には「六とん」に収録してもいいのでは? と思うような話もある。そのうちの一つがこの短編だが、オチが分からないという人は諦めず、頑張って考えてみてほしい。オチが分かった瞬間、思わず笑ってしまうこと請け合いである。
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posted at 21:15:35
2011年03月02日(水)
梶龍雄「蝶々、死体にとまれ」読了。大学の学園祭のさなか、女子大生の死体が昆虫同好会の展示室で発見され、密室と化した部屋からは高価な蝶の標本が消えていた。更にこの蝶を巡って次々と起こる怪事件。果たしてこの事件の真相とは。そして作者が語る「動機のトリック」とは何なのか?
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posted at 14:13:06
まず本作について作者はこう語っている。「推理小説では、犯行や罪の隠匿がトリックを作ることが多いが、犯行の動機がトリックを作ることもある……と、こう書いたら、中身を読む前にここを読んだ方には、ヒントの与え過ぎだろうか? それでも読者は見破れまいという自信があるのだが……(後略)」
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posted at 14:14:24
この言葉からも分かる通り、本作のメインは動機にある。それさえ分かってしまえば謎のほぼ九割は解けたも同然と言っていいだろう。しかしながら作者が自信を持つだけあって、この問題を解くことはなかなか容易ではない。我こそはと思う人には是非とも挑戦して頂きたい、ホワイダニット物の秀作である。
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posted at 14:15:56
小林泰三「忌憶」読了。タイトルにある通り「記憶」をテーマにした三編が収録されたホラー連作集。何をやってもうまくいかないダメ男が幼い頃よく見たという奇妙な夢「奇憶」、腹話術の人形に自分の体を乗っ取られた男の奮闘「器憶」、記憶障害になった男がメモしているノートに隠された秘密「危憶」。
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posted at 18:24:09
このうち個人的なベストは「器憶」だが「危憶」のある矛盾点に関して推理する流れがミステリっぽいのも○。「奇憶」はとにかく「ダメだこいつ、早く何とかしないと」と思わせるキャラ描写が秀逸だった。「セピア色の凄惨」を読んだ時も思ったが小林泰三はこの手のキャラを描くのが抜群に上手いと思う。
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posted at 18:25:07
尾崎諒馬「思案せり我が暗号」読了。一言でいえば、暗号に始まり暗号に終わる小説。ここまで暗号にこだわった作家は近年では倉阪鬼一郎くらいだろう。個人的に最も面白かったのは作中作である「ワルツ 思案せり我が暗号」で、これに関しての感想は作者自身が本文P229で的確に言い表している。
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posted at 22:14:48
「//小説の中の私『鹿野信吾』と一緒になって暗号の解読を楽しんでしまうんだ。そうすると最後の『尾崎凌駕』の遺書にハッとさせられるんだよ。//正直言って参ったよ。これが『本格推理小説』かどうかという疑問もあるが、それこそ、新しい『本格推理小説』に対する模索は感じられる//」
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posted at 22:15:42
だが、その一方で本作は欠点も多く、例えば暗号講義から始まる蘊蓄にあそこまでページを割く必要があったのか甚だ疑問ではあるし、最後の試みもお世辞にも成功しているとは言い難い。(ちなみに最後の試みに関しては何となく大谷羊太郎の「殺意の演奏」を思い出した)
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posted at 22:16:33