麻里邑圭人
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- 現在地 涅槃
- 自己紹介 ミステリ初心者。非実在探偵小説研究会所属。 【好きな作家】飛鳥部勝則/梶龍雄/殊能将之/早坂吝/麻耶雄嵩 【好きな作品】「カルロッツァの翼」「殉教カテリナ車輪」「竹馬男の犯罪」「翼ある闇」「魍魎の匣」 【好きな映画】「キルビルVol.1」「サスペリア」「サンタ・サングレ/聖なる血」「ダークナイト」「リベリオン」
2013年08月01日(木)
中山七里「七色の毒」読了。「切り裂きジャックの告白」に登場した犬養隼人刑事が、色に纏わる事件に挑む連作短編集。高速バスの事故に隠された真相「赤い水」、ヤラセで新人文学賞を獲った芸能人がナイフを突き立てられた死体となって発見される「白い原稿」など七編収録。
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posted at 12:54:23
本作の収録作は基本的に高速バスの事故にイジメ問題、ヤラセの新人賞、少年たちによるホームレス襲撃といった昨今話題になった実在の事件を元にしており、それにどんでん返しを絡めたのはいいのだけど、残念ながらそのほとんどが予測の範疇に留まってしまっているのが難。
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posted at 12:54:50
唯一の例外が性同一性障害を持つ男子小学生が謎の男に追われる「黄色いリボン」で、ある現象との絡みに関しては巧くいっているとは言い難いものの、子供視点にしたことで真相の意外性を高めることに成功している。できれば全編「黄色いリボン」くらいのクオリティーでやってほしかった。
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posted at 12:56:42
河合莞爾「ドラゴンフライ」読了。山奥で東京にあるはずの我が家を見付けた男。多摩川で発見された、臓器を抜き取られ、黒焦げにされた男の死体。幻の巨大トンボ。死者からの電話。ダムに沈む村の秘められた過去……再集結した鏑木率いる特別捜査班が突き止めた驚くべき「完全犯罪」計画とは?
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posted at 19:53:56
「デッドマン」で横溝賞を受賞した作者の二作目。前作でも「占星術殺人事件」に挑戦するなど島田荘司作品に対するリスペクトが見られたが、それは本作になって一段と顕著になり、冒頭から「山奥に存在する東京にあるはずの我が家」という何とも魅力的な謎をぶちまけてくれる。
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posted at 19:54:07
その後も「デッドマン」の構成を踏襲しつつ、先述したような不可解な謎の連打でぐいぐいと惹き付けてくれる。途中明らかにされる過去の事件では、ある登場人物の設定が絶妙なミスディレクションになっていたことに気付かされ、思わず唸らされた。
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posted at 19:54:21
また最後に明らかになる「完全犯罪」計画にしても島田荘司がやりそうな大胆なもので、それを成立させる伏線も実に抜かりがない(あと死体損壊の理由が島田荘司の某作品オマージュと思ったのだが、それはさすがに深読みし過ぎだろうか?)。
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posted at 19:54:35
2013年08月03日(土)
土屋隆夫「盲目の鴉」読了。評論家・真木英介が失踪して数週間後、千曲川湖畔で真木の小指が入った背広と「私もあのめくら鴉の」と書いた紙片が見付かった。一方、東京世田谷の喫茶店では、不可能状況下で毒殺された劇作家志望の青年が死ぬ間際に「白い鴉」と言い遺す。二つの事件を繋ぐ鴉の意味とは?
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posted at 21:57:41
よくも悪くも文学色の強い作品。基本的に本格ミステリには合理的解釈が求められるが本作の一部の謎や動機に限っては感情面による所が大きいのが気になる。また解説によるとアリバイトリックが偶然に頼りすぎているとの指摘があったとのことだが、むしろそれは毒殺トリックの方が当てはまるように思う。
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posted at 21:58:01
確かにアリバイトリックの方も偶然の要素は否定できないものの、まだこちらの方が作者の配慮が窺えて好印象。あと欲を言えば件の評論家が調べていた作家の背景に関して、ただのふりで終わらせるのではなく、もう少し事件に絡ませてほしかった。
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posted at 21:58:29
2013年08月04日(日)
土屋隆夫「天狗の面」読了。太鼓の音と呪文が響く天狗堂の中へ入った土田が見たものは合掌して踊り狂う信者達と天狗の面をつけた教祖、そしてその足元に転がる顔半分を血で染めた男の死体だった――信州の山村・牛伏村に広まった天狗信仰に纏わる連続殺人の真相に地元駐在の土田と弁護士・白上が迫る。
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posted at 15:35:25
いかにもな舞台設定と探偵役、毒殺講義、探偵小説論など、この作者にしては珍しい遊び心に満ちた作品。初長編ともあってトリックにもなかなか力が入っており、特に第二の事件における犯行の大胆さが秀逸。またその犯行に気付くポイントとなる、ある小道具からの単純明解なロジックも素晴らしい。
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posted at 15:36:00
何より一連の犯行にきちんと舞台設定が活かされている点が好印象で、そういう意味では作者の作品の中で一番自分好みの本格と言えるかもしれない。他にも被害者の一人が残した手掛かりから窺える狂人の論理なども面白く、全体的に至れり尽くせりの秀作と言っていいだろう。
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posted at 15:36:20
2013年08月06日(火)
竹吉優輔「襲名犯」読了。十四年前、ある地方都市で起きた連続猟奇殺人。犯人はルイス・キャロルの詩を下敷きにしたかのような犯行から「ブージャム」と呼ばれ逮捕後もその美貌と語り口から熱狂的な信奉者も生まれたが、やがて死刑が執行される。そして今、かつての犯行を思わせる第二の事件が――。
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posted at 16:43:38
第59回江戸川乱歩賞受賞作。粗筋からして既視感が半端ないが、そのありがちな話でさえもお世辞にも巧く書けているとは言い難い。カリスマ性ゼロの殺人鬼。うわべだけの捜査でただ事実として人が殺されていく緊迫感のない展開。全体的に謎解き興味に乏しく、ラストのサプライズも見事に失敗している。
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posted at 16:44:02
周木律「双孔堂の殺人 ~Double Torus~」読了。Y湖畔に建つ鍵形の館――双孔堂で同時発生した二つの密室殺人。そして事件の犯人として逮捕されたのは、放浪の数学者にして名探偵の十和田只人だった。
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posted at 21:29:56
「眼球堂の殺人」でデビューした作者の2作目。徹頭徹尾オリジナリティのなかった前作よりは幾分見るべき所があるものの、メイントリックに関しては前作同様前例があるもので、人によっては見取り図を見た瞬間に作者のやりたいことがだいたい分かってしまうかもしれない。
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posted at 21:30:23
むしろ本作で見るべき所はトリックよりもフーダニットの方であり、ある人物が犯人ではない伏線の隠し方は良かったと思う。最後のアレに関しては好みが分かれる所だが、やはり森博嗣好きの作者としてはやりたい趣向なのだろうか。とはいえ個人的にはそろそろ独自性のあるトリックを見せてほしいと思う。
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2013年08月07日(水)
嶋戸悠祐「セカンドタウン」読了。高い堀に囲まれた町、セカンドタウン。その郊外にある井戸の底に閉じ込められた高校教師の中山が遭遇したという糞尿を喰らう鼻無男。町の治安を管理する『自治体』と飛び回る羽虫。人喰いの物語を遺して姿を消した友人。やがて明らかになるセカンドタウンの真実とは?
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posted at 21:55:41
第3回福ミス新人賞優秀作「キョウダイ」でデビューした作者の二作目。前作がスケールの小さなグロミスだったのに対し、本作はスケールの大きなグロSFであり、そこにあえて名探偵などのミステリ的ガジェットを放り込むことにより、更に闇鍋のような(!)キワモノっぷりに拍車をかけている。
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posted at 21:55:55
メフィスト賞に馴染みのある読者であれば、本作を読んで積木鏡介を思い出すかもしれない。一部ミステリ的技法を使ってアレな世界観をさりげなく演出してみせる点などはミステリ読みにもアピールできるものの、基本的にはキワモノ好きにこそお勧めしたい作品である。
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posted at 21:56:15
2013年08月08日(木)
太田紫織「櫻子さんの足下には死体が埋まっている 骨と石榴の夏休み」読了。骨を偏愛するお嬢様・櫻子さんが遭遇した事件を描く連作ミステリの二作目。「夏に眠る骨」「あなたのおうちはどこですか」「殺されてもいい人」の三編収録。
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posted at 23:09:31
作者がミステリを書き慣れていないのがあからさまに分かってしまう(但し一部収録作に関してはミステリ以前の問題という気もするが)前作に比べると、本作は作者がようやく自分の身の丈に合った話をやっている感があり、意外性は全くないがその代わりに前作よりも破綻は少なくなったように思う。
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posted at 23:10:08
収録作の中で一番ミステリっぽいのは、いつ殺されてもおかしくないくらい多くの人間から恨まれている大富豪の老人が不審死を遂げる「殺されてもいい人」で、相変わらず推理が後付けであることと舞台設定からドンデン返しに至るまでテンプレであることを除けば意外と纏まっている方ではないだろうか。
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posted at 23:10:20
東川篤哉「ライオンの棲む街 ~平塚おんな探偵の事件簿1~」読了。東京でのOL生活に破れ、地元・平塚市に帰ってきた美伽に高校時代の友人である「ライオン」ことエルザから「ウチの仕事を手伝え」との誘いが。なんと十年ぶりに再会した旧友は女私立探偵として活躍していたのだった。
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posted at 23:10:36
美しき女探偵と天然ボケ助手が難事件に挑む連作ミステリ。タイトルからも分かるように本作は新シリーズ一作目なのだけど、不思議とあまり新シリーズという感じがしない。その理由は多分、本作が作者が書き慣れている私立探偵物であることと、探偵役がどこか霧ヶ峰涼っぽいからだろう。
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posted at 23:11:29
収録作は全体的に手堅く例えネタがありふれていても見せ方や伏線でおっと思わせてくれる。個人的に良かったのは占い師のアリバイ崩しの四話と目張り密室の謎を扱った五話で前者は奇跡を演出したトリックがそのままアリバイ崩しになっている点が、後者は大胆な仕掛けとドタバタ劇を織り混ぜた手法が○。
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posted at 23:11:49
2013年08月09日(金)
土屋隆夫「青い帽子の物語」読了。江戸川乱歩がそのロマンチシズムを絶賛したという表題作を始め、密室に絵の構図を絡めた処女作「「罪ふかき死」の構図」、人妻の自殺に隠された真相「情事の背景」、高校の教頭が失踪した事件を追う刑事の日記という体裁で書かれた物語「淫らな骨」など七編収録。
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posted at 22:09:17
本格ミステリだけではなく、サスペンス、倒叙物、非ミステリなどを収録した短編集。とはいえ扱っている題材自体は土屋作品ではお馴染みのものが多く、そういう意味ではジャンルは違えど、どの短編にも「らしさ」を見出だすことができる。
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posted at 22:09:41