麻里邑圭人
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- 現在地 涅槃
- 自己紹介 ミステリ初心者。非実在探偵小説研究会所属。 【好きな作家】飛鳥部勝則/梶龍雄/殊能将之/早坂吝/麻耶雄嵩 【好きな作品】「カルロッツァの翼」「殉教カテリナ車輪」「竹馬男の犯罪」「翼ある闇」「魍魎の匣」 【好きな映画】「キルビルVol.1」「サスペリア」「サンタ・サングレ/聖なる血」「ダークナイト」「リベリオン」
2013年07月01日(月)
日下圭介「賢者の陰謀」読了。東北でローカル紙の記者をしている峻が遭遇した事件を纏めた連作ミステリ。走行中のバスから老人が消えた表題作ほか、UFO騒ぎの意外な真相「UFOの来た夜」、山奥に住む白痴の美女を巡る「雪の底から子守唄」、殺したはずの男が生きていた「元気な死者」の四編収録。
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posted at 16:25:58
新聞記者が主役のミステリというと社会派、もしくはハードボイルド的なイメージがあるが、本作に限っては因習がまだ根強く残っている地方を舞台にしているためか、そういった感じは一切なく、どこか現実離れした雰囲気すらある。
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posted at 16:26:23
それは扱っている事件に関しても同様であり、この手の謎はやはり都会よりも田舎の方がよく似合うと再認識した次第。尤も事件の真相自体は途中で読めるかもしれないが、どの話も伏線と小道具の使い方が巧く、読み応えのある良作に仕上がっている。個人的なベストを挙げるなら「雪の底から子守唄」。
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posted at 16:26:51
2013年07月02日(火)
土屋隆夫「天国は遠すぎる」読了。死を誘う歌として話題を呼んだヒット曲「天国は遠すぎる」の詞を遺書に残し、その娘は死んでいた。当初は自殺と思われたが、久野刑事の執念の捜査により次第にある汚職の構図が明らかになっていく。やがて一人の男が捜査線上に浮かぶが彼には鉄壁のアリバイがあった。
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posted at 17:37:04
まず本作をミステリとしてみた場合、メインとなるのはやはり後半のアリバイ崩しだろう。トリックそのものには目新しさはないものの、よくある交通手段を駆使したものではなく心理トリックに重点が置かれている点は、アリバイ物が苦手な自分としては好印象。
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posted at 17:37:22
ただ個人的にはアリバイ崩しよりもむしろラストに用意された、ある仕掛けの方に意表をつかれた。正直お勧めするには気が引けるくらい地味な内容だが(爆)幸い読みやすくはあるので、気が向いたらラストの仕掛けだけでも楽しんでほしいと思う。
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posted at 17:37:40
2013年07月03日(水)
土屋隆夫「赤の組曲」読了。東京地検の千草検事はある夜、大学時代の旧友・坂口から失踪した妻の捜査を頼まれる。昨年、悪質な轢き逃げで愛児を失い、焦燥しきった坂口に深く同情した千草は捜査を引き受けるが、それが彼を窮地に追い込む赤に彩られた難事件の前奏曲になろうとは夢にも思わなかった。
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posted at 16:25:20
テーブルクロスに血で書かれた三つのゼロ、信州の温泉宿で発見された赤いネグリジェ、そして赤い日記帳――本作はタイトルに組曲とあるように、全体の構成が交響楽と同じ四部構成となっており、各章ごとに事件の様相が次々と変化していく様が非常に面白い。
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posted at 16:25:41
それでいて最後まで決め手を一切与えず、残り30頁を切った所でたった一つの事実から全ての謎を解き明かしてしまう技巧ぶりには流石と言うしかない。何よりも驚いたのが本作が書き下ろしではなく連載だったことで「出来は余りよくなかった」という作者の謙遜が憎らしく思える程良くできた秀作である。
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小島正樹「硝子の探偵と消えた白バイ」読了。警視庁の管理官・幸田が乗る車を先導していた白バイが運転していた警官と共に消失。その後、ビルの屋上で射殺死体となって白バイと一緒に発見された。この不可解な事件の解明に繊細な心と明晰な頭脳を併せ持つ「ガラスの探偵」こと朝倉が乗り出す。
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posted at 21:27:48
トリックを詰め込みまくる作風で知られる作者の新作は帯の言葉を借りるなら『スリルと笑いの新「探偵物語」』とのことだが、結論から言うとその言葉通りの内容とは言い難い。というのもスリルと笑いをやる前に次々と起こる事件の状況説明に手一杯で、頁数の短さが完全に裏目に出てしまっているのだ。
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posted at 21:28:05
詰め込まれたトリックにしても有機的に繋がっているとは言い難く、この物語ならではの仕掛けになっていないのが残念。とはいえ一部のトリックは映像で見てみたいと思わせるものがあり、もし次回作があるならスリルと笑いをきっちりやりつつ、この物語ならではの仕掛けを見せてほしいと思う。
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2013年07月04日(木)
島田一男「夜の指揮者」読了。南伊豆の漁村の有力者である去来家で次々と起こる怪事件。まず最初の死者は風呂場から首吊り死体で、第二の死者は密室状態の浴室から射殺体で発見される。そして更に第三の事件がまたもや密室で……。事件に巻き込まれた南郷弁護士は犯人を突き止めることができるのか?
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posted at 18:28:13
南郷弁護士シリーズの本格ミステリに分類される作品。トリック自体は差ほど目を惹くものはないものの、細やかな伏線と練られた設定で魅せてくれる。特に設定の活かし方では第二の事件が秀逸で、ラストの捻りも○。軽快で読みやすいので、気軽に本格ミステリを楽しみたい人には向いているかもしれない。
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2013年07月07日(日)
土屋隆夫「影の告発」読了。始まりはデパートのエレベーターの中で男が毒を注射されて殺害された事件だった。手掛かりは男が最期に言い残した「あの女」と現場近くに落ちていた一枚の名刺。やがて被害者を取り巻く死の連鎖が明らかになっていくにつれて二つのアリバイの壁が千草検事の前に立ち塞がる。
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posted at 15:51:18
各章の冒頭に挿入される、謎の少女のモノローグ。それと平行して千草検事を始めとした捜査陣の地道な捜査が語られていく本作は言うなればロマンチシズムとリアリズムの共演ともいうべき傑作である。但しこの傑作というのはあくまで小説としてのものであり、ミステリとしてみるとまた評価は違ってくる。
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posted at 15:51:34
というのも本作には二つのアリバイトリックが出てくるが、一つは盲点をついたというにはあまりにギャンブル性が高いものだし、もう一つの方にしても今となっては定番過ぎて驚きは全くない。むしろ本作はトリックよりも被害者の過去に絡んだ、一人の少女の悲劇性に注目して読むと楽しめる作品である。
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2013年07月08日(月)
泡坂妻夫「煙の殺意」読了。大火災の実況中継にかじりつく警部と心弾かれる死体に高揚する鑑識官コンビが殺人現場に残された手掛かりから意外な真相を導き出す表題作を始め、出所して間もない男が花見客で賑わう公園で知人と鍋をつついたことから奇妙な現象に気付く「紳士の園」など八編を収録。
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posted at 17:50:39
美術ミステリ、奇妙な味、倒叙物などバラエティに富んだ八つの短編を収録したノンシリーズ作品集。故に短編によって好き嫌いが分かれるかもしれないが、逆をいえばどれか一つはハマる短編があることだろう。
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posted at 17:50:50
個人的に惹かれたものを挙げるなら表題作と「紳士の園」、それに十五年前のバラバラ殺人と瓜二つの事件が起こる「開橋式次第」で、いずれもホワイダニットを際立たせるための設定が秀逸。あと「紳士の園」で出てきたスワン鍋が食べたい。←
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2013年07月09日(火)
岩崎正吾「ハムレットの殺人一首」読了。土地開発の嵐で孤立した名門・山王家の人々に次々と届く百人一首の札は殺人予告なのか。一人はバネ仕掛けの罠で逆さ吊りに、また一人は空中から河原に落下して死に、傍には百人一首の札が置かれる。友人の招きで山王家を訪れた舞台俳優・多岐の推理やいかに。
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posted at 18:13:42
本作は新本格推理と銘打ってあるものの、所謂新本格作品と同じイメージで読むと激しく違和感を覚えるに違いない。というのも本作にはこれといって目を惹くような仕掛けがないばかりか、最後に指摘される犯人にしても構成でそう思わせているだけで論理的に絞り込まれるわけではないからだ。
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posted at 18:14:08
故に本格ミステリとしてみるとかなり微妙だが「ミステリも小説なのだから、良い文章で世態、人情、風俗をきちんと書くことを目標にしています」と語る作者だけあって事件を通して人間を描くという点に関してはなかなか読ませるものがある。あくまで本作は本格ミステリ風小説として読んだ方が吉だろう。
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posted at 18:14:24
2013年07月11日(木)
笹沢左保「逆転」読了。連続婦女暴行事件がやがて殺人に発展する「九人目」、愛する男にかかった強盗殺人の嫌疑「清志を返して」、職人気質の刑事の意地「馬鹿野郎」、想いを寄せる女を暴行された男の苦悩「さよならを、夜景に」、刑事たちの目の前で起きた完全犯罪「透明の殺意」の五編を収録。
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posted at 18:11:50
本作はタイトルにもあるように逆転をテーマにした短編集だが、必ずしも結末の意外性に特化した短編だけが収録されているわけではない。とはいえ五編中三編がそれ系であり、中でも最も鮮やかに決まっているのは作者自身、意外性に力を入れたという「清志を返して」だろうか。
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posted at 18:12:10
また様々なアイディアを盛り込みつつ、完全に読者が油断したところにサプライズを仕掛けた「さよならを、夜景に」もいい。その他「九人目」もロジックの弱さはあるものの、意外性を何よりも重視した作者の意気込みは買いたい。
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posted at 18:12:30
2013年07月12日(金)
笹沢左保「宿命」読了。殺人の時効を目前に控えた女「十五年は長すぎる」、何気に蹴った石によって運命が狂った男「墓場の存在」、男子高校生が犯した動機なき殺人「クリスマス物語」、最果ての地で出会った男女の悲劇「サランパ国境の町」、心中した娘から判事の父に届いた手紙「卍の眼」の五編収録。
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posted at 14:25:44
本作は宿命をテーマにした短編集だが、どちらかというと運命の悪戯と言い換えた方がしっくりくるかもしれない。収録作はミステリというより小説として読ませるものが多く、逆にミステリとして読むと「クリスマス物語」なんかはかなりモヤモヤすることになるだろう。
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posted at 14:25:55
収録作中、最も運命の悪戯度(?)が高いのは「卍の眼」で、作者の仕掛けたサプライズがより悲劇性を高めている。作者が追求するテーマの一つだけあって、様々なバリエーションの運命の悪戯が楽しめる作品集である。
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2013年07月13日(土)
土井行夫「名なし鳥飛んだ」読了。戦後間もない新制高校で起きた連続殺人。新任教師の小谷真紀ことオタヤンが日直の日に校長が青酸カリで毒殺されたのを皮切りに、学校の教師たちが次々と謎の死を遂げていく。事件の鍵を握る「名なし鳥」とは一体何者なのか。第3回サントリーミステリー大賞受賞作。
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戦後間もない舞台と渾名で呼ばれる登場人物たちから一部で梶龍雄っぽいと称される本作だが、梶龍雄の書くその手のミステリと比べると著しく童貞臭が足りない(爆)。加えて怒濤の伏線回収も構図の反転もないけれど、その時代ならではの設定を活かしたミステリとしてはよくできていると思う。
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posted at 16:28:09
何よりも登場人物の一人一人が生き生きと描かれており、故に事件を通して見えてくる各キャラの行動にもちゃんと説得力がある。これといったトリックやロジックはないものの、その時代の匂いを感じさせてくれるミステリを読みたい人には打ってつけの作品と言えるだろう。
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