麻里邑圭人
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- 現在地 涅槃
- 自己紹介 ミステリ初心者。非実在探偵小説研究会所属。 【好きな作家】飛鳥部勝則/梶龍雄/殊能将之/早坂吝/麻耶雄嵩 【好きな作品】「カルロッツァの翼」「殉教カテリナ車輪」「竹馬男の犯罪」「翼ある闇」「魍魎の匣」 【好きな映画】「キルビルVol.1」「サスペリア」「サンタ・サングレ/聖なる血」「ダークナイト」「リベリオン」
2011年02月02日(水)
二階堂黎人編「新・本格推理03 りら荘の相続人」読了。本作に収録された8編のうち、一番の目玉は何と言っても2004年の日本推理作家協会賞短編部門の候補にもなった小貫風樹「とむらい鉄道」だろう。『全国赤字路線安楽死推進委員会会長』を名乗り、次々と赤字路線を爆破していく犯人。
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posted at 18:56:54
その犯人を周到に張り巡らせた罠で探偵がじわじわと追い詰めていく様は実にスリリングであり、確かにこの出来なら協会賞の候補になるのも充分頷ける。皮肉な結末と探偵役の黒い性格も好みで、個人的なベストを選ぶなら間違いなくこの作品になる。
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posted at 18:58:09
次点は新興宗教と首斬り殺人を結び付けた大山誠一郎「聖ディオニシウスのパズル」。とはいえ一部の作品を除き収録作のレベルとしては全体的に高い方だと思う。それにしても初採用にして一挙三作品掲載の小貫風樹とは一体何者だったのだろう……。
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posted at 18:59:27
2011年02月04日(金)
竹本健治「腐触」読了。正体不明の黒い影を目撃して以来、少女ティナの周囲に奇妙な異変が起こり始めた。繰り返し見る悪夢と幻覚、突然現れる空白地帯、街の腐触、大量の行方不明者……その侵食はゆっくりと、しかし着実に進んでいった。一体彼女の回りで何が起こっているのか?
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posted at 22:29:12
本作は「それ以前」と「それ以後」の二部構成となっているが、個人的には「それ以前」の方がホラー色が強い印象がある。勿論「それ以後」にもホラーとしての要素はあるものの、どちらかと言えばSFアクションの色合いが強いように思える。
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posted at 22:30:03
例えるならば「エイリアン」の一作目と二作目の違いとでも言おうか。そう言えば本作にはどこかハリウッド映画的な雰囲気が感じられるが、それは恐らく作者も意識しているのではないだろうか。ハリウッド映画的なホラー作品を読みたいという人には本作をお勧めしてもいいかもしれない。
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posted at 22:31:41
2011年02月05日(土)
中山七里「連続殺人鬼カエル男」読了。口からフックをかけられて吊された女、車のトランクに詰められプレス機で潰された老人、内臓までバラバラに解体された少年……その傍らには、いつも「きょう、かえるをつかまえたよ」という書き出しで始まる子供が書いたような稚拙な犯行声明文が残されていた。
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posted at 15:16:34
謎の殺人鬼「カエル男」が引き起こす連続猟奇殺人を描いた本作は一見サイコ・サスペンス物のように見えるが、その実態は計算して書かれた本格ミステリに外ならない。それは本作に寄せられた推薦文が島田荘司であることからも窺い知ることができるだろう。
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posted at 15:19:11
本作で作者が仕掛けた企みは大まかに二つあるが、その一つに関しては恐らくある程度のミステリ読みであれば容易に想像が付くことだろう。「まあ書き方は上手いと思うけど、○○○の二番煎じ感は否めないよね」……もしかしたら、そう苦言を呈する読者もいるかもしれない。
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posted at 15:20:41
しかしもう一つの企みが明らかになると、その苦言も引っ込むに違いない。「まさか○○物だったとは!」……これ以上はネタバレになるので詳しくは語れないが、個人的には○○物とあるテーマの組み合わせが実に秀逸だと感じた。本作は二つの捻り技が見事に決まったサイコ系本格の快作である。
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posted at 15:22:09
2011年02月06日(日)
飛鳥高「細い赤い糸」読了。その連続殺人事件は、後頭部を鈍器で一撃という手口以外は全くと言っていい程手掛かりがなかった。被害者たちには何の面識もなく、犯行動機が掴めない。唯一の遺留品は最初の犯行現場に残されていた「細い赤い糸」のみ……。
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posted at 13:48:14
一読プロット型本格の見本のような作品という印象を受けた。本作は粗筋からも分かるようにミッシング・リンクテーマを扱っているがそこに謎解き要素を期待すると些か肩透かしを覚えるかもしれない。勿論警察による捜査パートも存在するが作者はそれよりも被害者たちのドラマを重点的に描き出していく。
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posted at 13:49:58
何故そんな構成なのか。それは真相の意外性を最大限に発揮するために外ならない。しかしながら結末で明らかになる「細い赤い糸」が読者に与えるのは単純な驚きだけではない。凶行に走らざるを得なかった犯人の無念さに何とも言えないやる瀬なさを覚える本作は現代でも通じるテーマを秘めた作品である。
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posted at 13:51:17
2011年02月07日(月)
真梨幸子「聖地巡礼」読了。本作の内容紹介を見ると「史上初!?パワースポット小説登場!」とか「肉食女子ミステリー」とか書いてあったので一瞬何事かと思ったが何のことはない、パワースポットに纏わる五つの短編が収録された、いつものそこはかとないイヤ感が漂う真梨作品だった。
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posted at 21:58:00
登場人物に微妙な繋がりがあるその構成は「ふたり狂い」に近いものがあるが、各短編の出来映えや連作としてのオチは「ふたり狂い」に比べるとやや劣る印象。ただ収録作のうち「ドッペルゲンガー」だけは前例はあるもののミステリ的仕掛けがイヤミスとして絶妙な効果を上げている好編として評価したい。
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posted at 21:59:49
2011年02月09日(水)
湯川薫「ディオニシオスの耳」読了。一九八九年四月、モントリオールにある教会の尖塔に突き刺さって、一人の日本人女子留学生が死んだ。そして十年後、当時の留学生仲間たちが同窓会を兼ねてライヴ会場に集まった時、新たな悲劇が幕を開ける。
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posted at 20:49:32
「科学論で世界を築いた著者がはじめて挑む理系本格ミステリー」という内容紹介、天才物理学者を祖父に持つ若き大学講師という探偵役、そして「書き下ろし長編新本格推理」というジャンル名を見る限り、本作は森博嗣のS&Mシリーズに対抗したと思われる。
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posted at 20:50:24
しかしながら、謎を論理ではなく科学的に解き明かすその内容はS&Mシリーズというより、どちらかと言えば探偵ガリレオに近いかもしれない。ただしガリレオが科学をトリックに用いつつもミステリとして成立しているのに対し、本作はミステリというものを何か勘違いしているような気がしてならない。
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posted at 20:51:42
まあ百歩譲って○○○で人を殺すのはアリだとしても(国内作家Yの短編でも使われていたし)さすがに○○○はないと思う。それを持ち出したおかげで終盤の展開は完全にギャグとしか言いようがない。他にも隙あらば様々な知識をひけらかす探偵役、湯川幸四郎のキャラ造形はかなりアレ。
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posted at 20:52:47
「物理学の初等計算からの帰結ですよ。//ベランダから飛び降りて自殺したのであればニュートンの法則にしたがって放物線を描いて落下するはずです。速度の二乗に比例する空気抵抗を加味してもね」(P45)その瞬間、湯川ははっと頭に閃くものを感じた。「ユーレカ!」(P248)
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posted at 20:53:41
2011年02月10日(木)
真梨幸子「深く深く、砂に埋めて」読了。本能のままに生き、身の回りにいる男たちを次々と破滅させていく魔性の女、野崎有利子。その有利子とパリ旅行の道中で接点を持つことになった弁護士の私は、成り行きで彼女が巻き込まれた事件の弁護を引き受けることになるが……。
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posted at 16:52:05
本作は希代の悪女と呼ばれた野崎有利子という一人の女の生涯を描いた物語である。その構成は「殺人鬼フジコの衝動」と多々重なる部分もあり、もしかしたら「フジコ」の基になったのが本作なのかもしれない。とはいえひたすら悲惨でしかなかった「フジコ」に比べると、本作はそこまで重くはない。
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posted at 16:53:41
そしてタイトルが象徴する結末は同じ破滅エンドでもまだ本作の方が綺麗に描いている分、救いがあるように思う。しかし、それに意味があるかどうかはさておき、この作者はさりげなくミステリ的仕掛けを盛り込むのが好きだなあ……。
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posted at 16:55:25
2011年02月11日(金)
貴志祐介「ダークゾーン」読了。将棋のプロを目指す大学生の塚田が目覚めると奇妙なゲームに参加させられていた。赤と青の二つの軍に分かれて戦うそのゲームの名は「ダークゾーン」。そして、その「ダークゾーン」での自分の役割はどうやら赤の王将らしい。内なる声が塚田に命じる。戦え。戦い続けろ。
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posted at 14:24:00
いきなりよく分からないままゲームが始まるその展開に最初は戸惑うかもしれないが、そこは心配無用。気付けば複雑なルールであるにも関わらず自然と把握できるようになっている点はさすが貴志祐介といったところだろう。
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posted at 14:25:22
一番の見所は何と言っても刻々と戦況が変化するゲームの勝敗の行方だが一方で何故このようなゲームをやることになったのかその経緯に迫る現実パートも見逃せない。しかしながらこの結末は賛否が分かれる所だろう。ただ個人的には物語が閉じることなくいつまでも余韻が残るこの終わり方はアリだと思う。
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posted at 14:27:35
小川勝己「ロマンティスト狂い咲き」読了。冷え切った妻との関係、アルバイトで糊口を凌ぐ毎日に嫌気がさしていた売れない作家のおれにある日、密かに思いを寄せていた担当編集者の裕子が囁きかける。「知ってました――あなたの気持ち」
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posted at 18:05:41
内容紹介を見ると「欲望と犯罪に溺れる男女を描いた純愛小説」とあるが、それは本作のほんの一面に過ぎない。例えば本作の主人公である「おれ」は半分以上作者がモデルと思われるが、その「おれ」の鬱屈した日常が語られる第一部は私小説的な趣があり、読んでいて何とも複雑な気分になってくる。
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posted at 18:06:43
続く裕子から夫の殺害計画を持ち掛けられる第二部からは一転、倒叙ミステリのような雰囲気に。第三部では遂に事件が発覚し警察が捜査に乗り出してくるのだが、そこで作者は「彼岸の奴隷」のあのキャラを登場させるというファンにとっては嬉しいサプライズを用意してくれる。
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posted at 18:08:04
そして最も作者らしさが感じられるのは最後の第四部だろう。個人的には「純愛小説」としての要素を見出だすと同時にどことなく「眩暈を愛して夢を見よ」を彷彿させるなあ……と思っていたら主人公が「うる星やつら2 ビューティフル・ドリーマー」について語り出したので思わずニヤリとしてしまったw
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posted at 18:09:26
小川勝己「狗」読了。悪女をテーマにした連作集である本作は内容紹介を見ると「狂気と愛憎の狭間で揺れ動く人間模様をえぐり出した(中略)現代悪女列伝」とあるがどちらかと言うとブラックユーモア色の強い内容になっている。但し収録作五編のうち「夢の報酬」だけは内容紹介通りと言っていいだろう。
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posted at 21:17:30
作者のバンド経験が色濃く反映されたこの作品はロック好きには勿論のこと、ミステリ的にも意外な動機という点でお勧めしたい秀作である。他にも「You裡」に出てくる「ベイビーキッス」という店名に思わずニヤリ。決して万人向けとは言えないが、個人的にはこういう毒に満ちた作品は大好きですw
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posted at 21:18:33