麻里邑圭人
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- 現在地 涅槃
- 自己紹介 ミステリ初心者。非実在探偵小説研究会所属。 【好きな作家】飛鳥部勝則/梶龍雄/殊能将之/早坂吝/麻耶雄嵩 【好きな作品】「カルロッツァの翼」「殉教カテリナ車輪」「竹馬男の犯罪」「翼ある闇」「魍魎の匣」 【好きな映画】「キルビルVol.1」「サスペリア」「サンタ・サングレ/聖なる血」「ダークナイト」「リベリオン」
2016年03月02日(水)
仁木悦子「みずほ荘殺人事件」読了。休職中の新聞記者・吉村駿作の住むアパート「みずほ荘」で新年早々ホステスが扼殺された。捜査の結果、外部からの侵入者による犯行の形跡はなく、またアパートの住人たちにも完全なアリバイがあった――表題作含む六編収録。
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仁木作品ではお馴染みの新聞記者・吉村駿作が探偵役を務める表題作などを収録した短編集。収録作のうち「老人連盟」のみミステリとしてのキレはいまいちだが、それ以外は何らかのツイストがあるのがいい。
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ベストは表題作でアパートの住人に関する何気ない描写が結び付いて真相が浮かび上がる点が実に秀逸。次点は古道具屋で買った電気スタンドに纏わる回想の殺人物「死を呼ぶ灯」で、過去の事件に辿り着くまでの過程もじっくり読ませるが、何よりタイトルに偽りなしの真相にハッとさせられる。
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その他、ミステリマニアたちが集まって犯人当て小説に挑戦する「最も高級なゲーム」は犯人を絞り込む条件に動機を持ち込む点が釈然としないものの、ある小道具を活かしたさりげないトリックと犯人当て以外にも詰め込まれた趣向が○。総じて良作と言っても差し支えない作品集である。
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早坂吝「誰も僕を裁けない」読了。「援交探偵」上木らいちがメイドとして働き始めた東京都にある異形の館で謎の連続殺人が発生。一方、埼玉県に住む高校生の戸田公平は資産家令嬢と恋に落ちたのも束の間、ある理由から逮捕されてしまう。二つの物語が繋がる時、驚愕の真相が明らかになる――。
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傑作。以前、本作について作者は本格ミステリと社会派の融合を目指したと語っていたが、それが具体的にどんなものかは作中で登場人物の一人が言及している。曰く「本格のルールが現実社会のルールをも侵食し、両者が混然一体となるような作品」だと。
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これだけだとピンとこない人もいるかもしれないが、実際読み終わってみると正にその通りだったとしか言いようがないのが凄い。本格は本格でもネタは完全にバカミスであり、しかも誰もがよく知ってるお約束とも言えるものだが、それをここまで社会派要素と溶け込ませた作品を自分は他に知らない。
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更にこのシリーズではお馴染みのエロミスとしても、飛鳥部勝則の某作を思わせる大胆なトリックを使っていて実に申し分ない。そして極めつけはギャグと感動紙一重の結末……本作は奇跡的なバランスで成立させた現時点での作者の最高傑作である。
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2016年03月03日(木)
仁木悦子「赤と白の賭け」読了。ある日、見知らぬ老人から受けた招待。それこそが復讐劇の始まりだった。出世のため、ひたむきに愛してくれた娘を捨て、死に追いやった男に対し、老人はある二者択一の賭けを持ちかける――表題作含む七編収録。
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仁木作品ではお馴染みの素人探偵が活躍する短編やノンシリーズ物を収録したミステリ短編集。全体的にミステリ度は低めだが中には表題作のような絶体絶命の状況から人間の本性を浮き彫りにさせる切れ味鋭いサスペンス物もあるので、油断ならない。
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一応収録作の中でミステリ度が高いものを挙げるなら、ひな人形の中から出てきた謎めいた紙片をきっかけに素人探偵が過去に起きた事件を調べ始める「ひなの首」で、真相こそ大したものではないが、人を食ったミスディレクションが微笑ましい。
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2016年03月05日(土)
仁木悦子「青じろい季節」読了。翻訳事務所の経営者・砂村朝人はある日、下請けをしていた大学院生の矢竹謙吾から不可解な翻訳原稿を受け取った。その矢先に矢竹が失踪し、それから間もなく彼の他殺体が発見される。砂村が生前の矢竹の行動を調べるにつれ、浮かび上がったある殺人事件との関係は……?
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小さな謎の積み重ねが、錯綜した人間関係に隠された驚愕の真相を炙り出す傑作。本作では二つの殺人事件を扱っているが、注目すべきは犯人の正体よりもむしろ事件の構図だろう。特にある登場人物たちの意外な関係が明らかになると共に際立つ構図の悲劇性は一読忘れ難いものがある。
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ただその一方で構図を優先しすぎたせいか、犯人のアリバイトリックが些か不発気味なのが気になるが、仄かに救いのある結末がそれを補って余りある。また本作は軽ハードボイルドの中に感じられるクリスティーっぽさが印象的な作品である。
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2016年03月06日(日)
仁木悦子「凶運の手紙」読了。子供の頃、私は隣に住む知恵遅れの娘・房代にこっそり手紙を出し続けていた。そしてその習慣は私の引っ越しと共に途絶えたはずだった。それから数年後、夫を連れてかつての故郷を訪れた私は房代が何者かに殺されていたことを知る――表題作含む六編収録。
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仁木作品ではお馴染みの悦子ママが探偵役を務める「初秋の死」以外は全てノンシリーズ物のミステリ短編集(一応「花は夜散る」には「二つの陰画」の登場人物が出てくるが)。ただ本作に収録された短編はミステリ以外の部分で忘れ難いタイトルが多かったように思う。
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例えば表題作は知恵遅れの房代というキャラの健気さが印象的だし(だからこそ事件の悲劇性が際立っているわけだが)、「金ぴかの鹿」は「書き直すと(中略)純文学になるだろう」と作者が語る通り、図らずも誘拐に荷担してしまった女児の苦悩が実によく描かれている。
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中でも特に忘れ難いのが、この作者には珍しい怪奇物である「一日先の男」で、一日先の出来事が常に書かれている日記を手に入れてしまった男の恐怖もさることながら、どちらにも受け取れる結末がまた絶妙な不安感を醸し出していて○。ミステリとは違った作者の魅力を知るには打ってつけの作品集である。
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2016年03月07日(月)
三国陣「不死王殺し」読了。傷つかず、猛毒と龍の咆哮を操り、闇を見通し、更には宙を飛び、透明化し、あまつさえ読心能力を持ち、たとえ殺されても蘇るという不死身の悪王を斃すことは果たして可能なのか? ドーンとシメオンは、不退転の覚悟を胸に〝不死の謎〟を追う。
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魔王退治というファンタジーの定番にハウダニット興味を加えた作品。キャラの掘り下げなどに物足りない部分があるものの、その分ストーリー展開がテンポよく、加えて畳み掛けるように戦闘シーンが盛り込まれているので終始退屈することなく読ませてくれる。
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不死身の真相に関してはあまり新鮮味がないが、仮説を積み重ねて真相に至る点は好印象だし、何よりも最後に用意されるフーダニット趣向にそれまでの設定が巧く活かされているのが良かった。本作はミステリ要素がファンタジーの王道展開を程よく引き立てた快作である。
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2016年03月08日(火)
仁木悦子「聖い夜の中で」読了。父母のいない淋しい聖夜を過ごすひろむはサンタクロースと街で出会った。だが、その正体は看守を撲殺して脱獄した凶悪犯だった。人質にとられた幼児とサンタに扮した凶悪犯の逃走劇の結末は? 表題作含む五編収録。
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作者が亡くなった後に刊行された最後の短編集。収録作の中でベストを挙げるなら作者の看板探偵の一人、私立探偵の三影潤が活躍する「数列と人魚」だろう。何といっても失踪した妻探しというありふれた事件がいつしか謎めいたタイトルに象徴されるスパイ疑惑に発展していく流れがまず面白い。
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但しその手の話を期待すると真相に些か肩透かしを覚えるかもしれないが、三影物らしからぬハッタリがきいた展開はなかなか新鮮。その他の短編になるとミステリ度はぐっと落ちるものの、表題作の現代の寓話的味わいは嫌いではない。
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2016年03月09日(水)
仁木悦子「三日間の悪夢」読了。孫が逮捕された強盗殺人事件の謎をボケていたはずの祖母が鮮やかに解き明かす表題作の他、仮装パーティーの最中に起きた殺人事件の真相を牧師探偵が看破する「罪なき者まず石をなげうて」、母親が死んだ日に目撃された虹色の犬の正体に迫る「虹色の犬」など六編収録。
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収録作六編中五編に何かしらミステリ的読みどころのある短編集。ベストは何といっても「罪なき者まず石をなげうて」で仮装パーティーという特殊な状況ならではの謎と意外なところからくる単純明快なロジックがとにかく素晴らしい。
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加えて事件に挑む牧師父娘とチンピラトリオのやり取りが実に楽しく、これがシリーズ物として書き継がれなかったことがつくづく残念でならない傑作である。次点は「虹色の犬」で、タイトルに象徴される謎もさることながら、何気に「死期の近い人間を何故殺したのか?」という謎も絡んでくる点が○。
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また犯人にしてもさりげなく読者の盲点をついているのが心憎い。その他「ただ一つの物語」は童話に隠された宝探しと回想の殺人がリンクするのが面白いし好きな女の子のために少年が誘拐犯を出し抜こうとする「恋人とその弟」も他愛ないトリックながら使い方に巧さがある。全体的に安定した良作である。
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2016年03月10日(木)
仁木悦子「枯葉色の街で」読了。気のいい若き詩人・江見次郎はスリに押し付けられた財布を持ち主に返そうと、中に入っていた八枚の名刺の主を訪ねて歩く。だがその途中で彼は画家・的村の変死体を発見。更に的村の幼い娘・ミチルを預かったのがきっかけで、その死の謎を追うことになる。
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作者が「若い女性に向く推理小説を」という注文に応えて書いた作品。スリに押し付けられた財布の持ち主探しをしていたら、偶然殺人事件に遭遇……という本作の展開は、下手をすればリアリティの欠片もないと叩かれそうだが、そこはキャラクター作りに定評がある作者のこと。
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お人好しの若き無名詩人という、いかにもそんな行動をとりそうなキャラを主人公にすることで物語にきちんと説得力を与えている。それだけでなくパズラーとしての伏線も物語の中に巧みに織り混ぜており、後になって読み返してみてそのフェアさに唸らされる。
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ただその反面、伏線以外にミステリとして語るところがあまりないのが難だが、逆を言えば奇抜なトリックがなくても伏線だけで優れた本格が書けることを証明した良作である。
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