麻里邑圭人
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- 現在地 涅槃
- 自己紹介 ミステリ初心者。非実在探偵小説研究会所属。 【好きな作家】飛鳥部勝則/梶龍雄/殊能将之/早坂吝/麻耶雄嵩 【好きな作品】「カルロッツァの翼」「殉教カテリナ車輪」「竹馬男の犯罪」「翼ある闇」「魍魎の匣」 【好きな映画】「キルビルVol.1」「サスペリア」「サンタ・サングレ/聖なる血」「ダークナイト」「リベリオン」
2011年04月26日(火)
嵯峨島昭「猛獣狩殺人事件」読了。アフリカの広大なサバンナで黒鬣の人喰いライオンに二人の男が襲われ、一人は背中に裂傷を負い、一人は命を落とした。助かった男は死んだ男の仇を討つべく、ハンターやマサイ族の戦士と共に黒鬣の人喰いライオンの行方を追う。
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posted at 21:30:49
本作のあらすじを聞いて「これのどこがミステリなのか」と疑問に思う人もいることだろう。一応「殺人事件」とタイトルに付くだけあってそれらしい事件も起こることは起こるのだが、本作が凄いのは、それが文字通り「一応」に過ぎないことである。
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posted at 21:32:56
事件そっちのけで猛獣のハンティングに勤しむ登場人物たち。そして全体のページ数の半分が過ぎたあたりでようやく探偵役が登場しやっと事件の話に移るのかと思えばその探偵役も一緒になってハンティングを楽しみ出す始末。加えてやたらと食事シーンが多いのも事件のないがしろ感(?)に拍車をかける。
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posted at 21:34:16
だが、それでも本作は面白いのだからタチが悪い。気が付くと、主人公たちが繰り広げる猛獣との死闘やアフリカの風景描写を楽しんでいる自分がいることだろう。個人的にはマサイ族の戦士の勇姿が見れる(!)だけでも本作を読む価値はあると思う。
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posted at 21:36:18
2011年04月27日(水)
島田荘司「進々堂世界一周 追憶のカシュガル」読了。京都を舞台に若き日の御手洗が世界各地で体験した出来事を予備校生のサトルに話して聞かせるという形式の作品集である本作は厳密に言うとミステリではない。例えるならば島田荘司作品ではお馴染みの挿話だけを抜き出した感じと言えばいいだろうか。
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posted at 20:13:43
とはいえ全くミステリ要素がないかと言えばさにあらず。収録作の一つ「戻り橋と悲願花」では消えた曼珠沙華の球根という謎が出てくるが、それが終盤、作者らしい奇想と結び付いて解き明かされる様は紛れも無く本格ミステリのそれである。個人的にはこの話を読めただけでも本作を買って良かったと思う。
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2011年04月29日(金)
鯨統一郎「新・日本の七不思議」読了。「邪馬台国はどこですか?」「新・世界の七不思議」に続くユーモラスな歴史の新解釈シリーズ第三弾……なのだが前二作に比べてどうもスッキリしない。舞台一つとっても終始同じバーで展開していたこれまでと違い現地調査に赴いたりと完全に外へとシフトしている。
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posted at 19:57:09
まあ、それに関してはマンネリを防ぐために仕方ないと思うが、何より釈然としないのは新解釈にこれまでの作品に見られた破天荒さがあまり感じられないことだ。個人的にこのシリーズの面白さはまず無茶苦茶な新解釈ありきで、それをいかにして本当っぽくでっちあげるかだと思っている。
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posted at 19:58:23
ちなみに解説の波多野健氏は『「邪馬台国はどこですか?」の歴史推理は誰もホントと思わない』という笠井潔の発言を引き合いに出した上で、本作はいよいよ作者が本気で歴史の異説を立ち上げかけた印象があると語っているが、その結果、従来の破天荒さが薄まったのだとしたら非常に残念でならない。
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posted at 20:00:38
また本作のラストで「真珠湾攻撃」を取り上げたことに関しても個人的には違和感を覚える。ユーモア作品の題材とするにはあまりにも重過ぎると思うのだが……。好きなシリーズの作品だけに、色々な部分が気になってしまった。
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2011年04月30日(土)
津島誠司「A先生の名推理」読了。深夜の大通りに現れた咆哮する怪人。消えたり現れたりひっくり返ったりと変幻自在の山小屋。オフィス街での不条理な出来事。海で救いを求める女と屋敷で度々目撃される巨人の幻。隕石が巻き起こすSFホラーさながらの怪事件。五つの奇怪な謎にA先生の推理が冴える。
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posted at 18:24:40
本作にはベレー帽がトレードマークで甘い物に目がない謎の老人、A先生を探偵役とする五つの短編の他に作者のデビュー作にあたる短編「夏の最終列車」が収録されている。今回、本作を久々に再読して思ったのはやはりシリーズ第一作の「叫ぶ夜行怪人」は奇跡的作品だったのだなということだった。
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posted at 18:25:39
というのも「叫ぶ夜行怪人」以降のA先生物の短編はどれもいまいちキレが感じられないのである。何というか作者が無理をして書いているような気がしてならない。ちなみに巻末の鮎川哲也の解説によれば、作者自身はどうやら「A先生」シリーズを打ち切りにしたいと思っていたようだ。
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posted at 18:26:37
それに対し鮎川哲也は「折角掘り当てた鉱脈なのに見限るなんてとんでもない」と叱りつけたそうだが、それが果たして良かったのかというと甚だ疑問ではある。故に「叫ぶ夜行怪人」以外に良かったものを挙げるなら「夏の最終列車」になるだろう。ある意味、本作は作者の苦悩ぶりが窺える短編集である。
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2011年05月02日(月)
大西赤人「鎖された夏」読了。金属業、造船業、不動産業と、あらゆる方面で財を成した浜村グループ。その一族が軽井沢にある別荘に集まった時、恐ろしい連続殺人の幕が上がる。浜村グループの御曹司である車椅子の少年、新司のゲームの相手として別荘にやって来た隆も否応なく事件に巻き込まれていく。
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posted at 10:07:24
あらすじからも分かる通り、本作はどこを切っても王道な本格ミステリである。ただ若干これだけの舞台設定を用意しておきながら不可能犯罪らしい不可能犯罪が出てこないことに物足りなさを覚えなくはないが、伏線の張り方、ミスリードに関しては申し分ない出来と言えるだろう。
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posted at 10:08:20
個人的には作者の境遇と被る新司というキャラについて作者がどういった意図のもとで出したのか、また犯人の動機についても何か思うところがあったのか等、ミステリ部分以外でも色々と興味深い作品である。
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2011年05月06日(金)
谺健二「赫い月照」読了。これまで数々の難事件を解決に導いてきた振り子占い師の雪御所圭子には凄惨な過去があった。彼女が中学生の時、一歳年上の兄が三人の女子中学生を殺害し、うち一人の首を切断したのだ。それから十数年の時を経て再び彼女は悪夢のような連続猟奇殺人に巻き込まれることになる。
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posted at 18:12:52
かつて中井英夫は綾辻行人に「世界の悪意を一身に背負ったような探偵小説を書くんだよ」と言ったそうだが、本作は正にその言葉を体現したような作品である。と同時に本作はそんな悪意に翻弄され、運命の操りの糸から逃れようと必死にあがいた探偵の物語でもある。
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posted at 18:15:42
終章で明らかになる真相には驚かされたものの、正直本作で用意されたトリックの幾つかは凄まじい悪意の前に妙に浮いてしまっている感が否めない。ミステリの出来から言えばお世辞にも傑作とは言い難いが、悪意を描き切ると言う点ではかなり高い次元で成功していると思う。
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posted at 18:16:48
竹本健治「闇のなかの赤い馬」読了。ミッション系の学園で、一人の神父が落雷事故に遭って死んだ。それから間もなくして、今度は別の神父がサンルームから黒焦げ死体となって発見される。しかも現場の状況が密室だったことから、俄かに不可能犯罪の様相を示し始める。
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posted at 20:57:29
読了後、真っ先に思ったのは「本作をダリオ・アルジェントに映画化してもらいたいなあ」だった。目次にある本作の英語タイトルの字体にしても、いかにもそれっぽい。真相の後味の悪さからイヤミスという声も聞かれるが、むしろこれは美しい悪夢と言うべきだろう。
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posted at 20:58:33
個人的には描写が薄いのが若干物足りないが、想像力が豊かな子供に読ませるにはこれくらいが丁度いいのかもしれない。本作は竹本健治らしさがよく出た、良質のジュブナイル・ミステリーである。
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2011年05月07日(土)
谺健二「星の牢獄」読了。地球の文明調査にやって来た異星人のイレム・ロウは、ある奇妙な殺人事件に遭遇する。イレムの目の前で証明写真のブースに入った少女が一瞬のうちに消え失せ、代わりに別人の刺殺体が転がっていたのだ。自分にかけられた容疑を晴らすため、イレムは事件の捜査に乗り出す。
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posted at 21:03:42
異星人が主役という異色な設定の本作は序盤から中盤にかけて二件の不可解な殺人事件が発生するが、作中でも言及されているようにそれは前哨戦に過ぎない。むしろ本番は舞台が私設天文台に移って以降に起こる、クローズド・サークル状況下での連続殺人からである。
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posted at 21:04:32
とはいえ連続殺人の真相自体は特に見るべきところはない。ではどこが本作の見所なのか? ……それは、何故このような設定を使う必要があったのかという部分に外ならない。そして、それが明らかになると同時に、手掛かりがあまりにもあからさまな形で示されていたことに気付き、いたく感心した。
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2011年05月08日(日)
谺健二「未明の悪夢」読了。谺健二の作品を読んでいると、しばしば本格ミステリという虚構の物語で残酷な現実を打ち負かそうとしているかのような印象に囚われる。「赫い月照」は酒鬼薔薇事件に代表される劇場型猟奇殺人を、そして本作「未明の悪夢」では阪神大震災という未曾有の悲劇を扱っている。
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posted at 18:42:35
大地震のさなかに起こった奇怪な事件の数々。絞首刑と磔刑を同時に行われた男。密室状態から消えた犯人。現場から消失し、その後、蘇生したバラバラ死体の女……それらの謎を成立させるために震災を描く必要があったのは確かだが、作者が震災を題材にした理由は決してそれだけではないだろう。
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posted at 18:43:47
果たして本格ミステリは現実に打ち勝つことができたのか……その判断は読者それぞれに委ねるとして、個人的には本作が事件の構図に重点をおいたその後の作品(「肺魚楼の夜」「赫い月照」「星の牢獄」)と違い、島田荘司ばりのトリック重視の作品であることがなかなか興味深かった。
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posted at 18:44:42