麻里邑圭人
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- 現在地 涅槃
- 自己紹介 ミステリ初心者。非実在探偵小説研究会所属。 【好きな作家】飛鳥部勝則/梶龍雄/殊能将之/早坂吝/麻耶雄嵩 【好きな作品】「カルロッツァの翼」「殉教カテリナ車輪」「竹馬男の犯罪」「翼ある闇」「魍魎の匣」 【好きな映画】「キルビルVol.1」「サスペリア」「サンタ・サングレ/聖なる血」「ダークナイト」「リベリオン」
2013年02月16日(土)
一田和樹「サイバークライム 悪意のファネル」読了。相沢薫は友人の遥美が殺人犯として死刑になったことを知り愕然となる。事件のことを調べ始めた薫はやがて殺人販売サイト「ギデス」に辿り着くが、そんな薫の許に悪意ある大量のメールと「ギデスに触れた者には死あるのみ」と書かれた手紙が……。
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posted at 16:49:25
サイバートラブル解決屋の君島が活躍するシリーズの三作目。サイバーテロ事件を扱ったスケールの大きな前作から一転して本作はぐっと身近な事件を題材にしており、雰囲気的には一作目の「檻の中の少女」に近い。
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posted at 16:49:40
パニック小説風味の前作も面白かったが、自分としてはこれくらいの距離感の方がちょうどいいもしれない。前作に引き続き、本作でもまたデジタルな物語の中にアナログな仕掛けが盛り込まれており、物語のいいアクセントになっている。
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また各登場人物もよく描けており、特に島田荘司「傘を折る女」の被害者にも通じる中江知香のウザさが素晴らしい。個人的には作者の描くウザキャラと不思議ちゃんが好みなので、これからもこのタイプのキャラが出てくるハードボイルドを書いていってほしいと思う。
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2013年02月17日(日)
葉真中顕「ロスト・ケア」読了。物語は一人の男が死刑判決を受けるところから始まる。〈彼〉は四十三人もの人間を殺害した大量殺人犯。死刑になってしかるべき人間だ。しかし傍聴席で判決を聞いた洋子は思う。私は〈彼〉に救われたのだ、と。……〈彼〉は一体何をし、何を人々に齎したのか?
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傑作。これは一人の大量殺人犯の物語であると同時に介護に追い詰められた人々の心の叫びを描いた社会派小説である。「人が死なないなんて、こんなに絶望的なことはない!」作中において作者は登場人物の一人にこう言わせているが、この言葉が本作の全てを言い表しているといっても過言ではないだろう。
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その一方で本作は緻密に計算された本格ミステリでもある。本作を読み終わって初めて読者は序章の段階で罠に嵌まっていたことに気付くことだろう。本作の構成は全て読者を騙すためにあり、細かな描写がそれを補強するミスディレクションであると同時にフェアな手掛かりとして機能しているのが実に秀逸。
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正直デビュー作の段階でここまで隙のない作品を書いてしまった作者には脱帽せざるを得ない。本作は横山秀夫ばりの一級のエンターテインメントと本格ミステリを極めて高い次元で両立させた作品である。
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2013年02月18日(月)
西村京太郎「終着駅殺人事件」読了。法律事務所に勤める宮本孝は高校の同級生六人を誘って卒業後七年ぶりに郷里・青森に帰る計画を立てる。六人が乗り込んだ列車は上野発の寝台特急「ゆうづる7号」。しかし、上野駅構内で第一の殺人が起こったのを皮切りにかつての仲間が次々と殺害されていく。
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第34回日本推理作家協会賞受賞作。密室にアリバイ、毒殺トリック、動機の謎、更にはダイイング・メッセージまで詰め込んだネタの豊富さは評価できるが、いかんせん全体的に論理的推理に乏しく、ただの辻褄合わせに終始してしまっているのが痛い。
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そのネタにしても、ただのトリビアだったり、説得力に欠けたりとイマイチぴんとこないものが多いのが残念。ただ一点、運命の悪戯とも言うべき動機だけはなかなか面白かった。
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2013年02月19日(火)
井沢元彦「葬られた遺書」読了。ある新文学賞を受賞した17歳の少女に纏わる陰謀劇を新聞や雑誌の記事だけで構成した表題作の他、作者得意の暗号ものや歴史の新解釈、倒叙もの、顔のない死体、日焼けし過ぎた死体などバラエティに富んだ七編を収録。
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本作の収録作のうちベストは何といっても表題作で、タイトルにもなっている「葬られた遺書」を最後に付け加えることにより、今まで見えていた構図がガラリと反転する様が素晴らしい。
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次点は脅迫者を亡き者にする為に周到な殺人計画を実行した男が思わぬ落とし穴に嵌まる倒叙もの「トラップ アンド エラー」で短編とは思えぬネタの詰め込みぶりとトリッキーな展開、そして皮肉な結末が鮮烈な印象を残す。あとの短編は好みの差はあれど作者の引き出しの多さが堪能できる短編集である。
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2013年02月21日(木)
大倉崇裕「福家警部補の報告」読了。とぼけた見た目に反して切れ者な福家警部補と犯人の対決を描く倒叙ミステリシリーズの三作目。かつての同人仲間を殺害した漫画家「禁断の筋書」、誘拐にまで手を出した外道を始末したヤクザ「少女の沈黙」、銀行強盗を爆殺した老夫婦「女神の微笑」の三編収録。
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posted at 01:26:05
前作「福家警部補の再訪」から約三年。相変わらず面白いと言えば面白いのだが、これまでの二作と比べるとミステリのキレよりも物語としての面白さを優先した印象を受ける。特にそれが顕著なのは「少女の沈黙」で、例えるならば任侠小説に倒叙ミステリ要素を足したような感じと言えばいいだろうか。
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posted at 01:26:37
また「禁断の筋書」「少女の沈黙」の二編に関しては何が決め手となるかがかなりあからさまな形で書かれており、その辺りの意外性を期待すると些か肩透かしを覚えるだろう。残る「女神の微笑」にしてもミステリ的な面白さより、どちらかというとあるキャラの顔見せ感が強い。
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posted at 01:27:33
井上ひさし「十二人の手紙」読了。キャバレーのホステスになった修道女の身も心もボロボロの手紙、上京して主人の毒牙にかかった家出少女が弟に送る手紙など、書簡のみで構成された十二編の短編にエピローグを付け加えた、仕掛けの書簡小説集。
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posted at 16:30:16
本作に収録された十二編全てが必ずしもミステリとは限らないものの、そのうちの幾つかはミステリ的などんでん返しであっと驚かせてくれる。中でも最も人を食っているのが酒乱の父を抱えた娘がある日突然金持ちの紳士に見初められる「玉の輿」で、最後に書かれた作者の注釈には唖然とさせられる。
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posted at 16:31:39
その他、二転三転する強盗殺人の顛末を描いた「鍵」や推理作家を殺害する周到な計画に皮肉なオチがつく「里親」も捨て難いが、何と言ってもミステリをやりつつも十二の物語を綺麗に纏め上げたエピローグが素晴らしい。本作はミステリ読みの琴線に何かしら触れるであろう遊び心に満ちた短編集である。
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2013年02月23日(土)
伯方雪日「ガチ! 少女と椿とベアナックル」読了。プロレスラーだった父の急死と少女連続殺人事件。一見何の関連性もないと思われた二つの出来事が繋がっていることに気付いた時、父と友人を失った女子高生・つくしは父を尊敬していた若手レスラー・吉野と共に真相を暴くため、闘うことを決意する。
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posted at 14:58:00
前作「死闘館」から約三年ぶりの本作は、少女の敵討ちと若手レスラーの成長要素を盛り込んだ、作者らしいプロレス本格ミステリ。一見何の関連性もない二つの事件が実は……という話はミステリの定番ではあるものの、少女連続殺人の必然性が些か弱い気がする。
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posted at 14:58:17
一応、犯人の正体を捻っている点は評価できるものの、それを特定する根拠がいまいちピンとこない。また事件の構図自体もミステリ慣れしている人が読めばかなり早い段階で気付くのではないだろうか。むしろ本作で秀逸なのは、主人公たちが事件の真相を暴くために仕掛けたある策略の方だろう。
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posted at 14:58:36
仕掛けとしては過去に一度作者が使っている手ではあるが、これには全く気付かなかった。加えて本作は作者の作品では最も物語としての完成度が高いため、ミステリをあまり読まない層にもお勧めできる作品ではあると思う。
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posted at 14:58:53
2013年02月25日(月)
種村直樹「日本国有鉄道最後の事件」読了。分割民営化を翌年に控えた初冬、中京旅客鉄道会社の会議に出席するため、東京駅から〈ひかり41号〉に乗り込んだ要人三人。だが、名古屋駅に着いた時、三人の姿はどこにもなかった……。この不可解な謎に愛知県警きっての切れ者・高杉警部が立ち向かう。
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posted at 17:45:45
粗筋だけ読むとまるで高杉警部が主役のように見えるが、どちらかというと本作の主役は犯人グループの方である。早い段階で犯人グループの正体と動機は明かされるが、どうやって三人を誘拐したのか、その一点だけは分からない。故に本作はハウダニットものの倒叙ミステリというのが正しい見方だろう。
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posted at 17:46:18
確かにその手口は盲点をつくものであり、感心する部分もある反面、ミステリとしてみると伏線が不十分なのが残念(ついでにいうとある人物の隠れた繋がりに関しても伏線を入れておくべきだった)。しかしながら事件自体はよく練られているので、フェアかどうかは気にせずに読むことをお勧めしたい。
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posted at 17:46:40
黒田研二「青鬼」読了。町外れにある巨大な洋館〈ジェイルハウス〉。今は廃屋となっているこの館にはある噂があった。曰く、ここには化け物が棲んでいる。一度忍び込んだら二度と戻ってこられない――そんな〈ジェイルハウス〉にひょんなことから忍び込んだ六人の中学生を待ち受けていたものとは……?
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posted at 22:36:09
本作は同名の人気フリーゲームのノベル版ということだが、あとがきによると内容はあくまでゲームの世界観を活かしたオリジナルらしい。ミステリ作家である作者がモンスターホラー物を料理したらどうなるのか気になって読んでみたが……結論から言うと実にクロケンらしい内容だった。
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posted at 22:36:56
案の定ミステリ的仕掛けが凝らされており伏線は極めてフェアに張られている。しかしながら本作を読むメインの読者層に合わせたためか仕掛けの難易度は低くミステリ読みであればすぐに気が付いてしまうに違いない。とはいえどんな作品であろうとミステリマインドを忘れない点はさすがと言うべきだろう。
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posted at 22:37:20